ほん 2

□永遠
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彼は顔を私に向け、片方う腕を上げると私の頬を撫でた。

「前川くんの嘘つき」


未だに手当をしつつ、彼にそう言うと顔を顰めた。そして手当をしている方の腕で私を押し倒した。



「ありさ、本気で言ってんの?」

先ほどとは違う、甘いテノールで私を名前で呼ぶのは怒っているとき。

思えば、何故彼と暮らすようになったのだろうか。近づいてくる前川くんの顔を見ながら、ぼんやりと考えた。




精神的にぼろぼろになっていた私は、小さな公園に逃げていた。
親からの虐待で人間不信になり、友だちも誰も信じられず、自傷行為に浸った。
誰も私がこんなに悩んでいるのも、傷ついているのも知らない。
でもそれは、私が悪いから仕方のないことだ。
死にたいわけじゃない。消えてしまいたいだけだ。そう思っていると、珍しく人が公園に入ってきた。

正直どうでもよかった。しかしあまりにも、美しすぎるその容姿に見とれてしまった。


180cmはあるであろう身長に、小さな顔は、モデルをやっているのだろうか。いや、そもそも同じ人間なのだろうか。

ぼうっと考えながら、彼を見ていたが、彼は私よ方へ歩き始めた。

そりゃ気分悪くなるよね、そう思って彼のことを見たり考えるのはやめようと思い、ブランコを漕ぐ。



「ねぇ」

 低めの声なのに、よく通る声で私は彼に顔を向ける。やはり同じ人間とは思えないくらいの美しさを持っている。
 
 彼の次の言葉を待っていると、色気のある唇がゆっくりと弧を描いた。


 「君は可哀想だね」

 「え…」

 「虐待もされ、人間不信になっているのに、嫌われることの方が耐え切れないから、無理矢理笑顔をつくっているんでしょう?しかも、そんな自分のことを誰も知らない、こんなにも頑張っているのにン、悩んでいるのに、苦しんでいるのに」


 淡々とした口調で、全てを言い当てられたことに気味悪いとは思った。しかし、私は彼に何かを期待した。


 「でも、俺は知っているよ、全部」

 彼はにっこりと微笑み、両腕を広げた。

 


 「おいで、ありさ」

 
 前川くんは私を一途に愛した。何時も私に愛を囁いた。慣れずに反発したこともあったが、それでも彼は愛をくれた。

 高校に入る頃には、いつの間にか前川くんと暮らし始めた。ボロいアパートでも私は前川くんと一緒に居られることなら嬉しい。

 「ここが誰にも邪魔されない、唯一の場所なんだけど、ボロいのはやっぱ嫌だよな」

 「ううん、いいよ」

 「んー…こっちのマンションでもいいけど…」

 前川くんは高級マンションがたくさん載っているサイトを見せた。


 私は首を横に振った。高級マンションなんて私には似合わないし、ボロくたってそこに前川くんが居てくれたら、それでいいのだ。

 「前川くんがいてくれるなら、ここでいいの。…ううん、ここがいい」

 「そっか。…そうだな、俺もありさと一緒なら何処でもいいよ」

 
 前川くんは微笑み、私の頭を撫でた。そうして私を抱き寄せると、そう言った。
 
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