Novel

□Spaの街
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数分後。
トワ君が大量の水着を持って戻ってきた。

シン「お前はコレをつけておけ」
シンさんがその中の一つを手渡してくれる。
ソウシ「はい、みんな。●●ちゃんが着替えるから向こうをむいてようね」
ソウシさんの声に、みんながくるりと背を向けてくれる。

皆から見えないようにバスタオルをカーテン代わりに拡げて立ちふさがったシンさんと、私を凝視している船長二人を、除いて。
バスタオルの下から水着を身に着けるだけなんだけど、
き、着替えられない…。

シン「…船長」
リュウガ「ん?俺は船長なんだから特権で…って、わかったよ。んな、怖ええ顔で睨まなくていいじゃねえか、シン。冗談だ」
シン「冗談に聞こえません」

ロイ「俺はお前らに命令される覚えはないぞ!だいたい、眼帯だって背を向けてないじゃないかっ!ズルいぞ〜」
シン「俺はいいんだ。コイツの裸はもう何度も見てるからな」

そ、そんなこと大きな声で言われてもっ!
恥ずかしすぎるっ…。

ロイ「わー!わー!なんてうらやましいことをさらっと言ってるんだ!相変わらず嫌なヤローだな!!」
リュウガ「おら、ロイ!俺も見れねえのにお前が見るなんて許さねえ」
船長はロイ船長の頭をぽかっと叩くと、そのまま無理やり首元を掴んで背を向けさせた。

シンさんが隠してくれている間に、バスタオルが解けないように気をつけながら、水着を着る。
今度はワンピースになっている水着だから、引っ張られたりしないよね。

●●「みなさん、着替え終わったからもう…」

そう言い終わらないうちに、

トワ「あっ、ハヤテさん。鼻血出てます!」
ハヤテ「あぁん?んなわけねーだろ」
ナギ「思いっきり出てるぞ」
ロイ「なにぃ?!もしかして生着替えが見えたのか?見えたんだな?!オレだってこっそり隙間から見ようと思ったのにリュウガが馬鹿力で抑えてて見えなかったんだぞ!」
ハヤテ「見てねーよ!こっそりとか、んなセコイ真似するかよ!つーか俺はべつに見たくねえし!」
リュウガ「なら想像だけで鼻血出したのか?はっはっは!ハヤテ、何想像したんだ?」
ハヤテ「ち、違いますよ!オレは別にっ」
ソウシ「のぼせたのかな?あ、ほら。血を飲み込んじゃだめだよ」

●●「ハヤテさん、大丈夫かな…」
シン「どうせ血が有り余ってんだから多少抜いたって何ともねーよ。ただ、理由次第では後でもっと抜いてやるが」
し、シンさん…?

その時、カラカラと扉が開いて、トワ君に事情を説明されたという番頭さんが心配そうに混浴に顔を出した。

番頭「うちの風呂に変なモンが出てるって聞きまして…どうもすみません。ああいうイロモノを店に置いてますと客寄せになるかとも思いましたが、ご迷惑をかけているようで」
シン「出ると知っていたのか?」
番頭「噂では聞いておりましたが、アレのおかげで女湯に入ろうとする変な輩が増えて困っておりました。何とかしなくてはと思案していたところです。まさか混浴のほうにも出たなんて」
リュウガ「さあ、水着をぶち込んでみるか」
滝の中にいくつか水着を入れると、不思議なことにスーッと消えていく。

固唾を呑んで見守っていると、また光と共に女の人が出てきた。

湯の女神「また、あなた達ですか」
困ったように湯の精は溜息をついた。

リュウガ「あんたは綺麗な姉ちゃんなのに、どうして女物の水着なんて集めてるんだ?ロイと同じ変態か?」
湯の女神「失礼な。私はれっきとした女神です。変態は嫌いだと言ったでしょう。私には呪いを解くために、清らかな乙女の水着が必要なのです」
ソウシ「呪い?…何か困っているなら私達に話してみてください」

湯の女神「はい。私はもともと森の奥深くの湖に住んでいました。ですが、森を我が物にしようとする貴族と手を組んだ魔女がかけた呪いによって、長年住んでいた湖に住めなくなりました。この体に、湯の中でしか生きられないという呪いをかけられたのです。呪いを解き湖に戻るためには1000人の清らかな乙女が着用した水着が1000着いるのです」
リュウガ「何で着用済みの水着なんだ。その貴族ってヤツの趣味か?」
ロイ「気が合いそうだ」
シン「変態は変態を呼ぶ、ってことか」

ハヤテ「でも清らかなって…だから、嘘つきじゃねえか試すようなことを聞いてんのか?」
湯の女神「はい。正直で清らかな女性には水着を戴くせめてもの御礼にと、カギを渡しているのです。それが私に出来る精一杯ですので」
ナギ「そのカギは夢を現実に出来るんだろ?だったらその力で湖も何とかできねえのか?」

湯の女神「そう出来るならとっくにしています。この力は自分の為には使えないのです。それに、カギが見せるものは私が決めるわけではなく、その人間の真相心理を描き出したものなのです。」
ロイ「じゃあオレの為に使ってくれ!俺に真珠ちゃんとの甘い生活を!!!」

どかっ

ロイ「いってえ!」
シンさんの蹴りがロイ船長の背中に入る。
シン「お前は人の話を聞いてないのか。お前のどこに清らかな乙女の要素があるんだ」
ロイ「いや、ついでにちょこっと叶えてくれねーかなと思ってみただけだろ?」
シン「叶えさせてたまるか」

トワ「うーん。呪いが解ける夢を見てもらって、それが一番いいって思ってもらうとか…」
シン「たいていのヤツは自分の欲望が一番可愛いんだ。そんな御めでたいヤツはそういない」
トワ「●●さんなら大丈夫じゃないんですか?」
湯の女神「言い忘れましたが、この力は同じ人間に二度は使えません」

シン「ならどうしてコイツの水着の下も奪ったんだ」
湯の女神「そちらのお嬢さんは珍しいほど清らかな女性だったので、上下揃うと呪いを解く効力が強いのです。カギを再び授けることはできないのですが早く呪いを解きたくて焦ってしまいました。そちらの変態の方が口を出してくれて助かりました」
ロイ「オレは変態って名前じゃなくて、キャプテン・ロイだ!」
湯の女神「湖を浄化し、保つのが私の役目です。私が早く湖に戻らないと、湖の中の生き物も周辺に住んでいる生き物も、いずれ全て消滅してしまいます。ですから私もこんなことをしたくありませんが、呪いを解くのに必死なのです。」
ロイ「…っておい、何で誰もきいてくれないんだーっ」
トワ「ロイ船長。今、湯の女神さんが大事な話をしてるので、黙っててください」

●●「こんなに困ってるなら、その呪いって何とか出来ないでしょうか?」

番頭「呪いが解けてこの人が出て行ってくれるなら…お客人たちを只者じゃないと見込んで、私からもお願いしたい。もし解決していただけたら、今後この店に出入り自由!酒も飲み放題!にいたしますから」

その言葉に、船長の目つきが変わった。

リュウガ「ここのヤマトの酒は悪くねえ。混浴も結局姉ちゃんが来ずに楽しめなかったしな。良い条件だ」
ロイ「よーし!今からこのメンツで清らかな乙女を1000人ナンパして呼び込めばいいんだな!で、水着を着てもらって脱いでもらう…!」
シン「それはどんな変態風呂屋だ」

番頭「どうかウチの風呂に変な噂が立つのだけは…!!」
ナギ「…なら、水着集めなんて面倒なことをしなくてもいい方法がある」
ソウシ「そうだね。その貴族か魔女に話をつける、という方法がね」
湯の女神「あなた達が力を貸してくれるのですか?」

ロイ「貸す貸す!だからオレにカギをくれ!」
言いかけたロイ船長を、またシンさんが蹴とばす。
シン「人助けなんてめんどくせーが、コイツにだけはカギを渡すわけにいかないな。それにお前の着た水着を変態貴族だか魔女だかに渡すわけにもいかないしな」
ハヤテ「よっしゃ!いっちょ暴れてくるか!」
ソウシ「ハヤテ。別に私たちは乱暴なことをするわけじゃなくて、あくまで穏便に話をしにいくだけだからね」
ハヤテ「わかってますって!話にならない場合はってことじゃないっすか」
トワ「困っている女性を助けるのも、シリウス海賊団の掟!ですからね」

リュウガ「よし、お前ら!めんどくせーが、ちゃちゃっと解決して、混浴で酒飲み放題だ!」

行き先は、隣町の『カース』――

たまたま立ち寄った温泉町で、私たちは思わぬ新たな冒険へのカギを手にすることになった。


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