Novel

□Spaの街
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●●「ここは…もしかして店の奥にある混浴なんですか?」
シン「……頭を打ったのか?」
シンさんの呆れた視線が降りてくる。

じゃあここは普通の混浴で、普通の世界で、目の前のシンさんは…普通のシンさん?

●●「シンさん、ずっと混浴にいたんですか?」
シン「船長が大人しく男湯にいるわけないだろ。俺はオンセンに浸かる気にはなれないが、お前がここに来ないように見ていて良かった。そこのビーチチェアでタオルをかぶって横になっていたら、目の前に上半身裸のマヌケな女が突然立っていたから驚いたけどな」
●●「マヌケって…あれ?私が来ないように見てたって…?」
シン「うるさい。そこは聞き返すな」
憎まれ口を言いながらも照れたようにふいっと横を向くシンさんは、いつものシンさんに見える。

安心した途端、吹き抜ける風に身体がぶるっと震えた。
さっき髪まで濡れたから、風に当たると寒い、かも。

シン「寒いのか?とにかく、こっちに入るぞ。船長は女湯のドアを凝視してるしすぐに戻れそうにないしな。向こうからこっちは見えない」
●●「はい」
シンさんと一緒に、庭の隅にある小さな温泉に入る。
苦しげな表情の顔像が温泉の脇にぽつんと立っていて、その口から小さな滝のように湯が注ぎ込まれていた。
湯を囲む岩の周りにはびっしりと植木が敷き詰められていて、ここに温泉があるなんて一見わかりにくい。
シンさんと浸かると、肌が触れ合いそうなほど狭い。
どきどきと波打つ心臓とじんわり温かい湯が、冷えた身体に急速に熱を与えるみたい。

目の前のシンさんを改めて見つめる。
●●「眼帯、つけたままなんですね」
こういう時も外さないのは、すごくシンさんらしい。
シン「何だニヤニヤして。気持ち悪いヤツだな」
●●「私のこと、突然可愛いって言ったりとか…しませんか?」
シン「言ってほしいのか?」
●●「愛してるって言ったりとか…」
シン「こんな悪趣味なフロにつかりながら言う趣味はない」
●●「えっ!じゃあ悪趣味なお風呂じゃなかったら言ってくれるんですか?」
シン「…調子に乗るな」

●●「私をドレイって言ったりとか…オンセンに投げ落としたりとか…」
シン「望むならそんな扱いをしてやらんこともないが。そういう遊びをしたいのか?」
●●「いいえっ、そうじゃなくて…そうじゃないこともないんですけど、でもそうじゃなくて…」
シン「フン。さっきから何をわけのわからないことを言っているんだ」

やっと…!やっといつもの…

●●「シンさん…っ!」
シンさんに会えたことがすごく久しぶりな気がして、嬉しくて思いっきり抱きつく。
シン「おい、いきなり抱きつくな。何なんだ一体」
●●「嬉しいんです!シンさんに会えて!!」
シン「ったく…しっぽ振ってる犬みてーだな」
●●「犬でもいいんです!」
ぎゅっと腕を回すと、シンさんも抱きしめ返してくれる。

優しすぎるシンさんもイジワル過ぎるシンさんも、ドキドキしたけれど。
でも…口が悪くて、時々怖くて、実はとびきり優しい、いつものシンさんが一番いい。

●●「大好き!」
シン「わかったから発情するな。今どんな格好かわかってるのか?」
シンさんが身体を少し離すと、胸に巻いたバスタオルは湯の中でほどけてまた胸が露わになる。
●●「あっ!」
シンさんの手がそっと胸に触れた。
シン「そうじゃないこともないって、さっき言ったよな」
手は苛めるみたいに、身体のラインを、温まった肌を、なぞる。
シン「●●…声を漏らすと、アイツらに気付かれるぞ?」
そう言いながら、わざと声を漏れさせるような動きが繰り返される。

●●「…っシン…さんっ」
僅かな溜息を洩らすと、シンさんがククッと笑って、解けたタオルを私の身体にキュッときつく巻きつけた。
シン「縛り方が甘いんだよ。俺と二人ならそれでもいいが、ここにはアイツらもいる。気をつけろ」
身体を苛めていたシンさんの手は、今度は私の頬を優しく撫でた。

シン「続きは二人きりの時だ。●●、お前は反応がよすぎるからな」


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