短編集
□いいパートナー
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「おはよーございます」
「おはよう」
「あ、おはようございますリリーさん、スティーブンさん」
朝、スティーブンと一緒に出勤するとレオがもう来ていた。
ザップはいないのか…、珍しいな。
「さて、今日も仕事頑張ろう」
「ほどほどにな?」
「アンタには言われたくないね」
執務室に入り今日中に終わらせないといけない案件や、急がないけど近日中に緊急案件になりそうなものから優先的に処理していく。
私はさすがに戦うことは(今のところ)できないからこういうところでスティーブンの負担を減らして、ライブラ全体に恩返しするしかない。
「あー、リリー。コーヒー淹れてくれ」
「了解。いつもどおりブラックでいいよね」
「ああ」
席を立ってコーヒーを淹れに行く。
そこらへんの技術もギルベルトさんに伝授された。
明日の生活に困ってもやっていけるような技術は身に着けている。
というか、無理やり身に着けさせられたしね。
たぶん、スティーブンは私に普通に生きれるよう準備してたんだろうなぁ。
希望的観測にすぎないけど。
「ほい、淹れたよー。豆は最高級のが手に入ったから普段より美味しいはず」
「いつもリリーが淹れるコーヒーは美味いよ」
「そういってくれるとうれしいなー。さて、こっちの書類終わったから確認お願い」
「ん。仕事が早くて助かる」
「ここは事務ができない人が多すぎなんだよ。それ専用の人雇えばよかったのに…」
「経費が無くてね…、それを交渉するのも俺の仕事だろ? 仕事を減らすために仕事を増やすのはどうかと思ってな」
「さいですか」
それからは無言の時が流れる。
当たり前だ。事務をしているのだから。
スティーブンのペンがすべる音と私のパソコンのキーボードをたたく音とが断続的に続く。
「はぁ!?」
「!?」
そんな時、いきなりスティーブンが大声を上げたものだから、こっちまで驚いてしまった。
「どうしたの。大声出すなんて珍しい」
「いや、その…。今度潜入捜査に行くことになってることは話したよな?」
「うん、明日から準備して明後日の晩にあるパーティーに潜入するんでしょ。で、レオが女装してスティーブンの妹に扮する、だったっけ?」
「ああ、それなんだが…。上から命令が来てね」
スティーブンがひらひらと書類を掲げているあたりあの書類によほど衝撃的なことが書かれていたのだろう。
…クラウスさんが女装するとか…?
いや、我ながらおかしな発想だわ。
疲れてるのかな。
「君を少年の代わりに連れていくように、と…」
「え、それって私がアンタの妹の役して堅苦しいパーティーに出席しなくちゃいけないってこと!?」
「そうなる」
無理無理、最近ちょっと太ったからドレスなんか着られない。
というか着たくない。
あれって総じて露出が高いものが多いじゃん。
「まじか…なんで私? 一応それらしい名目があるんでしょう」
「万が一僕を含めたメンバーがケガをしたときそのケガをすばやく直し、戦闘などに支障が出ないように、だってさ」
「心配しなくてもケガしないでしょう!! どんだけ牙狩りはスティーブンたちのこと甘く見てるの!?」
「いやいや、君が言った通りそれらしい名目だって。本当は君が実践で使えるか知りたいんだろう。ただでさえ治癒能力を持った者は少ない。それが歴史的にも稀に見る能力者だからさらに、ね。僕としても君を危ない目に合わせたくないんだけど」
最後の言葉が心からか、その場のノリかはおいておいて、少しうれしいと感じてしまった私はきっと疲れてる。
この人の言葉にキュンとしちゃったとかもう絶望的に疲れてるに違いない。
よし、休もう。
それにしても
「今更ね」
「確かに、今更だ」
ライブラに入る前から危険は私について回った。
私は希少種だったから。
そしてそれはこれからも変わらない。
「いいわ、どうせ命令なら仕方ないもん。今日ミーティングするんでしょ。私も混ぜてね」
「ああ、もちろん」