Novel

□ピンクマフラーのゆくえ
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「シン!あれ?もうピンクのマフラーはしてねえのか?」
ハヤテが俺を見るなり、からかってきた。
「うわぁ!ハヤテさん!その話題ダメですってば!」
トワが気を遣ってハヤテをたしなめる。

―――今、マフラーの話題は一番避けたい。
俺は無視して着席した。

だが…
「はっはっは!シン!手編みのマフラーを嬉しそうに巻いてたって聞いたぜ?」
船長までもがマフラーの話題に乗っかってきた。
「…別に嬉しそうになんてしてませんよ」
「ん?俺の情報に狂いはないはずだがな。なあ?ソウシ!…しかし、シンが女からのプレゼントを素直に受け取って使ってるってのはすげえ進歩だな!」
「え?船長、どういうことですか?」
トワが興味を持ったようだ。

この話題、嫌な予感がする…。

ハヤテが隣から口を出した。
「トワはあんまり知らねーかもしれねえけど、シンは女からのプレゼントをその場で突き返すのもザラだったし、目の前で捨てる、破く、銃で撃ち抜くなんてのもあったよな!」
「あれはいけないよ、シン。泣いて走り去った女性もいたからね」
ドクターまでもが加わる。

……今日は厄日か?

「けど、ちんちくりんの女からのは大事に使ってるってことは、相当入れ込んでるみてえだな!」
船長が大きな声で笑った。
皆がそれに合わせて笑い出す。
●●は恥ずかしそうにしていたが、終始笑顔だった。

…マフラーが無残に破けたとこの場で言ったら、その笑顔はどうなるだろうか。
俺は、破けたマフラーを思い出しながら黙々と食事を取った。
俺が黙り込んだのを見て、
機嫌を損ねたと思い込んだ●●がみんなの話題を変えていた。







=数日後。

俺はどうやらアイツのことになると冷静な判断ができなくなるようだ。

<悪い。破けた>
たったそれだけの事が言えずに…
どうするべきか決められないまま――
しまい込んだままのマフラーを手に取ろうと引き出しを開ける。

…ピンクのマフラーはそこにあった。

あったが…破けていない。
しかも―



俺はマフラーを手に、自分の部屋へと駆け込んだ。

そこには部屋の掃除をしていた●●が居て…

「お前、これ…」
「あ…ダメでしたか?ちょっと破けてたので、なおしたんです」
「ちょっとって…だいぶ破けてただろ。毛糸は…」

「毛糸はね、元々編んだ時に残っていた毛糸と、あとはロイ船長が届けてくれたものを使いました。このお手紙がついてて――」

●●が差し出した手紙を見ると、
<俺は悪くない!悪くないけどこれでチャラだ!>と書かれていた。

――何がチャラだ。
だが、ロイらしい。

「で?このハートマークはいったい何だ」
俺はピンクのマフラーの真ん中にデカデカと編み込まれた、黒いハートマークを指さした。

「だって、ロイ船長が届けてくれた毛糸、黒ばっかりだったんです。せっかく編み直すんだし、今度は張り切って何か模様を入れようと思って」
「…お前…絶対、わざとやってるだろ」
「ふふ。何のことですか?」

ニコニコと微笑む彼女に。
ずっとマフラーのことを言い出せなかった俺は、それ以上は何も言えずに。

ピンクに黒い大きなハートが編み込まれたマフラーを着けて、舵を取る自分を思い浮かべると…いや、想像したくはない。


「チッ…ったく。ロイの手紙で気付いたのか?」
「それもありますけど…だってシンさん、急いでると、とりあえず航海室の机の二番目の引き出しに入れるクセがあるでしょう?」
「…何でそれを知ってる」
「何でも。シンさんのことなら、何でも知ってます!…というか、知りたいです」
「フン…」
「それにね。シンさん最近元気なかったし、何かあったんだろうなぁって思ってました。航海室の掃除をしようと引き出しを開けて、なるほど!って思ったんです」

コイツ、侮れない。
やはり―――俺が選んだ女、だからか。
俺は●●を抱き寄せた。

「あ。あとで私が肩を揉みますね!私のマフラーを、大事に思ってくれてた御礼です!…薬もいいですけど、絶対そっちの方が効きますよ?」
そう言って、嬉しそうに腕の中で微笑む彼女に。
キスをする。

――今日は、降参だ。

「お前には敵わねーよ」


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