Novel

□curse呪いの街
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「さっきからずっと同じ所を進んでいる気がするんですけど…暗くなってきましたし、こっちで合ってるんでしょうか?」
鬱蒼と茂る森の中を歩きながら彼女が不安げな声をあげた。
陽が沈みはじめ、辺りは少しずつ薄暗くなろうとしていた。

「どこもかしこも木ばっかりで、進んでんのかもよくわかんねーな。オレ腹減ってきた」
ハヤテが腹をおさえて溜息をつく。
「真珠ちゃん!心配するな!このロイ様がいるかぎり、どんな暗い森だろうとだいじょ…」

どかっ!
「だからどさくさに紛れて触るなと何度言ったらわかるんだ」
彼女の手を掴んでいたロイの腕を蹴飛ばす。
「いってえ…!腕が折れちゃうじゃないか!」
「撃ち抜かれなかっただけマシだと思え」
「くっ…俺だっていつもいつもやられっぱなしじゃないぞ!喰らえ!ロイ特製コショウバクダ…!

カキィィィンッ
ハヤテがロイの爆弾を剣で弾き飛ばす。
「ったく止めろよな〜…お前ら、ずっとソレ。シンもロイと絡むと歯止めがきかねーっつうか…」
「フン。この馬鹿がこりねーからだ」
「まぁ、ロクな手がかりもねえし腹も減るしイラつく気持ちもわかっけど」

なにィ!まさかこのロイ様に八つ当たりしてたのか眼帯?!
「心配するな。俺がムカついている原因の9割はお前だ、ロイ
「なーんだそうかぁ!八つ当たりじゃないのかぁ!…ん??
フン、めでたいヤツだ…。


カースの街中では結局人に会えず他に手がかりを得られなかったが、男が指さした方角には確かに森があった。
森の中を歩き出してから3時間近く経っている。

「そろそろ野宿できそうな場所を見つけておいたほうがいいな」
「そーだな。交代で火の番をしてりゃあそのへんで…って、アレ、家じゃねえの?
ハヤテが指さした方向に、ぽつんと家が建っていた。
窓から明かりが漏れている。
「わーい!これで野宿せずに済むぞーっ!」
浮かれてロイが飛び出していった。
「おい待てよ!どんなヤツが住んでんのかもわからねーのに…」
ハヤテがロイを止めようとして、俺はそれを制した。

「シン?」
「どんなヤツが住んでるかわからねーから、あのバカに確かめさせる。いざとなったら戦闘を有利にするための囮くらいにはなるだろ」
「……やっぱお前って…」
「俺が何だと言いたいんだ?」
「いや、何でもねー…」

ドアが開いていたのか、ロイは家の中へと消えて行った。
そしてしばらくしてから顔を覗かせて俺たちを呼ぶ。
「おおーい!誰もいないぞ?しかもすっげー美味そうな料理がある!」

誰もいない?
灯りがついているからには、誰かが住んでいることに間違いないが…

「とりあえずこうしてても仕方ねーし、誰も居ないなら食いモンだけでももらっちまうおうぜ。オレ、腹が減って耐えられねえ」
ハヤテも飛び出す。

彼女の方を見ると、やっぱり腹が空いたのか、タイミングよく、ぎゅるるる…と音が鳴った。
「あああのっ…私は大丈夫ですからっ!」
「…しかたねーな。行くぞ」

小さな造りの家の中に入ると、テーブルにパンや果物や肉が盛られ、シチューの匂いが部屋を満たしていた。
隠れる場所もなさそうだし、本当に誰もいないのか…?
料理の準備がしてあるということは、出かけていてまもなく戻ってくる、といったところか。
外を警戒しながら、ドアの側に立つ。

テーブルの前で、ロイとハヤテは早速ガッツいている。
「うっめえ!このシチュー最高にうめえ!」
「ふむふむ。なかなかの味付けだな。ここの住人は女とみた!」

……バカか。
何が入ってるかもわからねーのに…
よく口にできるな…。

部屋を見廻すと、何かの研究室のように棚の上にびっしりと瓶が並んでいる。

薬…?
もしかしてこの家は、俺達が探している『魔女の家』かもしれない。


「真珠ちゃんも食べないか?!美味いぞ!」
ロイが彼女に声をかけた。
「あ、あの…家の人もいらっしゃらないし、勝手に入って食べてはダメだと思うんですけど…」
「いんじゃね?誰もいねーし、帰ってきたらそん時はそん時で!」
ハヤテが骨付き肉を頬張る。

彼女がうかがうように俺を見た。
「とりあえず毒はねーみたいだが…用心したほうがいい」
「は、はい…」
どんな住人にせよ、そいつに情報を聞く以外この森で有益な情報源はなさそうだ。
姿を現すまで、こうしてここで待つしかない。

「真珠ちゃん!お腹がすいてるんだろ?そんな疑り深いヤツの言う事なんて無視して、オレが食べさせてやろう!何だったら口移しでっ!」
「きゃっ…!」
飛びかかってくるロイを避けようとして、彼女が後ろに下がった途端バランスを崩した。
その身体は大きく壁にぶつかって頭上の棚が崩れ、大量の瓶が落ちてくる。

「危ない…っ」

俺の身体は彼女を庇おうと、とっさに動いていた。
腕の中に抱きしめ、落ちてくる戸板や薬品の盾になる。

激しくガラスの割れる音が俺たちを包んで

背中に焼けるような痛みが走り――――

俺はそのまま意識を失った。



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