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□【chains】シリーズ
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「ヤマト!無事だったんだね!」
振り返ると、●●が飛び出してきてヤマトへ抱きついた。
「海賊達が帰っていったって聞いたから急いで来たの!シンさん…ヤマトを助けてくれたんですね!有難うございます!」
「姉ちゃん…」
●●に抱きつかれたまま、ヤマトはグッとさっきの言葉の続きを呑み込んだ。
俺を差し出せと言っていた村人たちもヤマトと●●の様子に黙り込んだようだった。

「無事で良かった!ほんとにもう、小さい時からすぐ一人でどっか行っちゃうんだから」
「…それは姉ちゃんだろ。おまけにこんなスゲー男連れて帰ってくるし…」
「えっ?シンさんのこと?ね!シンさんって凄い人でしょ?」
「まーな。海賊達があっと言う間に逃げてったし、あいつらビビりすぎてどっちが悪役かわかんないみたいになってたケドな」
「ふふっ。ちょっと想像できるかも」

(この姉弟…)

「姉ちゃん、またついてくんだろ?」
「うん…一緒にいられなくてごめんね」
「いいよ。オレももうガキじゃないし。迷子とかならねえから。なぁ、海賊って楽しいのか?」
「えっ!?」
●●は俺とヤマト、そして遠巻きに見ている村人たちを交互に見る。
「シンさんが海賊ってこと知って…?」
「ああ。成り行きでな。お前が帰って来づらくなると困るから話す事についてはしばらく様子を見ていたが、隠せるものじゃないしな」

「あのね、ヤマトにみんなっ!聞いて欲しいの。シンさんはシリウス海賊団っていう所属なんだけど、お宝を求めて色んな島を旅して、それで手に入ったら貧しい国へおすそ分けしたりして!シリウス海賊団はとにかくとってもいい人ばかりで凄い人ばかりなの。村人に色んな人がいるように海賊も色んな人がいて…これは私も旅をして知ったことなんだけど…ええとだから、シリウス海賊団は良い海賊なの!」
●●が舌を噛みそうな勢いで力説すると、ヤマトも村人もしーんと静まり返った。

「おい。だから『良い海賊』ってのは全然褒め言葉じゃないと何度言ったらわかるんだ」
「えー!だってシンさん優しいじゃないですか」
「俺のどこがだ。さっきの海賊も、俺は冷酷非道で有名だって言ってたぞ」
「ぷぷっ。冷酷非道な人は自分で冷酷非道って言いませんよ。シンさんは厳しいけど、勉強や舵の執り方や護身術も教えてくれるし、意外と甘いもの好きだし、頭も良くて格好いいし、物持ちも良くて銃が好きでいっつも磨いて大事にしてるし…」
「…それ以上余計なことを言うな」
「え?まだありますよ!シンさんの素敵なところ。ええとね…もがっ」
俺は●●を抱き寄せて口元を手で塞ぐ。
「おい、藻屑にするぞ」
「ふぉのふぉとふぁふぁいふき」

「ハハハハッ」
いつの間にかヤマトを中心に村人たちに笑いが起こった。
「姉ちゃん達、夫婦漫才かよ」
「マンザイ?俺はそんなものに参加した覚えはない」
「ははっ!覚えないって、シンって天然?」
「ちょっとヤマト!シンさんにそんな事言ったらっ…っていうか呼び捨てっ!私もしたことないのに!」

(ったく、このガキはさっきからずっと呼び捨てだ)

「うわ!ほら、すごく怖い顔してるよ…!すみませんシンさん!シンさんってちゃんと呼ぶように言いますから!」
「姉ちゃんも恋人なんだったらシンって呼べばいいじゃねえか!」
「ヤマト!そそそれはいつかきっとっ…て思っててっ!まだ今は練習中っていうかっ」
「姉ちゃん真っ赤になってらー」
あまりに仲良さげにじゃれ合う二人を見ていると、たとえ姉弟とわかっていても良い気分はしない。

「…フン。ビービ―泣いてサメも知らなかったガキが調子にのるな」
「もう泣かねえし、エサにはされねえもん。なぁシン…海賊って自由なのか?」
同じ質問を、俺は以前コイツから受けている。
あの時はまだ、答えを持っていなかった。
今なら――言える。

「ああ。…ただし、どんな選択をしてどんな結果を得ても、誰も責任は取ってくれない。自分で責任を持つしかない。だからこそ自由なんだ。それをわかっていて、自由を愉しめる奴らが集まっているのが…シリウス海賊団だ」

「ふーん。大変そうだけど、面白そうだな!」
「面白いに決まってるだろう?」
俺は●●の腰に腕を廻し引き寄せた。
「こんなに面白い女と出会えるんだからな」
「シンさん…」

「あーあ。姉ちゃんが海賊に奪われちまうなんてな。母ちゃんは気付いてたのかもな。だって姉ちゃんから手紙が届いた時、昔オレや姉ちゃんに『海賊は悪人だから近づいちゃダメ』って言ってた事撤回するって言ってたもんな」
「え?お母さんがそんなことを?」
「うん。姉ちゃんはきっと、もっと広い世界を知ったんだろうって。だから悪人じゃない海賊もいるのかもしれないってさ」

ヤマトは改めて俺にまっすぐ向き直り、きりっとした眉を寄せ、真剣な顔をしてから頭を下げた。
「シンさん。ふつつかものですが姉ちゃんをよろしくお願いします」
「ヤマト…何だか私のお父さんみたい…」
●●が呟く。
「当り前だろ!オレはこれから母ちゃんの面倒みながら立派な大黒柱になるんだからな!」
「ヤマト…ありがとう!」

「ああ。ふつつかなのは知ってるが、それも含めて全部を、俺は愛している」
「し、シンさん…」
ピュウっと誰かが口笛を鳴らし、●●は照れたように周りをきょろきょろと見た。
「言うなー。なぁ、シン!やっぱり俺の姉ちゃん、すごい美人だっただろ?」
ヤマトは悪戯っぽい笑顔を見せる。
「そうだな。世界中探してもこんなに美しい宝は二つとない。もう俺のものだ」
「うわ。ノロケまくりだな!聞いてるほうが恥ずかしい…って姉ちゃん、ますます固まって涙垂れ流してるけどっ」
じっと見守っていた村人たちもヤマトの声をきっかけに一斉に祝福の声をあげる。

俺にとってまた、このヤマトの国に大事な宝が増えた。

彼女に出会う前の俺なら、形にならない宝が世界中に散らばっているなど思いもしなかっただろう。
俺たちはこれからもきっと世界中で宝を見つけ続ける。共に航海を続ける限り―





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