Novel

□Sailing day
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「確かこの辺で見たんだよなー。おっかしーな」

積み上げられた酒の中でハヤテがゴソゴソと探しているが、全く見つからない。

「おい。まだか?」

痺れをきらせた俺の言葉にハヤテが勢いよく振り向いた。

「『まだか?』っつって、何突っ立ってんだよ?」

「しまってある場所を知ってるんじゃないのか?」

「し、知ってるっつーかオレは見た事あるって言っただけ。つーか、そもそもシンがせんちょーに言いつけられたんだろ?ちゃんと探せよな!」

見た事あるだけのワリに、偉そうに『教えてやるからありがたく思え』とか言ってただろーが。

と言いそうになって、抑える。



「ったく、こんな乱雑に置いてるから探し物もロクにできねーんだ。分類もされてねーし置いてる品物があちこちバラバラじゃねーか」

整理整頓が全く行き届いてない倉庫では、酒瓶一つ見つけるのも手間取る。

船内管理と規律が適当なせいだな―――



「お前は小姑かよ?!男ばっかだしこんなもんじゃねーの?何なら一番下っ端のお前が片付けてもいいんじゃねー?」

「フン・・・」


乱雑な倉庫は気になるが、肉体労働は俺向きじゃない。


「しっかし、ねーな。船長が全部飲んじまったとかってオチじゃねえよなぁ。たしかオレが飲んだ時は半分くらいあったし・・・って飲んでねーぞ!『見た』時だ!」

わかりやすすぎる訂正に、もはや突っ込む気もしない。
こんなバカに付き合うよりも酒瓶をとっとと見つけて戻らねーと。
片っ端から箱を開けるが、どこにも黒い酒瓶は見当たらない。



「お!こんなトコに変なお面みてーのがある。ははっ、誰の趣味だよ。こっちは何だ?宝石?スゲー!デカいぜ」

箱を開けると品物が色々と出てきて、その度にハヤテが酒瓶探しから脱線する。

コイツ、本気で探す気があるのか?

振り返って睨んでみるが、ハヤテが手にしているものは、確かにかなり貴重な代物だった。

「それは海竜の鱗で作られたという古代の面、そっちは海竜の泪と言われる『シーライトブルー』じゃないのか。本で見たことがある」

珍しいお宝がこんな無造作に倉庫に置かれているというのはどうなんだ・・・?


「ふーん。海竜の泪ねぇ」

「有名な宝だ。海賊のクセにそんなことも知らないのか?」

「んだと?」

ハヤテの声色が険しいものに変わる。



「それより酒瓶だ。だいたい、お前は場所を知っているというからついてきたんだろう?・・・チッ。役に立たないヤツだ」

思わず漏れた本音に、ハヤテが俺の胸ぐらを掴んで睨んでくる。

「何だ?」

「何だ、じゃねーよ!今オレのこと、役に立たないっつっただろ?!」

「空耳じゃねーのか」

もめ事を起こすことが面倒で、俺は視線を逸らせた。

こういうヤツに絡まれると厄介な結果にしかならないのは解りきっている。

乗ったばかりの船でモメて降ろされるのは、しばらくはごめんだ。


「だいたいお前、何でずっとそんな態度なんだよ?!」

「そんな態度、の意味がわからねーな」

「上から目線っつーか!バカにしてるっつーか!」

実際バカにしてるんだからしかたねーだろ、と言いそうになるのを抑え、胸ぐらを掴むハヤテの手首を握る。

「離せ」

「チッ。だから、スカしてんじゃねーよ!こんな眼帯なんてしやがってっ」

ハヤテの右手が俺の眼帯に伸びてくる。



ばしっ


「触るな!」

俺はハヤテの手を振り払うと同時にその顔を殴る。



「な・・・殴りやがったな!」

どかっ

避ける間もなく、今度はハヤテが俺の顔を殴った。

重い衝撃が頬を襲う。

「・・・っ馬鹿力め」

多少手加減してやった俺と違って思いっきり殴ってきたのかと思う程、強い衝撃だった。

口のなかに血の味がうっすらと拡がる。



「バカって言いやがったな!」

「バカにバカと言って何が悪い?」

「あっ!シン。テメー、ついに本音を言いやがったな!!」

「ここまで我慢してやっただけ有り難いと思え。本来なら初日に蜂の巣だ」

「それはこっちのセリフだっつーの!オレのほうが強いに決まってんだからな!」

「弱い犬ほどよく吠える」

「んだと?!弱いかどうか試してみろよ?!」

ぶんっ

ハヤテの拳が風をきって顔の真横に繰り出される。

予想外に、早い。

避けたと思えば、足に一発重い衝撃が入る。



「・・・くっ」

俺が避けることを想定して、最初から足に蹴りを喰らわせるつもりだったのか。

それにしても、鉛でもめり込んだかと思う程の一撃に痺れが走る。



「たとえバカでもシリウス海賊団、ってことか」

「バカバカ言い過ぎだっ!へへーん。ざまーみ・・・ぐふっ!」

笑うハヤテの頬を殴り返す。

「いってぇ!っじゃねえ!い、痛くねえぞこんなのっ!!ヒキョーじゃねえか!オレが喋ってんのにイキナリ殴るなんて」

「バカか。ケンカにヒキョーもクソもあるか。最中に呑気に笑って喋ってる方がわりーんだ」

「へっ、ケンカしてるって自覚はあるみてーだ、なっ!!」

そう言うと同時に、再びハヤテの拳が飛んでくる。

俺とハヤテはもつれる様に取っ組み合って、互いを殴り始める。

が、どちらも思うように当てられず激しい攻防の繰り返しになる。



「クソッ。こんな場所じゃ剣も振り回せねえっ!剣で勝負すれば一発でケリがつくってのに」

「なら、勝機は俺にあるようだな」

カチャ。

俺が銃を取り出すと、ハヤテが驚いた顔を見せる。

「オイ。お前マジで武器出してねえ相手に銃を突きつけられるワケ?」

「甘ったれた事を言うな。試合じゃねーんだよ。俺の情けが無ければお前はとっくにこの銃の餌食だ」


俺の構えた銃口はハヤテに向けられている。

実際には発砲するつもりなんてないが、これ以上調子に乗せるわけにはいかない。

どちらが主人か教えておいてやらねーと。


「ふん。『悪魔の航海士』っつーのはあながちウソじゃねーんだな。セーカクわりィのがにじみ出てんぜ?」

「何とでも言え。銃と剣の、俺とお前の明白なレベルの違いだ。土下座でもすれば許してやらんこともない」

「悪役のセリフかっつーの!シンに土下座なんてありえねー。つーか、武器は剣だけじゃねえしっ!!!」

ハヤテが脇にあった瓶を掴んで振り上げた。



黒い古ぼけた瓶が目に留まる。


「おい待て。それはさっきから探していた・・・」

俺の言葉にハヤテが振り上げた瓶を見た。

「げっ!コレだ」

ハヤテが振り上げた腕を慌てて降ろそうとした瞬間――


「こらーっ!!何やってるの二人ともっ!!!」


突然の叫び声が飛んできて、

ガシャン

驚いたハヤテは手に持っていた酒瓶を床に落としてぶちまけた。

床に出来た液体から、ぷぅんと上質な酒の香りが漂ってくる。

黙り込む俺とハヤテの目の前には、長い名前のラベルが貼られていた黒い瓶が無残に砕けた姿で横たわっていた。



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