Novel

□curse呪いの街
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「がっはっは!オンセンで飲む酒は格別に美味いな!」
船長がお酒を飲みほしてから、ぷはぁ〜と大きく息を吐きだした。

スパに戻った頃にはすっかり夜になっていて、私たちは大歓迎されて約束通り貸切お酒つきの温泉を愉しんでいた。

混浴を嫌がったシンさんだったけれど…今夜は満月。
シリウスの掟では『満月の夜は朝まで宴』は絶対――

船長はいつもにましてハイペースで飲んでいる。
飄々としてるけれど、カースでは色々と過去のことを突きつけられて辛かったのかもしれない。

「おい●●!お前ももっと飲め!」
船長が顔をぐいっと近づけてくる。
「せ、船長…近っ…」
「ん?裸の付き合いを恥ずかしがってるのか?愛いヤツめ!」

…前言撤回。
ただ飲んでるだけな気もしてきたっ!

「カースは寒かったからなー。船長、やっぱシリウス号にもオンセンつくればいいんじゃないっすか」
ハヤテさんが船長に提案すると、
「いいですね!ジャグジーとか欲しいです!」
トワ君も同意して、
「たしかに甲板で海を見ながらとか爽快だろうな」
ナギさんも頷いた。

「ん?甲板にジャグジーか。そりゃ構わねえが、ジャグジーといえば美女だろ?野郎ばっかで入っても面白くもなんともねえ」
「そーっすね!うちにも一応女は一人いるけど…」
ハヤテさんがちらりと私の方を見る。
「やっぱジャグジーにはゴージャスで色気のある女が欲しいトコだよな!」

うっ…色気なくてスミマセン…。
ぐるぐるに巻いたタオルの胸を見つめると、確かにゴージャスとは程遠い現実が目の前に!

「ハヤテ、失礼だよ。●●ちゃんには●●ちゃんの良さがあるんだから、そんなふうに言わないの。私はこうして一緒に入れるだけで凄く緊張してるし、とても嬉しいよ」
ソウシさんににっこりと優しい微笑みを向けられると、温泉の熱もあってか頬が熱くなる。

「うわー。さすがソウシさん、よく真顔でンなこと言えますね。ムズ痒ぃ…」
ハヤテさんが呆れたように言う。
「そう?私は思ったままを言っただけだけど」
「それが素ってのが罪作りですよね…」
トワ君も感心したように溜息をついた。

ぽんっと突然頭に手が置かれて、今度はナギさんが声をかけてくれる。
「お前も何か飲むか?酒以外もあるぞ」
「ありがとうございます!」
ジュースの入ったコップを受け取る。

…改めて考えると、いくら水着を着てタオルを巻いているとはいっても、みんなと一緒に温泉に入るのはドキドキしてしまう。
にごり湯だけど、船長も『裸のお付き合い』っていってたくらい、浸かっていると、まるで裸で入ってるみたいだし…。

「フン。良いご身分だな」
低い声が聞こえて、おそるおそる見ると、温泉には入らずにチェアに横になっていたシンさんが起き上がっている。
シンさんはタオルを肩に掛け、みんなとは少し離れた端のほうに身体を入れた。

「シン、そんな端っこじゃなくてこっち来いよ!」
ハヤテさんが声をかけるけれど、シンさんは不機嫌そうな顔をして背を向けた。

「あらら。私たちが●●ちゃんと仲良くしてたから拗ねちゃったのかな」
「アイツは●●に関しては、意外とわかりやすいところがあるからな」
ソウシさんとナギさんの声に、シンさんはジロリとこっちを一瞥した。
温泉を好まないシンさんはチェアで寝てると思って、皆と浸かっていたけれど、気分を悪くさせちゃったのかな。
すぅっとシンさんの側に近づく。

「…あのぅ、私は色気とかないし、みなさん別に女性として見てるわけじゃないと思いますし…混浴だけど女の人に数えられてないって言うか、ごーじゃすとは程遠いというか…」
自分で言ってて悲しくなるけど、眉間にシワの寄ったシンさんについ言い訳っぽいことを言ってしまう。
「だから全然っ!シンさんが不機嫌になるような感じではないのではと…」

「色気がねーハズはないだろ」
シンさんは不機嫌そうなまま、ボソッと呟いた。
「へ?」
「誰の女だと思ってるんだ?」
私を見下ろして、シンさんは不敵に微笑んだ。

「えっと…」
「ほら、言ってみろ。お前は誰の女なんだ?」
「シンさん、ですっ」
「なら世界一いい女に決まってるだろう?まぁ、色気は僅かかも知れねーが引き出し甲斐はある」
「…!」
シンさんの言葉に驚いていると、気のせいかほんのり紅くなった頬でそっぽを向いて、照れたようにシンさんが続ける。
「何をじろじろ見てる」
「だってシンさんが急にそんなこと言うから驚いちゃって…」
「フン。思ったままのことを言っただけだ」
「ふふっ」

嬉しくて笑っていると、シンさんの濡れた指が伸びてきて頬にかかった髪にそっと触れる。
「ぷっ。濡れた髪が張り付いてるじゃねーか。」
ただ頬に、耳に、指が触れただけなのに、ひどく官能的な気分になってしまう。

―――全てを賭けてお前を守る

そう言ってくれた言葉が不意に蘇る。
一生のなかで大切な時間を…これからもシンさんと、こうしてずっと――過ごせたらいいな

「こらーーっ!!お前らーーーーっ!!!!!」
うっとりとしていると、突然大きな声が響いてタオルを腰に巻いたロイ船長が立っていた。
「おおおオレを置いていくなんてヒドイじゃないか!薄情で人でなしで冷酷なヤツラめ!!」
「置いてくも何も、別にお前と仲間じゃねーし」
「あれ?そういえばカースからスパまで一緒じゃなかったね。いつからいなかったかな?」
「さぁ?僕も思い出せません。う〜ん…?」
「どうりで静かで過ごしやすいと思ったな」
「薄情で人でなしで冷酷ってのは、海賊として褒め言葉だな」
「とういうことでロイ。俺たちは今オンセンで宴の真っ最中だ!つきまとうんじゃねえ!」
船長の一言で、ロイ船長が瞳を潤ませる。
「ひ、ひどいじゃないかリュウガ!オレはあんなに活躍したのにーっ。」
活躍したか?足引っ張ったの間違いじゃねえ?とハヤテさんが言い出して、みんなが口々に同意する。


「クッ!しかも、真珠ちゃんとの甘い新婚生活から無理やり現実に引き戻されてきたってのにっ!」
「新婚生活ってお前、まさかずっと鏡の中にいたのかよ」
「あ!そういえば鏡から全員帰って来た時にロイ船長はいませんでした」
「そうだ!ルルが鏡を封印する時にオレに気付いたんだ!いや、オレは別にずっと鏡の中でも良かったんだが、何故か鏡から追い出されたんだ。もう一度入ろうとしたが駄目だった!」
「ははっ。魔鏡にも厄介払いされたんじゃねえの?」

パンッ

突然の銃声が響き、避けたロイ船長がその場で転ぶ。

「あぶねーだろっ!こ、こんな容赦ないことをするのは…」
「チッ。外したか」
「根暗眼帯!!おおおお前、何でオンセンに入るのに銃持ってるんだ!というか何イキナリ発砲してるんだ!」
「いや。二度とふざけた幻も見れねえように永眠させてやろうと思ってな」
「ふざけただと?アレがあるべき世界の姿なんだ!オレが海賊王になって真珠ちゃんと甘い新婚生活!その可愛い唇でもう一度『ロイ様じゃなきゃイヤ』だと何度もおねだりをされて…」
ロイ船長が両手を伸ばして湯船に近付いてくる。
「きゃっ…!」

ゴンッ
今度は大きな石がロイ船長に命中した。
「いってえ!タンコブができるじゃないか!」
「お前の脳内スカスカのくだらない妄想と現実を一緒にするな。コイツは俺のモノだ」
「なんだと?お前みたいな冷酷エロ眼帯男よりも絶対に俺の方が幸せにする自信があるぞ!どうせお前は真珠ちゃんのカラダ目当てなんだろう?」
ロイ船長の言葉にシンさんが黙り込む。
な、なんで黙るの?
目当てにするような身体でもないだろう、とか言われそうなんだけど…
「悪いか」

えっ!!!

ぐいっと抱き寄せられて、シンさんに後ろから抱き締められる。
「な!!認めるのか?!真珠ちゃん!こんな根暗ムッツリスケベな男で良いのかーっ?!」
予想外の展開に、ドキンと心臓が跳ね上がる。

「シンさんっ…??あ、あのっ…」
「改めて言っておくが、コイツのカラダもココロも隅から隅まで…全て俺の支配下にある。それに…」
シンさんの唇が耳たぶに添えられて、指先がはタオルの上から胸のふくらみをなぞる。
「俺はムッツリじゃない。だが、やらしいってことはコイツの身体が一番よく知ってる」
シンさんの宣言に、みんなが一斉にこっちを見る。
船長がひゅぅっと口笛を吹いた。

ううっ…は、恥ずかし過ぎる。
恥ずかしすぎてお湯の中に隠れたいっ…!

「うわー!ヤなやつ!自慢か!?今自慢したなーっ!!ちくしょうっっ!」
ロイ船長が叫びながら温泉に飛び込み、私を庇ったシンさんにバッシャーッとお湯が頭からかかる。

「チッ。貴様…!」

全身びしょびしょになったシンさんの髪の毛がクルクルとはねて――この上なく眉間にシワの寄った不機嫌な顔になっている。
「やはり息の根を止めるか」
シンさんはロイ船長の頭を押さえてお湯に沈めた。
「…ッぷ!…お、おぼれッ…り、リュウガ!たすけ…」
ロイ船長が手足をバタつかせて暴れると、お湯が勢いよく飛んで、ナギさんに思いっきりかかってしまう。
その隙にロイ船長はシンさんから逃れて温泉中を走り回った。

「ちっ…シン。俺も沈めるのを手伝う」
ナギさんまでロイ船長を追いかけはじめると、バシャバシャとお湯が飛び跳ねて――
「俺も参戦っ!やっぱオンセンってこーじゃなきゃな!ジミに浸かってるとか身体が鈍るぜっ」
ハヤテさんが少し愉しげにお湯をトワ君にかける。
「うわっぷ!は、ハヤテさん!どうして僕にかけるんですか!雪合戦じゃないんですから!」
「はっはっ!よけられねーほうが悪いんだよ」
「ハヤテ。それは俺達のこと言ってンのか?」
ナギさんとシンさんがハヤテさんの背後に立つ。
「へ?誰もんなこと言ってねーし…ぶわっ!」
今度はハヤテさんが怒れる二人の餌食になって―

「あのっ!滑りますしっ…温泉は静かに入るものでっ!あんまり暴れるとあぶない…と思うんですけどっ…ってきいてない〜!」
声も届かず、皆がタオル姿で走り回ったりお湯を掛け合ったり泳いだり沈めあったりと、温泉ではタブーな行為を繰り返している。

「はっはっは!お前ら、元気がいいじゃねえか!これもオンセン効果だな!」
船長は高みの見物をしていたけれど、ロイ船長がこけた拍子にお酒のボトルをひっくり返してしまった。
中のお酒がどばどばとお風呂に流れ出す。

「ロイ!!てめえ!俺の酒を〜!!!!」
「うわ!船長が本気モードっ…!」
「落ち着いてください船長っ!お酒ならまだありますからっ」
「そういう問題じゃねえ!!!俺の酒に手を出した罪、きっちり払わせてやる!」
目の色を変えた船長を巻き込んでの大騒動は一向に収まりそうにない。

「さ、●●ちゃん。ここは騒がしいから私たちはあっちでゆっくり温泉にはいろうか?」
ソウシさんが微笑みかけてくると、
ばしゃっ
ソウシさんにまでお湯がかけられる。

「…手が滑りました」
声のほうを見ると、シンさんが視線を逸らして言った。

「そう?」
ニコニコしたまま…ばしゃっ!
今度はソウシさんからシンさんにお湯が掛けられて――
「私も手が滑ったみたいだね」

えっ?!珍しく…この二人が対戦状態!?

「さぁ真珠ちゃん!この隙にオレ達はめくるめく愛の逃避行を…」
不意にお湯の中から飛び出してきたロイ船長に肩を抱かれる。

どかっ
「お前は永遠に沈んでいろ」
シンさんがロイ船長を蹴とばして、お湯に沈める。
その拍子にロイ船長の身体に巻き付いていたタオルがひらりと外れる。水着をつけている皆と違ってその下は―――

「きゃっ…!」
「ロイ!変なモン目の前で見せてんじゃねえ!!」
真正面に居た船長が怒鳴る。
「真珠ちゃんに見られた!!お婿にいけないっ!こうなったら責任を取ってもらわねーと!!!」
「取らせるか、バカ」
ロイ船長の背後にいたシンさんがまた蹴飛ばす。

ああ〜…
ますます手が付けられない状態に!

こうして大暴れした私たちは、結局オンセン入り放題どころか、出入り禁止にされてしまうのだった。


【END】



☆Ruru



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