Novel
□エピローグ SHINside
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「ほんとにごめんなさい!」
「レオ君もうあやまらなくていいよ。ちゃんと自分から返しに来たでしょう」
「ヤマトの近くの島に宝が眠ってるっていう伝説があるんだな」
レオの視線の高さまで屈む。
まっすぐに目を合わせると、
「はい。島の長老が言ってました 確かにその島には宝があるって」
揺るぎない答えが返ってくる。
ヤマトの美術品は精巧で珍しい物が多く、伝え聞く有名なものは少ないが、まだまだ知られていない逸品も多いだろう。
詳しく調べる価値は大いにある。
「わかった。旅をしながらその島について調べてみる」
「え?」
レオが目を丸くする。
「そしてもし宝が見つかったら、それをトゥーラ島のために使うと約束しよう」
「シンさん…!」
レオにぎゅっと抱きつかれた。
「だからお前も挫けず生きるんだぞ。大事なものを守れる強い男になりたければ、しっかり知識をつけて、ちゃんと大きくなれ。」
「は、はい!」
●●と帰り支度をしていると、
「帰るのか?」
ロイが湧いてきた。
往来で裸になったせいか、若干鼻声だ。
「ああ。今から港にむかう」
「モルドーに残るのか?それとも船に戻るのか?」
「船に戻ることにした」
「ふーん…じゃあその子だけ置いてくってのはどうだ?」
「馬鹿かお前は。愚問だ」
まっすぐ睨みあう。
「仕方ないだろ。真珠ちゃんが振り向いてくれないんだから!どうしても手に入れたいんだよ!」
「あいにく俺もコイツじゃなきゃ駄目だから」
「フン、かっこつけやがって!!」
「まぁ、コイツも俺じゃないと駄目だしな」
ボッと火がついたように赤くなる●●の腰に片手を廻して、引き寄せる。
「う、うらやましくなんかないぞ!!むっつり眼帯!!」
「お前には100万年たってもわたさねーよ」
「そうかわかったよ。諦めりゃいーんだろ
真珠ちゃんのことはきっぱりと・・・」
「ぎゃあ!」
俺の反対側から、ロイがべろーんと●●の頬を舐めた。
「諦めてたまるか〜!」
カチャリ
俺は銃を構えた。
「選択肢をやるよ
イチ、俺に撃たれる 二、俺に殴られる」
「うーん。強いていえばどっちもイヤかな〜。っくしゅん!」
ぽか
「いって!」
「二番にしてやったんだから感謝しろ。●●、とりあえずコレで頬を念入りに拭いておけ。後で殺菌消毒が必要だな」
チーフを取り出し、●●に手渡す。
「病原体みたいにいうな!」
「病原体以外の何モノでもねーだろ。チッ、ロイの相手は時間の無駄だな。行くぞ」
「はい!」
「クッソ〜!!真珠ちゃんまってろよ!
今度こそ身体じゅう嘗め回しにいくからな」
背後から気色の悪い宣言が飛んでくる。
「かんべんしてください〜」
「トム、コリン!行くぞ!」
「行くってどこにいくんでやんす」
「決まってるだろ。シリウスの船が向かう方角だ!」
溜息をついてから●●と顔を見合わせる。
「あいつら、一生俺達についてくる気かよ」
「そうか。ヤマトの近くにそんな島があるのか。行ってみる価値はありそうだな」
船に戻り、レオから聞いた話を船長に伝える。
「シン。お前はモルドーに残らないで後悔しないのか?」
「船長も優秀な航海士が居なくなったら困るでしょう」
「わっはっは!お前の言うとおりだ!」
船長が俺と●●の肩を抱き寄せた。
どの道が正しいかなんて解らない。
だが何を選べば後悔しないかを俺は知っている。
「ファジーなんて二度と●●に会えないんじゃないかって夜泣きしてたんだぜ。プギーってな!」
ハヤテが目を腫らしたファジーをからかう。
ファジーは俺達の姿を見るなり飛びつき、強烈なタックルをかましてきたから、●●を庇った俺は圧迫死するかと思ったほどだ。
「あ、あんただって赤ん坊みたいにギャン泣きしてただろーが!」
それは珍しい。
「バーカ!だ、誰がギャン泣きなんてするかよ!」
「うそつくんじゃないよ!無駄に胸元開けやがって、このセクハラおたんこなす!」
「相変わらず仲が良いですね」
●●は嬉しそうにハヤテとファジーに笑いかけた。
「「はぁ?!どこが?!」」
二人の返答がぴったりと揃ったのは、俺も思わず笑いがこぼれる。
鬱陶しいほど騒がしくて、
ああ、シリウスに帰ってきた、って気分になる。
「よしお前達!ヤマトの方角に向かって出発だ!」
船長の指示に、全員船へと向かう。
「了解です!●●さん、シンさん、おかえりなさい!」
「トワ君、ただいま!」
「さぁ、皆で船に乗ろうか」
ドクターの言葉に俺は頷く。
船に乗り込み、操舵へと向かう俺の視界にはいったのは●●とナギの姿だ。
「ナギさん!これからも厨房でこき使ってくださいね」
「やっと本物の笑顔が戻ったな。お前は辛い時や寂しい時ほど無理して笑うだろ」
「ナギさん…」
良い雰囲気にも見える二人の会話を、ナギの表情が直ぐに曇るだろうことを知っている俺は、少しの優越感をもって眺める。
「俺は自分の目ざとさが恨めしい…」
「はい?」
「首にキスマークついてるぞ。しかも三つ」
「み、三つも?!」
「シンめ、お前に近づくなって警告だな」
ナギがバンダナを外して●●に渡す。
「ほら、さっさと巻いとけ」
「ありがとうございます…」
ナギは●●の頭にぽんと手を置いた。
「これからもコキ使ってやるから」
「はい!」
久々の再会だ。
●●の笑顔に免じてそれくらいは許してやろうと、俺は船を出す。
「もうモルドーは見えなくなったな。当分戻ることはないだろうな」
俺の言葉に●●は心配そうにたずねる。
「後悔してる?」
「いや、してねーよ」
「ただ、モルドーを離れるのがこんなに寂しいとは予想してなかった」
「寂しくて当然だよ。だってモルドーはシンさんの故郷だもん」
俺を元気づけようとしたのか、●●は背伸びして、唇にチュッとキスをする。
「プっ…あいかわらずヘタクソだな」
「いいもん!これからもっと上達するから。シンさんが参りましたっていうくらいうまくなるんだから〜!」
「ハハッ。期待しないで見ててやるよ」
「●●」
急に伝えたい気分になって、俺は●●を両手を握りしめ、引き寄せた。
腕のなかにすっぽりと収まる小さな身体。
それだけを守り、抱えて。
この命が尽きるまで共に生きていく。
随分と単純で理想的な答えがストンと自分のなかに落ちてくる。
「お前は俺が甘えられる唯一の女だ」
「うん」
「これからも絶対に離さないからな」
「うん。私もシンさんの事離さないよ。絶対に!」
●●の笑顔はいつも、一筋の光のように心強い。
「それでこそ、俺の惚れた女だ」
fin.