Novel

□curse呪いの街
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「何だか暗い雰囲気の街ですね…」
トワが街中をぐるりと見廻してから眉をひそめた。
スパからさほど離れていない隣町・カースは、観光客で賑わうスパの街と違って、足を踏み入れた途端に異様な空気が身体を包み込むような陰気さだった。

「ほんとにココは街中なのか?ってくらい、人が歩いてねーな」
ハヤテが言うように、中心部と思われる通りを歩いているにも関わらず、立ち並ぶ家のドアは固く閉ざされ、人影もない。
「おい、ロイ。この街の情報を何か持ってねーのか」
後ろをついてくるロイに船長が振り返って声をかけた。
「はっはっは!リュウガ!さっそくこのロイ様の助けが必要なようだな!」
ロイが声高らかに笑う。

どかっ
「いっでえ!!何するんだ!悪魔航海士!!」
ロイのすぐ後ろを歩いていた俺は、その背中を蹴とばした。
「勿体ぶってねーで、さっさと話せ」
「クッソ―!きいて驚くな!この街はなぁ…この街は…呪われている!と聞いたことがある!」

「呪われてる?どういうことだ?」
ナギが怪訝そうに聞き返すが、ロイは首をかしげた。
「…さぁ?さっぱりわからねー。それ以外は何も情報無しだ!」
「期待して損しちゃいました…」
トワが大きくため息をついた。
「威張って言うなよな!偉そうだったわりにクソの役にも立ってねーじゃねえか」
ハヤテがロイを小突く。

「いって!り、リュウガ!お前のとこの船員は、どうしてこうも手が早いヤツばっかりなんだ!」
「殴りたくなるツラしてる方が悪い」
「くっ…し、真珠ちゃん!こんな野蛮なヤツらといるよりも、オレの船に来たほうがよっぽど…」
ロイが彼女の手を取った。

チュインッ
「どさくさに紛れて、俺のものに触るな」
ロイの足元を撃ってやると、ちょこまかと逃げ回る。
フン…逃げ足だけは一流だ。

「おおおおおまえこそ、どさくさに紛れておおお俺のものとか発言なんてうらやましすぎるぞっ!」
「俺は事実を言ったまでだ」

「あぁー!ったく!シンもロイもやめろ。一応目的は同じで行動してんだ。ちょっとは協力…は無理かもしれねえが、騒ぎを起こすんじゃねえよ」
船長にたしなめられて、仕方なく俺は銃をしまい込んだ。
「チッ…」

「しかし…呪われた街、か。確かにね。何かが起こりそうな不穏な空気を感じるね。どこもかしこも生活感がない。人もいないし、街らしくない、というのかな」
ドクターが視線を止めた先に、酒場らしき看板があった。
「酒場か。情報収集は酒場で!だな」
嬉しそうな顔を見せる船長に俺たちは黙ってついていった。


「なんだ…やってねえのか?」
店に入るなり、船長が途端に落胆した声を出す。
中は薄暗くがらんとした店内は誰も居ない。
テーブルにイスがあげられたままで、客どころか店員すら見当たらない。
「キッチンも誰も居そうにねーな」
ナギが奥を覗き込んだ。

「どわあああああっ」
「きゃああああ!」
背後でハヤテとトワの叫び声が上がる。

「い、いまっ、何か踏んじまったっ!!何か柔らかいものがオレの足をっ…!」
ユウレイが苦手なハヤテが、よほど驚いたのかトワに抱きついている。
「は、ハヤテさんの声に、僕はビックリしましたよ…」
「う、うっせえ!何なんだよっ…ったく…」
見ればその足元には、マスターらしき男が膝を抱えてうずくまっていた。

目が――虚ろだ。
まるで人形のような…空っぽの瞳。
どこかが…様子がおかしい?

「あなたはこの店の方ですか?私たちは貴族の城と魔女の森を探しているのですが、ご存じですか?」
ドクターはうずくまっている男と同じ目線に屈んでから、丁寧に尋ねた。

貴族の城という単語を訊いた途端、男の目にほんの少しの光が指し込んだ。
「きぞく…この街の外れの…呪われた城に…アイツが…」

「呪われた城?アイツ?」
「娘を…娘が…あそこに連れ去ら…」
男はパクパクと苦しそうに口を動かした後、それきり黙り込む。
「娘?娘さんがどうかしたんですか?」
トワがきくが、また虚ろな瞳に戻ってしまう。
「困ったね。…街外れにある貴族の城っていうのはどの方角に?」
ドクターがもう一度訊くと、男は黙ったまま、すぅっと指を指した。
「じゃあ、魔女の森の場所はご存知ですか?」
その言葉に、今度は正反対の方角を指さす。

「真逆じゃねえか。確かなんだろうな?それから娘が城にってのは…」
船長が男を睨むと、男はビクッと肩を震わせてから、
「娘が…城に…ロバール、ジョ、ぐぅッ」
目をむき血を吐いて座った姿勢のまま、男は動かなくなった。

「なっ…!」
ドクターが慌てて脈を診るが、すぐに首を振る。
「心臓が動いていない。発作…かな…」
発作?
持病を患っていただけなのかもしれない。
だが…何かを言おうとしてムリに口を閉じた…
いや閉じさせられたようにも見えた。

「ヤバイ!この街はやっぱり呪われてる!しかも大した宝も無さそうだしとっととオサラバだ!」
ロイが逃げ出そうとして、その襟首をナギが掴んだ。
「一度引き受けたことを投げ捨てるのは男らしくねえ」
「お、オレは…こ、このロイ様は海賊だぞ!陸のもめ事なんてそもそも関係ないんだーっ!
ロイが暴れると、ナギは溜息をついてからその手を離した。
「勝手にしろ」
ドスン、とロイが尻餅をつく。

「まぁ、ロイがいたところで足手まといになることがあっても戦力になんてならねーか」
「な、何だと?リュウガ!」
「お前は昔っからそうだ。余計なことばっかりしやがるし、ロクなことをしねえ。ビビりだしな」
「くっ…うるさいっうるさいッ!オレは世界をまたにかける海賊船!リカー号の船長、ロイ様だぞ!ビビりなわけねーだろ?!」
「ふん、どうだかな。…これからの計画を言うぞ。貴族の城と魔女の森は正反対の方向らしい。だから二手に分かれる。用が済めばスパの街の店で合流だ。城の方が警備が頑強そうだから人数が多い方がいいだろう。魔女の森へは…シン、ハヤテで行け」
「シンと一緒っすか」
ハヤテの不満そうな声に、俺も応える。
「それはこっちのセリフだ」

「●●は…もちろんシンと一緒だな。残りは全員、貴族の城へ向かう」
「アイアイサー!」
「ちちちょっと待て、リュウガ!オレはもちろん、真珠ちゃんと一緒に行くぞ!」
ロイが慌てた声をあげた。
「むさくるしいお前らと行くのは嫌だ!オレと真珠ちゃんは運命共同体!どこまでも一緒だからな!」

どかっ

「いってえ!また蹴ったな!ムッツリ眼帯!!」
「寝言は寝て言え、ストーカー。ついてくるな」
「何だと?!お前についていくわけじゃない!オレは真珠ちゃんが淋しがるだろうと思って言ってるんだぞ」
「そんなわけねーだろ。お前がついてきてもロクなことにならねーのがわかってんだよ」
「おおおお前までリュウガみたいなことを言いやがって!途中で困ったって絶対に手助けなんてしてやらねーからな!」
「お前の助けなんて死んでもいるか。…船長、ロイは貴族の城の方につれてくださ…」


「シン。船長と皆なら、もう城へ向けて出発したぜ?」
ハヤテが溜息をついてこっちを見る。

……まさかロイを押し付けられたのか?!

「しょうがねえからこのメンツでとっとと行こうぜ」
ハヤテは諦めた顔で戸口にもたれている。
彼女はその横で困った顔で笑っていた。

「チッ…足を引っ張ったり●●の半径2メートル以内に入れば、容赦なく撃つ」

「…ふ、ふんっ!撃てるものなら撃ってみ…

ろーーーーー!!!って、やっぱり本気で撃つのかっ?!ちちちょっとは躊躇えよ!」
「だから撃つと言っておいてやっただろ」
「シンはマジで容赦ねーからな…ったく、こんなことしてっと進まねえ。」
ハヤテが店のドアを開けた。
「しかたねーな…」
ロイなんかでも何かの役に立つ時があるかもしれない。
だが―――油断は出来ない旅になりそうだ…


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