Novel

□curse呪いの街
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隣の部屋に入ると小奇麗に片付いていて、大きなベッドと広いソファーがあった。
「さぁ真珠ちゃん!いざ俺たちのベッドへ!」
ロイが彼女の手首を掴む。

ガリッ
「いってえ!」
飛びかかってロイの手の甲を引っ掻いてやる。

「学習しねーやつだな。俺とコイツがベッド、お前とハヤテは床かソファーだ」
「ちぇっ、仕方ねーな。オレはソファーで我慢してやるよ」
ハヤテがごろりとソファ―に横になる。

「おい待て顔だけ剣士っ!このロイ様は船長なんだぞ!何でこのオレが床なんだ?!」
「お前みたいなヘボ船長は床で充分だろ?」
「ダメだダメだダメだっ!!オレはな…オレはお前と違って繊細なんだぞ!枕が変わったら眠れねえんだ!床なんて絶対眠れないに決まってるじゃないか!」
「無理も何もお前の都合なんて聞いてねーし。それに繊細さで言ったらオレのほうが上に決まってっだろ」
「お前のどこに繊細さがあるって言うんだ!どうみても脳みそまで筋肉だろ?!オレのほうが繊細に決まってる!」
ロイとハヤテが言い争い始める。

「ロイ船長。ハヤテさんっ、ええと、あのぅ……」
「●●、放っておけ」
「で、でも、床はかわいそうじゃないですか?ソファーは広いですし、私とシンさんはそっちで、ハヤテさんとロイ船長が大きなベッドを使うってのはどうでしょう?二人くらい眠れそうですよ」
「はぁ?ちょっと待てよ。何でオレがロイなんかと同じベッドで寝なきゃならねーわけ?野郎同士で寝れるかよ」
「それはこっちのセリフだっ!やっぱりここは穏便にオレと真珠ちゃんが大きなベッドでって、いってええ!!何するんだ眼帯っ!オレの手は爪とぎじゃねーぞ!」
「爪とぎ以下だろ」
「ああもう、うるせーな。オレはもう寝るからな」
「だから勝手にソファーで寝るなバカ剣士!」
「んだと?バカにバカと言われる覚えはねーよ!」
「お前こそ今オレをバカと言ったな!バカって言うやつがバカなんだぞ〜!!」
「お前も数秒前に言っただろ、バカ」
「ん??オレも言ったのか???…あ〜!今、ムッツリ眼帯までオレをバカと言ったな!」
「ま、待ってください皆さん!騒ぐとルルさんの迷惑になりますってば」


カチャッ
ドアが開いて、ルルが顔を覗かせる。

「あのぅ、騒がしいんですけど」
「あっ、ごめんなさいっ。集中できませんよね」
彼女が頭を下げた。

「だから俺とコイツがベッド、ハヤテとロイはソファーと床だ」
俺が念押しすると、
「なるほど。寝る場所が足りなくて揉めてらっしゃったんですね。すみません気が利かなくて…えいっ」
ルルは小さく呪文のような言葉を呟き、近くにあった毛布に触れた。
たちまち毛布はボンッと膨らんで、大人一人が眠れる大きさに変わる。

「すっげえ!!!お前やっぱ魔女なんだな!!」
ハヤテが感心したように言う。

たしかに目の前で見せられると、どういう仕組みになっているのか気になるな。

「ものを膨らます。この魔法だけは確実にできるんです。普段はあまり役にたたないんですけどね」
「いや。野菜とか膨らましたら、めいいっぱい食えるぞ」
ロイの提案に、ルルははっとした顔になった。
「ほっ!ホントだ!頭いいですねっ!!」

……。

「ヒーッヒッヒッ!当たり前だ!オレはこいつらと違って船長なんだからな!普通じゃ思いつかねえことを考えつくんだ!」
「すごぉい!!ロイ船長、お料理もできるしスゴーイ!尊敬しちゃいます!」
ルルが顔を輝かせてロイを見上げた。
褒められ慣れしていないからか、ロイは少し戸惑ったあと嬉しそうな顔をする。
「そ、そうか?そうかそうか!もっと褒めていいぞ!」
「ロイ船長さすがーっ!」
…ったく、幸せなやつらだ。

「おい。馬鹿達は放っておいて休むぞ」
彼女を促してベッドに潜り込む。

「えっ?は、はい」
ロイも同じ部屋にいることだし油断はできないが、身体だけは休めたほうがよさそうだ。
この身体に慣れないせいか、いつも以上に体力を使う。

彼女の腕の中で休んでいると、ふと視線が交わる。
「どうした?眠れないのか?お前は少しでも眠っていた方がいい」
「はい…」
「寒いのか?」
「いいえ。こうやってシンさんを抱っこしてると暖かいです」
「ならさっさと寝ろ。ロイのことなら俺が見張っているから気にするな」
「ちょっとまて眼帯〜!何でオレが見張られなきゃならねーんだ!というかオレだって可愛い黒猫になっていれば真珠ちゃんと肌身を寄せ合っていたのにっ」
ロイが部屋の隅でブツブツと声をあげる。

「フン、馬鹿か。ネコだろうとネコじゃあるまいとコイツと寝るのは俺と決まっている」
ハヤテはもう寝入ったのか、ソファの上で微動だにしない。
「シンさんは眠らないんですか?」
「ネコは夜行性だからか、あまり眠くはないな」
「シンさん…ごめんなさい。私を庇って、ネコになってしまって」
「急にどうしたんだ」
「だって…もし…もし、ルルさんが元に戻す方法を見つけられなかったら、シンさんが戻れなかったらって思うと…」
彼女の声が不安げに震えた。
「そうだな…もし俺が元の姿に戻らなければ、お前を腕に抱きしめることもできなくなるな。そうなったら他の男を選ぶか?」
意地悪そうに言ってやると彼女は思いっきり首を振る。

「いいえっ!シンさんはシンさんですっ!そ、その時は、私が一生抱っこして面倒みますからっ!舵だってシンさんに教わって取れるようになってきたしっ!な、何があったって離れませんから!」
ぎゅうっと彼女の両腕が、俺の身体を締め付けた。
「バカ。くるしーだろ。抱きしめ過ぎだ」
「あっ、す、すみませんっ」
「フン…生意気言うな。お前に舵はまだまだ任せられねーよ」
「うっ、で、ですけど…もしもの時はシンさんの手のかわりになれるように頑張るつもりですっ」
「アホ」

俺は悪態をついたが、苦しくなったのは身体ではなく胸の奥だった。
彼女の真っ直ぐな言葉は、いつも前触れもなく唐突に、確実に。
俺の心を締め付ける。
深く柔らかい処に―――優しく痕をつけて

ネコの習性なのか男の本能なのか、どちらかわからないと感じながら、
俺は彼女の胸元を舐めた。

「…きゃっ…シンさっ…んっ」

鎖骨、首筋、頬。
牙を立てないように焦らすようにそっと舌を這わせると、彼女は悩ましげな溜息を漏らす。

「あっ…っ…くすぐっ…」


「お、おーい。お前達…このロイ様の存在忘れてないか?!オレは起きてるんだぞーなに堂々とイチャついてるんだ〜っっ!お〜いっ!!」
ロイが離れた位置から小声で呼びかけてくるのを無視し、耳を舐め上げると、

「ひゃっ、あ…」
彼女は小さく悲鳴をあげた。
「このまま身体中を舐めて、人間の姿じゃなくてもお前を満足させることは出来るが…いつもの啼き声をロイに訊かせてやるのはもったいないな」
「な、なきごえ…っ?」
彼女は耳を抑えて、上気した頬をさらに紅くする。
「心配するな。俺は絶対に元に戻る」
「シンさん…」
「何だ?俺の言うことが信じられないのか?」
「い、いいえっ!」
「なら、もう寝ろ。それとももっと舐めてほしいのか?」
「えっ!いえっ…あっ、いえ、でもなくて、えっと…」
「ククッ…さっきの続きは元に戻ってからのほうが、俺が愉しめる。それまでオアズケだ。わかったらもう休め」
「はいっ!」

ルルが方法を見つけようと見つけまいと、俺はどんなことをしても元の姿に戻る。
コイツを置いて、
ネコのままでなんかいられるか―――


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