Novel

□tukimi
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「一つ確かめておきたい。俺達は一晩月見をして朝陽を浴びた。説明書通りにしたはずだが、あの条件を満たせなかったから戻れなかったのか?」
シンさん(見た目ハヤテさん)がリュナさんに訊ねる。
「紙?ああ、アレね。『嫌いな相手に知られない』とかそういうのね。アレは全く意味ないわ」

「「「「なんだと?!」」」」
入れ替わっている全員が大きな声をあげる。

「アンジュが言い出したのよ。ただ売るだけじゃつまらないから説明書に色々加えようって。アタシはどっちでも良かったけど、万一何か問題があったとしても食べた人間がそれのせいだって思ってくれるじゃない?」

「こいつらぜってーシメる!」
ハヤテさん(ナギさんが暴れてるみたい)が腕を振り上げ、トワ君とナギさん(見た目ソウシさん)が抑える。
「必死で隠したのに、意味が無かったとはね。好きな相手に知られてはならないなんて結構大変だったよね」
ソウシさん(見た目はシンさんがにこやかに笑っている)の言葉に、
「え?好きな相手?」
思わず聞き返すと、皆が一斉に咳払いをする。

「それより本当にマンソンジュに行けばそのガキは居るんだろうな?」
シンさん(見た目ハヤテさん)が話を逸らした。
「いるわよ。あの子は一番弟子だもの。何が何でも辿り着くはずよ。入れ替わりについてはそのうち効果が切れる…と言いたいところだけど、作ったのはアンジュだから、本格的に魂の入れ替えを試そうとしたなら普通に戻れないでしょうね。戻すとしたらあの子か師匠くらいの腕がないと無理ね」
「やはりマンソンジュに行かなきゃ解決しねーってことか」
船長は顎髭を撫でた。

「そうね。アタシにすれば大金を掴ませた男が持ち逃げなんてツイてなかったけどあなた達に出会えてよかったわ」
「大金?単にその街に行きたいだけなら船なんて沢山出ていたんじゃないんですか?」
トワ君が不思議そうにたずねる。
「いや…実はマンソンジュの街は近年頻繁に内戦が起きていると聞く。錬金術を巡っての争いだと聞いた。戒厳令が敷かれていて外交もストップしているはずだから近隣諸国で一番物騒な街だ。普通の人間なら誰も近づかない場所だろう」
シンさん(見た目はハヤテさん)がトワ君の問いに答えた。
「その通りよ。今の時期、マンソンジュへ向かおうとする人間は師匠の弟子か、内戦で一儲けしようって下衆な連中か、よほどの変わり者達だけね」
「はっはっは!俺達は変わり者って訳か」

「アタシはどうしても薬の精製法を手に入れなきゃならないのよ」
リュナさんが険しい顔で呟く。
「不老不死なんてロクなモンじゃねえように思えるけどな」
ソウシさんになっているナギさんが言うと、シンさんになっているソウシさんも同意する。
「そうだね。幽霊船の彼らは行く宛てもなく長い時間を彷徨い続けていた。それはある意味拷問だよ」

「例えアタシが師匠から薬を引き継げたとしても完成品が作れるかは難しいわ」
「ならどうしてそんな薬が欲しーんだよ?」
ナギさんの外見のハヤテさんが聞いた。
「不老不死じゃなくて単に老いの速度を食い止めて命を伸ばせる薬が作りたいのよ。その術を学ぶために錬金術の弟子になったんだし。」
「まさかその美貌を保ちたいとか言うんじゃねえよだろうな?老いもまた若さとは別の美しさがあるってもんだろ」
船長がリュナさんの肩を抱いた。

「ふふ。アタシの事情なんていいじゃない。それより、今夜アタシはどこで眠らせてもらえるのかしら?」
「俺の部屋でもかまわねえぞ」
船長が真っ先に声をあげるけれど、リュナさんはニコリと笑ってから、
「可愛い彼女と一緒に眠りたいわ」
こちらを見て言う。
さっきの頬へのキスが思い出されてドキッとしてしまう。
「ダメだっ!ソイツ女相手でも変なことしそーだし」
ハヤテさん(見た目ナギさん)が遮るように立ち塞がる。

「変なことはともかく君をまだ完全に信頼したわけじゃないから●●ちゃんと二人には出来ない。そうだね…ファジー」
ソウシさん(見た目シンさん)が呼ぶと、
「アタイはいつでも準備OKだよっ!さぁシン様、いいえソウシ様のお部屋へ行こうじゃないか!」
「君も●●ちゃんとリュナさんと一緒に医務室で寝てもらえるかい?」
「何でアタイが女達と一緒なんだい?」
「いや、フツ―女どーしだろ。つか当然のように居座ってるが泊めてやるだけでも感謝しろっての」
「黙ってな野ザル!と言っても見た目はコックだから違和感あるね。アタイはシン様になってるソウシ様と一緒がいいんだよ〜!」
ファジーさんが甘えたような声になる。
「ファジー。私の部屋は今ベッドが壊れているんだ。君を床で寝かせるわけにはいかないよ。それに君だけが頼りなお願いなんだ」
「ソウシ様っ…!ああでもシン様の顔でそんなこと言われたらアタイっ…立派に任務を遂行するよ!ドンと任せなっ」
シンさん(見た目ハヤテさん)とハヤテさん(見た目ナギさん)はひそひそと話し始める。


「うわー。ソウシさん真顔でウソついたぜ。ソウシさんの部屋、ベッド壊れてたか?」
「ファジーが寝たら壊れるという予言だろ。ファジーなんか部屋に入れたら俺の体の危機だ。寝てる間に食われる」
「ははっ!それはそれでおもしれーな」
「ハヤテ。ならお前の身体で食われてやろうか?」
「待てよシン!オレが悪かったからはやまらないでくれっ」
「ドクターの言うとおりリュナの動向は見張っておく必要がある。ファジーはあの女をライバル視しているようだから適任だろう」
「ライバルってキャラ微塵もかぶってねえだろ」
「ファジーのオメデタイ思考はどっかの馬鹿リカー船長仕込みってことだろ。それより俺達は今の身体と融合が進まないように自我を保っておかなきゃならねー」
「だな。ナギ兄はソンケーしてっけどオレはナギ兄じゃねえし、なるつもりもねえ」
「俺は死んでもどっかの単純バカになるつもりはない」
「んだよ!単純バカって!」
「ほう。自分だと自覚があるのか?」
「クソ。シンが性格最悪なのは変わらねえな。つーかあっちのニコヤカに笑ってるシンが不気味すぎんだけど」
「ドクターなんだから仕方ない、と言いたいところだが俺も自分で見るに耐えられない時がある。酒は入ってねえからもう大丈夫だと信じたいが、あの人は天然でタラシだからな」
「ファジーは喜んでるみたいだけどな!もしかして●●もあっちのが良いとか思ってんじゃねえ?女ってやっぱソウシさんみたいに優しいのが良いんだろ?」

シンさん(見た目ハヤテさん)が急にジッと真剣な表情でこっちを見てくる。


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