Novel

□Sailing day
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「ふぁ〜・・・ねみー」

「チッ。俺には海図の解読があるってのに・・・」

「はい、二人とも。サボらずに掃除するんだよ?悪いことをしたのは誰かな?」

「ソウシさん。そもそもアレはシンから喧嘩をふっかけてきたんすよ」

「コイツが悪い」

俺とハヤテは睨みあったまま互いを指さした。



船長の楽しみにしていた酒瓶を割った罰。
として、俺とハヤテは船長に早朝から倉庫の掃除をするよう言いつけられた。

掟通りに朝まで呑み続けた後だってのに、めんどくせえ。

ドクターいわく、他のことにはルーズな船長だが、酒を粗末にするヤツにはとことん厳しいらしい。


やはりこういうバカに絡むとロクなことがない。
重々わかっていたはずなのに、つい相手をしてしまったのは迂闊だった。


「ふふっ。・・・にしても二人とも、イイ顔だね。若いって証拠かな」

ドクターが俺とハヤテを見比べて笑った。



俺とハヤテの顔にはうっすらとアザができていた。
互いに殴ろうとして、ほとんどが交わし合いだったが、偶然当たった数発分だ。

ドクターが処置をしてくれたが、ハヤテの馬鹿力のせいで、触ると少し痛みは残る。
腹立たしいから痛いなんて口が裂けても言わないが、ハヤテも同じなのか、時折頬を押さえている。
が、俺と目が合うと「ぜんっぜん何ともねえし!」と聞いてもいないことを喚く。


・・・・そういえば、アザなんてつくったのは何時ぶりだろうか。
今まで危険な場に出会うことは幾つかあったが、この顔にアザをつけるほどのヤツに出会うことなんてなかった。
一方的に俺の優勢で相手は膝をついていて赦しを乞う。
そういうケンカしかしてこなかったな――



「なに、ガンつけてんだよ?」

「フン・・・」

退屈続きだった航海も、この船では少しばかり愉しめそうだ。

「ちぇっ。さっさと終わらせちまおーぜ」

「船長も本心では船に活気がでて嬉しいだろうけど、飲み物を粗末にした罰は罰、だからね。私も手伝うから、さぁ、みんなで掃除を頑張ろう!」

ドクターがモップをかけながらにこやかに言う。

飲み物を粗末にと言われても・・・そもそもドクターが突然大きな声をあげたことで間抜けなハヤテが酒瓶を落としたんだ。なんで俺まで掃除の罰を受けなければならねーんだ。

とツッコミたいが、ドクターには余計なことを言わない方が利口だろう。
それにどっちみち、この汚い倉庫は気になっていたしな・・・
そう判断した俺は言葉を飲み込んで、倉庫の荷物整理を始める。



「おい。雑巾を振り回すな。水が飛ぶ」

ちゃんと絞っていない雑巾をハヤテが振り回し、水が飛んでくる。

「いーじゃねえか。水気が飛んでこっちのがラクだし。いちいち気にすんなよ。細けーな」

何でコイツはこんなに雑なんだ。

俺は手に持っていたモップをわざとハヤテのブーツに当てる。

「何すんだよ?!モップが俺の足にあたってるだろ?!」

「汚れかと思ったんでな」

「・・・!ったく!なんでお前はそんな皮肉たっぷりの言い方しかできねーんだよ、可愛くねえ!」

「バカか。お前に『可愛い』なんて思われても気持ちわりぃ。吐き気がするだけだ」


「ほらほら!またケンカしないの。すっかり二人とも仲良くなったみたいだけど」


「はぁ?!ンなわけないっす!!」

「ドクター。一体、誰が誰と仲が良くみえるんですか?」

「ふふっ。でも息ピッタリじゃない?」

ドクターが愉しそうに笑う。

「さすがハヤテだね。シンも船に馴染んでこれたみたいだし」


馴染んだ・・・?

俺が怪訝な表情になったことにドクターが気付いて、付け加えた。

「私たちは仲間になったんだから、遠慮せず頼ってくれていいんだから」

「頼る?俺は別に・・・」

頼る相手なんて必要ない。
ずっと一人でやってきたんだ。
これまでも、これからも。

「ソウシさん。シンに言ってもムダっすよ。コイツ、協調性とか素直さとかカケラもねーし」

「フン、協調性の意味が解ってて言ってるのか。お前こそ共同生活に向くタイプに思えねーが」

「ついでにセンパイを敬う気持ちもねーし!」

「敬うに値しないヤツを丁寧に扱うほど、人間デキちゃいないんでな」

「ほら、口より手を動かして。片付けが終わったら朝食だから。今朝はお粥だっていってたよ」

「やりー!ナギ兄のオカユ!こないだ初めて食ったけどダシが効いてて、飲み明かした朝に最高なんだよな〜。よし!あと一息だ!」

メシにつられてハヤテが急にやる気になる。

鼻歌まで歌い始めて単純なヤツだ。



さすがに三人で片づけると、あっという間に随分と綺麗になった。

「さて。私は先に行ってるから、そうじ道具の片付けを頼んだよ。くれぐれも喧嘩しないようにね」

ドクターが出て行ったあと、倉庫でハヤテと二人になる。
黙ってモップをしまっていると、ハヤテが突然口を開いた。

「あのよ・・・」

「何だ?お前はゾーキンを片付けろ」

「片付けろ、って何でお前そんなエラソーなん・・・っじゃねえ。そういうことが言いたいんじゃねー」

急にモジモジし始めて、気味悪いヤツだ。

「だから何だ?ハッキリしないやつだな」

「うるせー!悪かったな、って言ってやろうと思ってたんだよ!!」

「・・・・・・掃除で頭がおかしくなったのか?」

「チッ。人がせっかくシタテに出てやってんのに」

「それがシタテに出てる奴の態度か?」

「シンにだけは言われたくねーし!お、オレが謝ってんのは、誰にでも触れられたくねーこととかあるのに無神経だったかなって思ったトコがあっから。
そんだけ!じゃあ、先に行ってっから!」

ハヤテは慌てて雑巾を持ったまま出て行ってしまう。

一方的に詫びを投げられた俺は一人立ち尽くす。

「フン・・・・勝手なヤツだ」

この船には、俺の調子を狂わせるヤツが多すぎる――



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