Novel
□エピローグ SHINside
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二人して顔を見合わせる。
「ロイ船長!?」
「ロイか」
「なんだ、俺を呼んだか?」
名を呼べばどこからともなく沸いてきたロイの腕を掴む。
「おい!何するんだ!痛いじゃないか〜!このむっつりスケベ野郎」
「いーからネックレスを出せよ」
「はあ?ネックレス?」
ロイはとぼけた様子で俺を見る。
「どーする?パンツの中も調べるか?」
「…」
ロイが往来で上半身裸になっている。
視界に入るだけでも気持ちの悪い光景だが、肝心のネックレスは出てこない。
「何度でも言ってやるよ!俺は、ネックレスなんが盗んでない!そのかわり、真珠ちゃんのハートは盗んだけどな」
ロイはドヤ顔でポージングを取った。
「全く盗まれてませんから!」
ロイじゃないとすると…
「ごめんなさい」
その時、背後から震える子供の声が聴こえた。
「レオくん?!」
「僕がネックレスを盗んだんです。でも、やっちゃいけないことだって気付いて…それで…」
「ネックレスを返しに来たのか」
「はい」
目に涙を浮かべて唇を噛みしめている。
「おいクソガキ!この俺様がこんな街中で裸にまでなったんだ。ショックで下痢になったらどーしてくれる!」
「ごめんなさいロイさん。僕…」
「う!お腹痛くなってきたぞ〜!真珠ちゃんに温めてもらわねーと納得いかんっ!」
ロイは大げさに腹を抱えて痛がるフリをする。
「世の中のためだ。下痢で死んでろ」
ロイのクサい演技に騙され、心配そうにロイに近づこうとした●●を阻止する。
「酷いなむっつり眼帯!往来で無実の人間の貞操奪っておいて〜!お婿にいけなくなっちゃう」
「日頃の行いのせいだろ。とっとと服着ろ変態」
「脱がせたくせに〜!」
「気色悪い言い方をするな」
ロイがピーピーと喚いてるのを横目に、俺はレオの肩を掴んだ。
「おまえ…そんなに金が欲しかったのか?」
「僕はどうしても故郷のトゥーラ村を救いたくて。あの島は僕だけじゃなく、みんなが貧しさに苦しんでます」
「ネックレスひとつで島が救えると思ったのか?」
「船を買う資金にしたかったんです。島の長老から聞いたんです。ヤマトの近くの無人島に、お宝が眠ってるって。そのお宝を見つければ島を救えると思ったんです」
「おまえ、船を買って一人で宝さがしに出かけようと思ったのか」
レオがまっすぐに俺を見る。
「誰ががトゥーラ島を救わなきゃいけないんです」
小さな身体に秘めた無謀ともいえる正義は、物心ついた頃に初めて海賊の本を手にして感じた感情を、俺に思い出させた。
海賊が正義なんて滑稽だが、俺にとって自由に生きるその姿は何よりも真っ当な道に思えた。
お宝さえ手に入れれば、自分の大事な人達を護れる―そう、思っていた。
翌朝
「いいから着ていきなさい!」
「イヤですよ!なんでわざわざそんな恰好…」
「エマが喜ぶでしょーが!シン、私の言う事がきけないっていうの?!」
「ただの墓参りですよ」
「違うでしょう!エマに大事な報告をするんでしょう?正装していきなさい!」
シスターは何処から取り出してきたのか、綺麗にしまわれていたオヤジの制服を俺に押し付けた。白い軍服だ。
俺は渋々制服を受け取る。
「ほんと、あのシスターにはかなわねーな」
「シンさんの軍服姿カッコよすぎるっ!!」
●●は瞳を輝かせて俺を見上げる。
「サイズはちょうどピッタリだな」
「シンさんもお父さんも背が高いもんね!きっとお母さんも喜ぶよ」
「ま、だといいけどな。お前もその白いドレス似合ってるよ」
「これはファジーさんに初夜…」
「ん?ファジーがどうした?」
「うああああ"!何でもないです!」
オフクロが初めてこの村でオヤジと出会った丘。そこに墓はあった。
「すごい見晴らしのいいとこですね」
「ああ、オフクロはこの丘からの景色が好きだったんだ」
持ってきた花を添え、目を閉じて胸に手をあてる。
どこから話すべきか迷いながら、まずは長い間訪れられなかった事を詫びた。
オヤジを追い、刺し違えてでも恨みを晴らし、この村に戻ってくるつもりがなかったことも正直に告げた。
だが仲間に出会い、愛する女に出会い、父とわかりあえたこと。彼らと共に王族の宝を発見し、ウルの人達を救おうとしてること。
今考えていること。
全てを話した。
●●は何も言わず、じっと俺の隣で微笑んでいる。
「オフクロはよく俺に言ってたよ。どんな職業についてもいい。ただ自分のためじゃなく、人のために働けって」
「人の為に?」
「ああ。昨日一晩かけてじっくりと考えた」
「ウルの人達にはオヤジがいる。それにウルの王族の遺した宝もある。でも苦しんでいる人はウルだけじゃない、世界中にいるんだって」
「私も同じこと考えてました」
●●がぎゅっと俺の腕を握りしめる。
「私の力はちっぽけでも、何もかもはできないけど、何かはできるって。苦しんでる人達のために何かをしたいって。シンさんと一緒なら、きっと私、絶対!持ってる以上の力が出せて、何でも出来る気がします!」
「さすが俺の選んだ女だ」
「シンさん」
互いの身体に腕を廻し、抱き寄せ、抱き締める。
「俺はシリウスの船で旅を続ける。お前も当然ついてくるよな」
「はい!」