短編集

□悪女?
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おまけ〈その日の夜〉



「で、うまくいったのかい? 悪女さん」
「悪女なんてひどいわね。スティーブン。女なんて大体悪女だわ。あ、チェインは違うけど」
「K・Kは否定しなくていいのかい?」
「K・Kは言わずもがな、よ」


視力を失った彼女は心底嬉しそうに笑った。


「にしても、責任感を利用して手の中に閉じ込めるとはなぁ。うまいこと考えたじゃないか」
「でしょ? ツェッドは普通に告白してもダメな感じがするもの。頭を使わなきゃ」


自分自身の不幸も使って、か


「とんだ悪女だ」
「自分の境遇、容貌を最大限に使うのは貴方の十八番でしょ? そんなあなたに言われたくはないわね」


その言葉に確かに、と思ってからふと思った。


「素直に告白すればよかったんじゃないか」
「だって、素直じゃないんだもの」
「それは、ツェッドが? それとも君が?」
「さあね」
「まぁ、ともあれ視力はどうなるんだい」
「取り戻すわよ。だって一生ツェッドの顔も見れないなんて嫌だもの。文献をあさりまくるわ」
「漁っても見えないだろう?」
「そこは、よろしく頼んだわよ」
「結局人任せか」
「フフ、わかってて聞いたんじゃないの?」
「ツェッドがかわいそうになって来たよ」
「ツェッドじゃなくて自分が、でしょ?」
「違いない」


彼女は視力を失ったというのにとてもうれしそうに笑った。

病室には本来アルコールの類は持ち込み禁止だが、特別に、ワインを持ってきた。


「乾杯しようか」
「そうね。さしずめ、私とツェッドの進展を祝って、かしら」
「ハハ、そうだな。じゃあ、リリーとツェッドの進展を祝って、乾杯」
「乾杯!」


夜はまだまだ長い。
きっと僕はこの夜中惚気話を聞かされるに違いない。

まぁ、それでもいいかな、なんて思うのは彼女との付き合いが長く、僕自身が彼女の幸せを願っているから、かな?
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