Novel

□Sailing day
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懐の銃に手を添えた瞬間、
「きゃあっ!乱闘っ…」
叫び声のした方を見ると、運悪く路地を覗き込んだ女が端に居た奴らに捕えられていた。

「騒ぐんじゃねーよ!」
「おい、このままこの女、船に連れ帰ろうぜ?」
俺を消しに来た目的も忘れて、路地の端に陣取っていた男たちは目の前の若い女に気を取られている。


パンッ
「…っ!」
銃声とともに、女を掴んだ男の手が勢いよく離された。
俺の撃った弾丸は男の手の甲にうっすらと紅い血の筋をつける。

「シン、てめー…う、撃ちやがったなっっ」
「先に武器を向けてきたのは貴様らだろう?次は外してやるつもりはない」
脅しをかけると男は少しひるんだ様子になる。

「モテないからって女をさらうのか?どうしようもないバカだな」
「んだと?俺たちは海賊だ。奪って何が悪い!」
「奪うなら名をあげるほどの高価な宝を奪ってみろ。だからお前らはたいしたこと無いヤツばかりだと言ってるんだ。おい女、ぐずぐずするな。とっとと逃げろ」
怯えた顔の女は、よろけそうになる身体を起して逃げ出そうとする。

「待てっ」
逃げようとした女を男たちは再び捕まえ、俺の方に向き直った。
「シン。この女を殺されたくなければ大人しくしろ」
ナイフは俺ではなく、今度は女に向けられる。

「フン。俺にそんな脅しが効くと思ってるのか?女がどうなろうと俺の知ったことじゃない」
そう言いながらも脳内は最善策を張り巡らせる。
いい加減、こいつらの品の無い海賊行為に飽き飽きしていたところだ。

このまま全員撃つか?
女さえ何とかすれば出来ない数じゃない。

銃を構えたまま睨みあっていると――――


「んあ?取り込み中か?」
場にそぐわない間抜けた声が響き、裏口からチャラそうな男が顔を覗かせた。
両脇に女を侍らせている。

「きゃあっ。ナイフよッ」
女たちは怯えた顔で男にしがみつく。
「なんだよ。たまには裏口で楽しもうかと思ってたのに先客か」
男は動揺するでもなく残念そうな声をあげた。
「だっ、だから店から出るのはよしましょうって言ったじゃない」
「そーだな。仕方ねえ」
男はあご髭を撫でてから諦めた声を出し、再び店の中に入ろうとして、ナイフを手にした主犯格のヤツに呼び止められる。
「おいお前!戸口にいた俺たちの仲間はどうした?!」


「あのデカい男か?通してくれねえからどかしたんだが、そこで寝てるぜ」
見ると船で一番デカ男が完全に伸びて意識を失っている。
アイツはかなり馬鹿力な男のはずだ。
この男もそれなりにガタイは良いが、倍以上の体格差でこの短時間に伸したってのか…?

「俺達の仲間にナニしやがる!!お、お前もまとめて片付けてやる!」
「邪魔だからどかしただけだって言ったろ?はぁ〜しょうがねえな」
チャラい男は溜息をついてから、場にそぐわないほど甘く隣の女達に囁いた。
「すぐ行くから、ちょっと店の奥で待っててくれ。」
「わ、わかったわ」
「早く来てね」
女達は慌てて店へ戻っていく。

コイツらがこの男に気を取られている隙に――

ザクッ

女を人質に掴んでいたヤツの腕に勢いよくナイフを投げると、呻き声をあげてしゃがみこんだ。

「ぐぅッ…」
「おい、とっとと逃げろって言ってるんだ!」
もう一度人質になっていた女へ叫ぶ。
腰が抜けているのか、女はへたへたとしゃがみこもうとする。
「チッ…世話がやける」

ドンッ

女の背を思い切り押すと、女はすぐそばの大通りへと転がり込んだ。
這うようにして女は逃げ去って行った。




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