Novel

□curse呪いの街
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「ずっと一人なんですか?家族は…?」
彼女が訊く。
「小さい頃は他の街に住んでたんですけど、魔女狩り戦争が起こって…両親はそれで命を落としたんです。おばあちゃんがこの街に居たから、私はここに引っ越してきて」
「魔女狩り戦争?」
聞いたことがない、という表情で、彼女が首をかしげた。

「数百年前、世界で大規模に起こった戦争だ。各国の政府が結託して魔女の疑いがある女を片っ端から裁判にかけた。黒魔法に手を染めた魔女達を退治するため、という名義だが、実際は政治的、宗教的な要素が強い」

俺が応えると、
「よく知ってるんですね」
ルルが驚いた顔を見せた。
「子供の頃、シスターに聞いたことがある。もっとも、シスターも祖母から聞かされた話らしいが」
「実際に私達のように本物の魔女も居ましたが、その多くはあらぬ疑いをかけられて一方的に処刑された方々ばかりなんです。両親はそんな方々を救おうと奔走していたら…命を落としました」

「…って待てよ。ルルの両親がその戦争でって…お前何歳?!」
かなり珍しいことにハヤテがめざとく気付き、驚いた顔をした。
「331歳です」
「さんびゃくさんじゅういち?!」
「あ、魔女は長生きなんですよ。私なんて魔女の世界ではまだまだヒヨっ子ですから」
どう見ても14、15歳にしか見えねーが。
悪魔や巨大イカが存在する世界だから、長生きの魔女がいてもおかしくはない。
「おばあさんはいつお亡くなりになったんですか?」
「うーんと、私が126歳くらいのときだった気が…3000歳を超えてましたから。寿命でした」
「じゃあずっと、それからココで一人で…?」
「はい。だからあなた達みたいに賑やかなお客様は嬉しいです」
ルルは本当にうれしそうに微笑んだ。

「ここカースに貴族の城が出来てから、夜ごと、あの黒い雪が降るようになったんです。街が呪われたからだと言われています。この雪は普通の雪よりもずっと冷たくて、朝には溶けてしまい、決して積もらないんです」
普通より冷たい雪…か。
暖炉の火が小さいのもあるが、部屋の中に居ても熱が奪われそうなほど冷え込んでくる。
ローブで覆いきれない彼女の膝に、俺はするりと乗った。

「シンさん…」
「俺が寒いからこうしてるだけだ」
「ありがとうございます」
彼女の手が、ゆっくりと俺の背中を撫でた。
「何てうらやましいことをしてるんだ眼帯っ!俺も真珠ちゃんの膝をあたためるぞーっ!」
ガリッ
近付いてきたロイの鼻の頭を引っ掻く。
いってえ!!あああっ!このロイ様の顔に傷を〜!!親にもぶたれたことないのにぃ!!」
ロイが引っ掻かれた傷をこすり、叫んだ。
「半径2メートル以内に入れば容赦なく撃つと言っておいたはずだ。撃ち殺されなかっただけマシだと思え」


「カースの街に全く人がいなかったのも、全部その貴族ってヤツの仕業なのか?」
ハヤテがルルに尋ねる。
公爵ロベール・ジョンソン。悪魔に魂を売った男。もっともこの名前は、カースでは口にしてはいけない事になってるんです。名前を言うだけで悪魔の使いがやってくると言われているので。住人は四六時中監視されていて、即座に処刑されます。だから彼らは誰とも会話せず外にも出ません」
「そういえば酒場の男もそんな名前を言いかけて死んじまったよな…お前は大丈夫なのか?」
「ええ。この家は特別な魔法陣の上に建っていて外界から守られています。あ、ちなみにその魔法陣は私が書いたのではなく、亡き大魔女のおばあちゃんが描いたもので…。だからあのお城からすれば、ここは迂闊に手は出せないちょっと厄介な場所になってるんです。」
大魔女の血を引く落ちこぼれの魔女。
その男からすれば、良いように利用したいところかもしれねーな…。

「おい。呪いを解くカギは本当に何も思いつかないのか?」
俺はルルを問いただした。
「うーん…呪いをかける時は、通常は解除の言葉を設定するんです。女神様の場合は清らかな乙女の水着100枚。これを達成するしか…」
「質問!何で清らかな乙女の水着100枚なんだ?変態さんなのか?」
ロイが手を挙げる。
「偶然です!その時泳いでみたいなぁって考えてたからかも?だ、だから私は落ちこぼれなんですよ…解除の言葉もちゃんと設定できなくて。それにシンさんがネコになっちゃったのは奇跡みたいなものですし、ますます難問です。もっと能力のある魔女だったら戻す薬を特別にちゃちゃっと作れるんでしょうけど…」

ルルの言葉に●●ががっくりと肩を落とした。
「で、でもっ!久しぶりに魔法書を取り出して調べてみます。必ず、とお約束はできませんが、少し時間を下さい。あなた達は貴族の城へ向かうつもりなんですよね?」
「ああ。こっちにあんまり手がかりがねーなら、そっちに向かって仲間と合流するしかねーだろ」
ハヤテが即答する。
「船長達は無事に着いたでしょうか…?」
●●が心配そうに声をあげた。
「は?大丈夫に決まってるだろ。俺たちは最強のシリウス海賊団なんだぞ。悪魔と契約だか何だか知らねーけど、ンなもん朝飯前だっつーの」
ハヤテが勢いよく応えると、●●は少しだけほっとした顔になる。

ハヤテは単細胞だが、コイツのこういう前向きな所は嫌いじゃない。
「悪魔だというなら、こっちは本物と戦ったこともあるくらいだしな」
俺が一言加えると、彼女は以前立ち寄った遠い国を思い出したのか、笑顔になった。

「そうですよね。ソウシさんもナギさんもトワ君も、みんな強いですもんね!」
「あなた達は強い海賊さんなのかもしれませんが…彼を甘く見ない方がいいです。行くならそれ相当の準備をして臨んだほうが」
ルルは端に置かれた本棚から幾つか書物を取り出してくる。
「私だって大魔女の孫ですから!やるときはやります!とりあえず、ネコ化を解くカギを探してみますっ」

「お手伝いできることありますか?」
●●は声をかけたが、ルルは首を横に振った。
「魔法書は独自の言葉で書かれているのであなた達では読めないし、一人で読むほうが集中できるので…あっ、皆さんは隣の部屋を使って休んでいてください。おばあちゃんが使っていた部屋で、必要なものは揃ってますから」
もう俺たちのことは気にならない、といった様子で、ブツブツと言いながらルルは分厚い本をめくり始めた。

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