Novel

□curse呪いの街
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「…さん…シンさんっ…!」

………声?
目の前で俺を呼ぶ声がする。
ひどく大きく聞こえる。

「うるせーな…」
「良かったっ!しゃべれるんですねっ!」
瞼を開けると、心配そうに覗き込む彼女の顔があった。

しゃべれる?
「背中を打ったくらいで話せなくなる訳ねーだろ」

その後ろには見慣れたハヤテとロイの顔が――――何故か驚きの色を浮かべていて…



……ん?

皆が大きい…?

どういうことだ?!



「…シンさん…なんですよね?」
彼女が瞳に泪を浮かべて俺を抱きしめた。

俺の身体は彼女の腕にすっぽりと入ってしまっている。
込み上げる悪い予感を打ち消し、
なんですよね、とはどういう意味だ?と聞き返そうとして、俺は自分の手のひらを見て気が遠くなった。

手のひらの真ん中に…ピンク色の…これは…

………どうみても肉球。

というか、身体が黒い毛で覆われている?

いや、俺の身体が縮んだような…
だから彼女やハヤテ、ロイが大きく見えるみたいだ。

横を見ると、俺のだと思われる黒く長いしっぽがふわふわと動いていた。
つかみたくなる衝動を抑え俺は低く唸った。

「これは…いったい…」




「ふ、不審者っ!!」
ふと背後から女の声がして、振り返ると子供のような女が立っていた。

年は15ぐらいだろうか。
かなり幼さが残っている。
黒いローブから、銀色に光る長い髪と透き通るほど白い肌が覗いていた。

「うぅ…晩御飯泥棒…。せっかく帰ってから食べるのを楽しみにしてたのに…」
女は、ロイ達が食べ散らかした跡をみて泣きそうな顔になった。
「わ、悪かったよ!泣くなって!オレら道に迷っててすげー腹減ってたし、ウマそーだったからつい。金ならコイツが払うから!
ハヤテがロイを指さした。

「お、おい!何でオレなんだ?!」
「お前が一番に食っただろ?」
「うっ…だが、お前の方がアホほど量を食ってただろう?!おい女!まだ残ってるんだし金も払うから泣くなっ!」
「もしかして誰か来る予定だったのかよ?すんげー量の料理だったけど…」
「こんなちょびっと残ってても足りないですぅ〜!」
女はガキのようにビービーと泣き始める。

「アレ全部お前が食うメシだったのかよ?!どんだけ大食いなんだ。わ、わかった!じゃあ料理作るの手伝うから!コイツが!」
「だ、だから何でオレ?!そりゃあ、このロイ様は料理洗濯なんでも得意だがな!」
「…だったらハンバーグ作れますか?」
女は涙を浮かべつつロイに訊ねた。
「モチロンだ!ロイ様に不可能は無い!だから泣き止むがいい!」
「はい…」
女を慰めてる図に見えるが、不法侵入者で不審者なのは普通に考えれば俺達だろう。
「んじゃキマリ。よし!そうと決まればもう一度晩飯を…」
ハヤテが場をまとめようとするが、
「ち、ちょっと待ってください!シンさんがこんな姿なんですけどっ…」
彼女が慌てて三人に声をかけた。

俺が、こんな姿…。

そうだ。

この肉球もしっぽも、悪夢だとしか思えねーが…どうやら現実らしい。


「きゃあ〜!可愛い〜っっ」
若い女は俺を見るなり、ひょいと腕を伸ばして抱きしめてきた。

「おい何する…」
「黒猫が眼帯つけてるぅ〜っ!服着てる〜!人間の言葉しゃべってる〜!!」

黒猫?!

「…俺は…やはり黒猫になってるのか…」
「あれ?この子、もしかして人間だったの?」
若い女は不思議そうな顔をした。

「そ、そうなんですっ。さっきあの戸棚が落ちてきて、シンさんが私を庇ってくれて…それで気付いたらこんな姿に…!」
「わっ、ホントだぁ。薬が全部割れてる…」
女はぐしゃぐしゃになった床を見て溜息をついた。

――どうやら割れた瓶に入っていた薬液が混ざり、俺の身体を猫に変えてしまったらしい。

服や武器、眼帯までが全て猫のサイズに縮んでいた。


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