空席の隣人

□体力がないなら乗り物を作ればいいじゃない
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「一時間ほど前、メルディ様宛にお荷物が届いておりましたので直接お届けに参りました。……が、しかし、申し訳ございませんが、その箱の中身を確認させていただいてもよろしいでしょうか? それがもしもまた危険物だった場合……」

「大丈夫、『NAIRU』のやつだから。わざわざ届けてくれてありがとう。あと、悪いんだけど、これも頼んで良いかな。シェフに渡してくれるだけで良いから。じゃ、よろしくね」

 メルディが武器開発機構部の隊員から受け取ったのは、昨夜部屋のパソコンで世界的に大手なインターネット通販会社の『NAIRU』に注文した品である。それをなぜ、武器開発担当の隊員が届けたのかは定かではない。ただ、彼の口ぶりからは以前彼女へ届けられた荷物の中に危険物が含まれており、その被害は絶大であったということが伺えた。そして、その一件のせいで、彼女が隊のブラックリストに含まれているということも。事の発端は危険物を送ってきた人間だが、宛先はメルディで監督不行き届きのため、三ヶ月間ただ働きと完全自室謹慎という独立暗殺部隊ヴァリアーにしては軽い処分が下された。危険物はその後メルディへ届くことはなくなったのだが、先ほどのように隊員が荷物の中身を確認するべきだという申し出が増えた。メルディはその都度、大丈夫と言って断るが、その帰り際に心配そうな不審そうな顔をされるのがオチである。本当に不審に思うべきことは、彼女宛の荷物などではないというのに。











 今朝まで部屋の中で響いていたのは、迫り来るゾンビとの戦いの激しさを語る銃撃音だった。が、現在は金属と金属がぶつかり合う音、つまり金属音が部屋に響き渡っていた。その音は、建物を建設する最中の工事現場で聞く音の類いだった。彼女の部屋は他の部屋と同じように特別な防音加工が施されているわけではないため、その音は部屋の扉を隔てた向こうの廊下にも響いている。メルディの部屋の前を通りかかる各々が何事だ。今度は一体何をやらかしていると思い、彼女の部屋を一度は訪れた。しかし、誰の問いかけに応えることなく、その扉は一度も開かれなかった。
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