Novel

□Beauty and the Beast
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暗い森の中をシャロットは走り抜ける。
門番が●●に慌てて何か声を掛けたが、それにも構う余裕もなく、●●は門を飛び出してきた。
村から一歩出れば森までは一本道だった。その先は枝分かれしているが、どちらの道も隣の村へ繋がっている。わざわざ森深くへ入り込まない限り、続く道の何処かに弟は居るはずだった。行き違いにならないことを祈りながら●●はシャロットと駆ける。冷たい雪が頬を打ち、日が落ち凍り始めた獣道は逸る気持ちと裏腹に、つるつると速度を奪う。

ウォ〜ン

狼達の鳴声が聴こえる。
群れで獲物を探すように夜道をうろついているのだ。作物が減って鹿も減り、近頃は人の住む村まで近づく群れも出てきている。まして森は彼らの住処。縄張りの渦中に飛び込んできた美味しそうな獲物に、その嗅覚は反応した。

きらりと光る眼に狙いを定められた途端に、数匹シャロットに並走して狼たちは追い纏わってくる。

「シャロット!は、早く!」

(狼は狩りを諦めやすい動物だとも聞いたわ…大丈夫…逃げられる…そしてあの子も無事だわ)

ドクドクと激しく波打つ心臓に手をあて、祈る気持ちでシャロットにしがみつく。

ヒヒン!

真正面から飛び出してきた狼がシャロットの足元にぶつかる。

「あっ!」

途端に●●の身体が投げ出された。

「…っ」

落ちた所はフカフカした積雪の上だった為、骨折は免れたようだったけれど、全身を強く打付けた痛みで身体が動かない。おまけに倒木で足を深く切ったようだった。

切れた血の匂いに興奮を覚えたのか、獰猛な瞳を向けて獲物に群がる数匹の狼達。

(ダメ…こんなところで死ぬわけにいかない…のに)

そう思ってもビリビリと身体じゅうを走る痛みが逃げ出す術を奪う。


―意識を手離しそうになった瞬間、

ギャインッ

●●にまさに飛び掛かろうとしていた一匹の狼が後方に吹っ飛んだ。

(なに…?黒い…影?)

ぼやけた視界の先には、喉元から血を流した狼がキュウンと弱弱しく鳴き横たわっている。
一瞬の出来事だった。


それは気配もなく近づいて…

「きゃっ!」

ぐいっと身体が浮く。
驚く間もなく木の上へと引きずりあげられる。

グルルル

獣の鳴き声が首元、すぐ背後で聴こえる。
「やっ…!はなしてっ!」
何かに襟元を咥えられ、木の上まで引っ張り上げられたのだ。
後ろを振り返ろうにも枝にしがみ付いて落ちないようにするので精一杯だった。

一匹が酷くやられたことで狼たちは怯えたように去っていく。
シャロットはこちらを見上げたまま、ヒヒンと不安げに鳴き、耳をパタパタと動かしていた。

狼達が去って行ったことで、ようやく自分を引っ張り上げた獣を見ようとすれば、それは先日の見慣れない黒い獣だった。
傷ついていた足には誰が手当てを施したのか包帯が巻かれていた。

「あなたは…あっ!」

そう言った途端に、枝から足を滑らせてしまう。

「シャロット…ヤマト…」

●●は小さく呟き、背中にドスンという衝撃を受けたまま、意識を失った。




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