Novel

□tukimi
17ページ/24ページ



「チッ。キリがねえな…」
倒しても倒しても次々と湧いてくる兵に剣で応戦する。
ハヤテの体は二振を手にしても自在に動く。さすが頭より体で動くタイプなのか、まるで体自体が意志をもっているかのように敵の攻撃に素早く反応する。しかもかなり体力がついているようで激しい戦闘でも息切れにならない。
普段馬鹿がつくほど肉を食って筋肉量を増やしているからかもしれねーな…

俺の身体はナギやハヤテに比べてスタミナが長く持たないだろう。そろそろドクターが疲れをみせる頃か…?
ドクターを見ると、ふうっと大きく肩で息をしている。
ナギもいつもの調子で暴れ続けていればドクターの身体だと長くは持たずに僅かに疲れが出ているようだった。
瞬発力、スピード、スタミナ。それぞれに得意不得意はある…

こっちはシリウス全員が揃ってるってのに、船長とトワ以外は自分が動かしている身体を充分に掌握できていない状態で、いつもの調子は出にくい。
「どうした?もうバテ気味か?ああそうか。お前らはアンジュのせいで魂入れ替わってるんだったな。やはりガキのくせに侮れねえ。魂の変性に係る練成はオレですら長くできないってのに」

「それはサルテお兄ちゃんが『へたくそ』だからだよ」
「なっ…なに?!アンジュ…!いつのまにっ」
「鍵は貰ったわよ。変わらないわね。練成に集中すると他の事が出来なくなるマヌケな所は」
「お前らっ!いつのまに!!くそっ!その小さい女か!」
サルテが●●を睨む。

アイツがリュナと協力して鍵を奪ってアンジュを牢から出したのか。
ファジーの暴れっぷりが存在感ありすぎて死角になっていたのかもしれねえ。

「アンジュ。オレをへたくそだと?!」
「そーだよ。だから汚い手で先生から薬を奪う事しかできないんだよ」
「くそ!それ以上言うと容赦しねえっ…!」
サルテの意識がアンジュのほうへと向く。

その瞬間、船長が剣でサルテの手元の練成石を弾き飛ばした。
途端に屈強な鎧兵達は崩れ落ち、砂へと変わった。

「容赦しない?それはこっちのセリフ。しばらく反省して。サルテおにいちゃん」
アンジュが懐から瓶を取りだし床に垂らす。そして何かの数式を書込むとホウッと光が満ちてサルテの姿が変わった。

「チューチュー」
サルテは突然鳴き声をあげてきょろきょろとあたりを見廻し、牢の隅へと逃げた。
「な、なにしたんだ?」
ハヤテ(見た目ナギ)が訊ねる。

「こっちがサルテおにいちゃん」
アンジュが足元のネズミをつまみ上げる。
「あら、そっちのほうが可愛いんじゃない?」
リュナさんがクスッと笑う。
アンジュの手元で丸々太っているネズミはジタバタと暴れる。

「まさかネズミと入れ替わったのか」
ナギ(見た目ドクター)は嫌そうに呟いた。
「…手品かよ。おそろしーガキだぜ」
ハヤテ(見た目ナギ)はふうっと息を吐く。
「手品じゃないよ。錬金術だって言ってるでしょ。人体を構成している物質の分量を書き換えるんだよ」
アンジュは得意げに笑う。
リュナがアンジュを撫でた。
「さすがアンジュね…もう入れ替えが出来るなんて」
「うん。ポージョンを分解して覚えたの。同じようなものを数滴なら作れるよ。でも数式だけだと持って二日かな」
「じゃあサルテも二日で戻るわけね」


「さぁ…約束通り試験を行おう」
見れば師匠と呼ばれている男が牢から出ていていた。
目の前で一人の男を簡単にネズミに変えてしまうガキ。
そいつが先生と呼ぶほどの腕の錬金術師。

ならば、こいつほどの力があればもっと早く容易に逃げ出すことも出来たんじゃないのか?
何故かとんだ茶番を演じされられたような気分になる。
信用は出来ないが、こいつの力がなければ俺達は元には戻れない。

「君たちも元に戻さないとね」
柔和な笑みに隠された深い闇に、俺はかすかな違和感を覚えていた。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ