Novel

□【chains】シリーズ
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●●が育った家へと戻り、ナギから預かった手土産を渡す。
「あらこれすごく美味しい!優秀なコックさんがいらっしゃるのね」
●●の母親は紅茶を用意し、ナギ特製のスコーンを美味しそうに頬張った。
食べ物を美味そうに食うところは、●●とそっくりだ。
こういう家で育ったから●●は馬鹿のつくほど正直で、真っ直ぐなのかなんて思ったりする。
ヤマトは膨れた顔をしつつ俺と距離をとってテーブルに座った。


「ウルの末裔って王族ってことかよ?」
「ああ。そうなるな」
「フン…なんでそんなヤツがうちの姉ちゃんと」
「どういう意味だ?」
「だって変だろ。アンタは王族で金持ち、しかもイケメン。姉ちゃんは特別色気あるタイプでもねえしうちは貧乏だし…あっ!アンタ…姉ちゃんをいずれ愛人の一人にでもするつもりか?!」
「ウル国復興は俺の意志とは関係ないところで始まったことだ。無関係だとは思っていないが俺には居場所がある。お前の姉のことを愛人にするつもりはない」
「シンさん…やっぱり私は色気もないですよね…そうだこれくらいしかないんだもん…」
「何をショック受けたような顔してるんだ。俺がこのまま旅を続ければお前も旅をし続けることになるし、もし仮に俺がウル国に行くとなれば王妃になるだろうな」
「「「えっ!???」」」
俺の言葉に母親は目を丸くし、弟は飛び上がらんばかりに驚いている。●●ですら言葉を失ったように俺を見る。
(ついプロポーズらしき話になってしまったが…何でお前まで驚いてるんだ)
俺は大きく息を吐き出した。

「もし、の話ですから…即位は決まったことではありません。可能性の一つに過ぎない。それよりも今は彼女と…そして仲間と旅を続けることが何よりも大事なんです。彼女を危険な目には合わせないと約束します」
俺は今の正直な気持ちを口にした。
「シンさん…」
●●は今度はうって変わって瞳を潤ませ、俺を見上げる。

「●●が決めたことなら私は応援するだけよ。後悔しないようにね」
●●の母親は力強く微笑んだ。
「ありがとうございます」
礼を述べると、ガタンッと弟が立ち上がる。
「オレは認めねえ!海の旅なんて…海賊もいるんだ!危険じゃないワケないだろ!どーせアンタみたいに女にチヤホヤされそうな男はすぐ他に愛人つくっちまうんだ!父ちゃんみたいにな!!」
「ヤマト!待って!」
●●が呼び止めるのも聞かず、ヤマトは外へと飛び出していった。

「ごめんなさい。あの子、●●の事が大好きだから…久しぶりに帰ってきて、大事な人を連れてきたことに焼もち妬いてるのよきっと」
●●の母親は詫びた。
ヤマトが座っていたイスの下に鞄が落ちている。
床には数冊の本が散らばっていて、俺はそれを拾い上げた。
そしてその中に、驚きを隠せないものを見つける。
「この本は?」
「ああ。それはヤマトの宝物で。小さい頃に知らない男の人にもらったみたいなの。よくそれを拡げては、お姉ちゃんを守るって言ってたわね」
「ほんと、懐かしい!」
ボロボロになったそれは、『Pirates』と表紙に刻印され、開くと最後のページに折り目がある。
…覚えている。俺が付けたものだった。



ゴンゴンゴンッ
突然ドアが勢いよく叩かれ、外から大きな声が聴こえる。
「伝令だ!隣町を襲った海賊がこの村に向かっている!自警団が応戦するが、すぐに女子供は集まって村長の家に隠れるんだ!」
「ヤマトが飛び出していったきり…まさか海賊の話を聞いて向っていったんじゃ…」
●●が蒼白な顔で呟く。

「●●、お前は母親を守って村長の家まで行け。念のため俺の銃を預ける。必要があれば躊躇なく撃て」
「シンさん…!シンさんは…?!」
「俺はお前の弟を探す。ついでに海賊とやらの様子を見てくる」
「私も行きます!」
「…●●、この村は女子供ばかりだ。お前は…」
俺は●●の母親の方を一瞥してから、●●へと視線を戻す。

「シリウス海賊団だろう?二つ目の掟を忘れたのか?」
「女子供を襲うヤツは許さない…です!」
「ならお前は村人を先導して逃げるんだ。ただし無理はするな」
「わかりました。シンさん…」
「何だ、不安そうな顔をするな。まさか俺が他の海賊にやられると思っているのか?」
「いいえ!思いませんっ!けど銃は…」
「お前が持っていろ。もし危なくなったら銃声で知らせろ」
俺の意思を理解したのかぐっと唇を引き結び、凛とした表情を見せる。
「わかりました!」
こういう●●は、まさに俺が惚れた女だ。
「●●、必ずヤマトは連れ戻すから待っていろ」
「はいっ!ヤマトのこと…村の皆の事…、よろしくお願いします!」


隣町との境には鎌や鍬を持った男達が数十人、海賊と戦っていた。
付け焼刃な武装では荒くれた海賊達に敵うはずもなく、劣勢にみえる。
ヤマトは――?
「おいガキも混ざってるぞ。一応捕まえておくか。売れば金になる」
「離せ!ガキじゃねえ!」
ヤマトは大柄の海賊に片手で首根っこを掴まれ持ち上げられていた。
手にした鎌を振り回すが屈強な男に届きもしていない。

海賊の人数は――三十人ほどか。
正直銃が無い状態で全員を伸すには骨が折れる人数に思えたが…仕方ない。

(こいつらが俺が喜ぶような宝を持った海賊とは考えにくい。俺は一体いつからこんな利益度外視で動く海賊になったんだ。ったく、お人よしな女のそばにいるとお人よしが移るんじゃねーか?)

自分の変化に溜息をつきつつ、俺は海賊たちの前に出た。
「そのガキを離せ。俺の知り合いだ」
「あ?何だお前は」
大男が凄む。
「海賊を名乗りながら、陸にあがって小さな村を襲うことでしか財を得られないとは滑稽だな」
そう言うと、男は顔色を変える。
「何だと?!おいお前。そんな優男の風貌で俺にかなうと思うなよ?」
「フン。弱い犬ほど虚勢を張り、よく吠える」
男はドサッとヤマトを放りだし、鉄の金棒を振り上げて向かってきた。
ぶぅんと大きく振り回された金棒を避けると、男は唸った。
「このっ!いつまでも避けられると思うなよ!当たればお前なんか一撃だぞ!」
「こんなに遅い棒に当たるワケねーだろう。いちいち煩いヤツだな」
「くそっ!バカにしやがって!」
今度はやみくもに金棒を振り回し始めるが、大ぶりの動きはますます隙が出やすく、金棒を蹴り上げるとそれは宙を舞い地面へと転がった。
間髪入れずに金棒を拾い上げ、男の足へ振り下ろした。
「う…う…」
男は呻き声をあげ、その場にうずくまった。

「つ、つええ…」
ヤマトが背後でボソッと呟いた。
「おい。とっとと立て」
振り向き、放心したようにへたり込んでいるヤマトに声を掛ける。
「ぐずぐずしてるとサメのエサにするぞ」
俺がそう言うと、ヤマトはハッとした顔になる。
「それ…その言葉…」

「アニキ〜!動けねえ!!仇をとってくれ!!」
大男が叫ぶと、海賊達の中央から更に大きな男が出てくる。
「俺の弟なのに情けねえな。こんなショボイ村の住人相手に何を遊んでんだ。」

(コイツ…手配書で見た事あるな。有名な賞金首じゃねえがそこそこ出回っていた)

「お前が船長か?」
俺が訊ねると、男は笑う。
「いかにも。俺がこいつらの頭だ。随分ベッピンな『ねえちゃん』じゃねえか。スカしたスーツ着やがって、この村に似合ってねえな。服も中身も売れば良い値がつきそうだ」
船長と名乗る男は酒と陽に焼けた赤黒い顔をニヤリと歪めた。

「フン。小さな村を襲っては人身売買か。くだらん」
「『ねえちゃん』口に気を付けな。泣く子も黙る『切り裂きデビル』とは俺のことだ!名前くらい聞いた事あるだろう?」
「生憎、そんなセンスのねー通り名に全く覚えがないな。それに口に気をつけるのはお前の方だ」
「デビル様に刃向ったこと後悔させてやるぞ!」
男は華美に装飾されたナイフ数本を取り出し、俺に目掛けて投げてくる。
「ははは!お前はすぐに八つ裂き…え?」
投げられた一本目のナイフを取り、残りの数本をそのナイフで全て地面へ叩き落とす。

「で?誰が八つ裂きだ?」
俺は男の射程距離へと入り込み、その喉元にナイフをピタリと当てた。
「へえ。良いナイフだな。切れ味も良さそうじゃねーか。試しに喉を切ってみるのはどうだ?」
「ひィィィ!!何だお前!何者っ…あっ!!お前は…シン!!」
「アニキ!そいつ、ありえねえほど強いぞ!知ってるのか?」
「ばば馬鹿野郎!この男、シリウス海賊団のシンだ!」
「シリウスってあの…海賊王リュウガ率いる最強の…」
「そうだ。コイツの賞金額は確か俺よりゼロが4つも多い…。シリウスのシンといえば冷酷非道で容赦ねえ男で有名だ。女みてえに綺麗なツラでやたらモテるって聞いたこともある。間違いねえ、コイツだ…」
「コイツ?」
「いいえ貴方様でしたか!!お助けをっ…シリウス海賊団からしたらオレらなんて弱小海賊団です。相手にしても暇つぶしにもならねえですよねっ…ナイフもお気に召したなら差し上げますから!」
頭と名乗った男は態度を急変させ、命乞いを始める。
その様子に他の海賊達や戦っていた男達もポカンとした顔でこっちを見ていた。

「いいか。今度この村を襲ったら…どうなるかぐらいお前の軽い脳味噌でもわかるだろう?他の海賊もだ」
「わ、わかりました!!仲間にも伝えます!お前ら、ずらかるぞ!!」
「おい。忘れものだ。こんな悪趣味なナイフはいらねー」
頭の男の帽子めがけてナイフを投げると、ブスッと数本のナイフが帽子に刺さった。
「ヒイイイ〜!!」
男は青ざめ、帽子を脱ぎナイフをかき集め、海賊達は慌てて去って行った。



「まだ座ってたのか?まさか腰をぬかしたんじゃねえだろうな。…ったく、よく似た姉弟だな」
俺が手を差し出すと、ヤマトはパンッとその手を払いのけた。

「アンタ…海賊だったのか。ウルの末裔ってのも王族なのも嘘なんだろ!」
「…別に嘘じゃないが、海賊だという事を黙っていたのは悪かった」
村人たちも俺を警戒するように遠巻きに見ている。

「歓迎されたものじゃないしな…まぁ、それが正しい反応だ。心配するな。挨拶に寄っただけだから今晩には出て行く」
「待てよ!姉ちゃんも連れてくのか?姉ちゃんも…海賊なのか!?」
「…アイツは…海賊じゃない。たが俺たちの大事な仲間だ。そして俺の大事な女だ」
「勝手なこと言うなよ!海賊なんかに姉ちゃんをやれねえ!返せっ!」
「悪いがそれは出来ない。アイツはそれを望んでいない」
「そんな訳ねえ!俺が海賊から姉ちゃんを守らなきゃ…!」
「お前に何が出来る?さっきだって何が出来た?」

「…っ。アンタ…海軍の学校行ってたんじゃねえのかよ」
「フン。思い出したか。まさかあの時のガキがお前だったとはな」
「何で海賊なんかになったって聞いてんだよ!海賊は悪者なんじゃねえのかよ!」
「そうだな。今思えば…海に出られれば別に海軍でも海賊でもどっちでも良かったのかもしれねー。ただ『その時』に俺は海賊を選んだ。選ぶ理由があったからだ」
「何だよ…理由って」
「その理由はもう失った」
「なら海賊やめればいいじゃねえか!旅をやめて姉ちゃんと…」
「それは仲間にも言われたな。だが俺は…お前の姉と出会って、そして自分が選んだ道で得た大事な宝に気付いた。それが大事過ぎて…まだ旅を続けている」
「姉ちゃんも…その大事な中に入ってるのか?」
「俺にとって何よりもアイツが一番大事だ。それはこの先もずっと変わらない」
(こんなガキ相手に、何で俺はベラベラと…)
眩しいほど真っ直ぐな眼で見てくるのは姉譲りか。だから苦手だったんだ、こういうガキは。


「…おい。さっきすごい賞金首だって言ってたぞ。ヤマト、そいつを軍に渡せば、お前の姉ちゃんもこの村も守れるんじゃないのか?」
離れたところに居た村人が、ヤマトの気持を確かめるように訊ねた。

村人相手に乱闘はしたくない。
そうなればアイツを連れ出してここから出るしか…

思考を巡らせていると、ヤマトはキッとその男を睨む。
「何みてたんだよ!シンは…俺たちを助けてくれただろ!」

(…呼び捨てか)

「だが海賊だぞ!お前の姉も無理やり連れまわされて…」
「されてねえ!…わかってんだよ、そんなの。あんな姉ちゃんの顔、見てたら…」
ヤマトは吐き捨てるように言葉を投げた。


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