Novel

□curse呪いの街
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町外れの城は錆びれた大きな門が構えられ、両脇に武装した兵がズラリと並んでいる。
ルルに借りたコンパスのおかげで無事に森を抜け城には難なく着くことができたが、既に陽は落ちはじめている。
もうすぐあの黒い雪が降ってくるのがわかるほど、大気が急激に冷やされてゆくのを感じる。
澱んだ空気に包まれ高くそびえ立つ城は、誰が見ても『悪魔の棲む城』と呼ぶにふさわしいものだった。

正確には、<悪魔に魂を売った男>か。
己の願いの為に悪魔に魂を喰わせる。
そこまでして手に入れたいものとは何なのか?野望か欲か宝か、それとも…


「とりあえず正面から突っ込むか」
ハヤテが剣を抜いて門へと歩き出す。
「ちちちょっとまてアホ剣士!お前の脳味噌は作戦っつーもんを知らねえのか?!」
ロイがその肩に手を置いた。
「はぁ?作戦?んなカッタリィ事いいんじゃねえの?」
「バカ!あれだけの人数だぞ。お前の目は節穴なのか?!」
「ふん。ビビってんのかよ、ロイ?やっぱヘタレ船長だな」
「び、ビビってるわけじゃねえ!オレは稀代の頭脳派海賊として思慮深い戦い方がモットーだ。ラクしてお宝!それこそがオレの流儀!」
「テメーの流儀なんかどうでもいいって。待ってられねえ。行くぞ」
ハヤテが飛び出そうとするのを俺が制す。

「何だよ?シン」
「船長達はとっくに城に着いてるはずだが、門兵の様子を見る限り騒ぎ立てた様子もなさそうだな。中に潜伏中か、もしくは既に見つかったか」
「だから中に入ればわかるんじゃねえの?」
「真正面から突っ込むってのはバカ丸出しだ」
「バカ丸出しだと?!シンまでビビってんのかよ?」
ハヤテが舌打ちをする。

俺達だけなら、あの兵数でも正面から行っても問題ないだろうが、彼女がいる。
剣を所持していない兵は、銃を持っている可能性が高い。
まともに正面から行って、万が一囲まれればコイツを危険に晒すことになる。
「もう少し頭を使えと言ってるんだ」
「な、何だよっ?!ネコに説教されたくねーし!」
「そうだそうだーっ!作戦を練ろう!黒猫眼帯でも、たまには良いこと言うじゃねーか。」
ロイが満足そうに頷いた。

「俺は作戦が必要だというロイ船長の正論に賛成だな。」
改まって言うとロイは驚いた顔をしたあと満面の笑みを浮かべる。
「ヒーッヒッヒッ。そうだろうそうだろう眼帯!オレはいつも正しい!」
「ああ。お前はリカーの船長だし、俺たちとは違う。本当はあんな数の門兵、一人でも何てことないんだろうな」
「ま、まままーな!このロイ様は船長なんだ!強いんだ!何てことないぞ!」
「おいロイ、足震えてンじゃねえのか?」
「バカいうな脳みそ筋肉剣士!これはダンスだっ」
「はぁ?ダンス?意味わかんねー」
「●●もロイ船長を頼りにしてると言ったしな。まぁ口だけなら何とでもいえるから実際見てみないとわからねーが」
「よし!オレが証明してやろう!ロイ様は泣く子も黙るリカー海賊団の凄い船長だってことをな!!ロイ様の雄姿を見てろよ!平海賊ども!そして、兵士ども〜〜〜っ!!!」
ロイが急に立ち上がって、門兵の列の中に突っ込んでいく。
突然現れた不審な男に、門兵たちは慌ててロイを取り囲んだ。


「おい。ロイのヤツ、行っちまったぜ。真正面から突っ込むのはあんなに反対してたってのに。」
「アタマを使うというより、ロイを使えってことだな。」
「シン。お前ってやっぱり…」
「やっぱり、何だ?これで時間が稼げるな。アイツが門兵を引きつけてる間に、あそこから中に入るぞ」
門から離れた位置に登れそうな壁があった。
近くにいた兵はロイの登場で門へと移動し、死角になっている。

「ハヤテ。しゃがめ」
「は?何で?」
「いいから早くしろ」
ハヤテが不思議そうな顔でしゃがむ。
彼女を促す。
「お前はハヤテの肩に足を置いて壁を登れ」
「ちょ!オレは踏み台かよ?!…ったく、早くしろよな」
門のほうからは兵たちの騒ぐ声とロイの奇声、煙が上がっている。
おそらくコショウ爆弾か。
アレを喰らったら多くの兵がしばらくは動けないだろう。
なるべく多くの敵を引きつけて役に立ってくれればいいが。

「シンさん、大丈夫なんでしょうか…?ロイ船長」
彼女が心配そうに門の方を見た。
「大丈夫だ。アイツはしぶとさと逃げ足だけは一流だからな。」
「ま、ロイだし、殺しても死なねーよ。とっとと船長達と魔女の鏡ってのを探そうぜ」
彼女が登りきったあと、ハヤテも続く。

「ハヤテ、先に降りてクッションになれ。コイツが降りれねー」
「ったく、シンは人遣い荒すぎるだろ!」
「俺はネコの姿なんだ。仕方ねーだろ。ぐずぐずしてると見つかる」
「何で薬呑まねーんだよっ!」
「いざという時の為に乱用はできない」
ルルが作ってくれた丸薬は僅かしかない。
3分を何とか改良して15分くらいまで伸ばしたものだ。
結局30分までにはならなかった。
ルルは出来の悪い自分を責めたが、俺達が出発を急いだせいもある。
それに、薬の多用は身体に負担がかかる上に効力も薄れるとルルからは言われていた。

「クソッ。おい!お前ドンくさいんだから肩から足踏み外すなよな!」
「す、すみませんっ、ハヤテさんっ」
ハヤテはブツブツ言いながらも、彼女を降ろす。
「おい、こいつをドンくさいと言っていいのは俺だけだ」
「ハイハイ。あー、クソ。オレ、何でこのチームなんだ?!早くナギ兄達に会いたいぜ!」
「ナギ?コキ使われるのは一緒だろ」
「一緒じゃねーよ!ナギ兄はシンみたいに性格悪くねーし!」
「へえ、そりゃ良かったな」
「それにナギ兄はいつも美味いメシを食わせてくれるしな!」
「何だ。餌付けか」
「え、餌付けじゃねー!!」
「し、シンさん。ハヤテさん。騒ぐと見つかっちゃいます」
彼女の仲裁で俺たちは言い合うのを止め、城内へと足を向けた。

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