Novel

□tukimi
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「マンソンジュにはアタシ達の師匠がいて、彼は唯一、霊魂の変性、つまり不老不死の薬を完成させたといわれているの」
「不老不死の薬なんて…そんなの本当に作れるんですか?」
トワ君が訊ねると、ソウシさん(外見はシンさん)が答えた。
「現に私達は入れ替わってるし、存在するのかもしれないね。医学を学ぶ立場としてその薬がどんなものなのか純粋に気にはなるよ…」
「まーな。世界は広い。実際に俺達も幽霊船やらで不思議な体験は幾つもしている。そんな薬を作っちまうヤツが居たっておかしくはないだろう」
船長の言葉にリュナさんが頷く。

「資源が豊富なマンソンジュは古くから錬金術師が集まる街。常に最先端の研究が行われているのよ。ある日突然、アタシ達の師匠は不老不死の薬の精製法を三人の弟子のうちの一人に伝授すると言った。アタシとあの子、そしてもう一人の男のうちのただ一人だけにね」
「一子相伝ってヤツだな!お前実はすげーレンキンジュツシってやつなのか?」
ハヤテさん(見た目はナギさん)がリュナさんを改めて興味深そうにみる。

「言っておくけどアタシは他の弟子と比べて落ちこぼれよ。でも師匠は他の子と同じようにチャンスをくれた。アタシ達はポージョン一瓶だけを渡されて、さっきの国に行くように命じられてたの。アタシ達に課せられた課題は、各自が人体を完全にするというそのポージョンを使った団子を作り売ること。そして売って得たお金で師匠の元へ一番最初に戻って来て試験を受けた者にのみ、不老不死の薬の精製方法を授けると言われたわ」
「クソッ!すべての元凶はそのシショーってヤツか!」
ハヤテさん(見た目ナギさん)が机をドンッと叩く。
「人体実験ってヤツじゃないのか?」
シンさん(見た目ハヤテさん)の言葉に全員は黙り込んだ。
「ポージョンに関しては既に完成されたものだったし、私達も見習いとはいえ国家に認められた資格を持つ錬金術師よ。でも、そう取られても仕方ないわね。アタシ達錬金術師は数々の実験と研究の上に発展しているもの。犠牲が無いとは言えない。医学も同じよ」
リュナさんが言うと、ソウシさん(見た目シンさん)は険しい顔をした。
「チッ、犠牲かよッ」
ハヤテさん(見た目ナギさん)が悔しそうに言った。
「説明書きを読まないで食べる方が悪いのよ」
「何だと?」
ナギさん(見た目ソウシさん)がリュナさんを睨む。
「お団子に説明書きがあるなんて思わないですよ…」
トワ君が呟いた。

「僕、あの子に言われたんです。ラッキーだね、楽しいことがおこるよって…でも…皆さんだけを巻き込んでしまって…」
トワ君が俯くと、ナギさん(見た目ソウシさん)がトワ君の頭をぽんっと叩く。
「アホ。全員が入れ替わってたらますますめんどくせーよ」
「だよな。これ以上入れ替わる人間が増えてたら収拾つかねーだろ。例えば船長とトワとかな」
「ハヤテ。俺はどーせ変わるなら女と入れ替わりてぇな!それは男のロマンだろ?」
「船長、ロイに格好つけて説教してたじゃないですか」
シンさん(見た目ハヤテさん)が溜息をついた。
「ま、結局は自分の身体が一番だけどな!がっはっは!俺が俺じゃなくなっちまったら世界中の美女を悲しませることになる」

確かに全員まだ戻れていないし、段々と今の身体に慣れてきているような様子も見られる。
もしこのまま戻れなかったら…?
なんて不安もおぼえてしまう。

「落ち込むな、トワ!俺はこんな美人と知り合えて嬉しいぞ。入れ替わってるコイツらを見てるのもおもしれーしな!」
船長が真顔で言った。

一瞬だけ全員が黙り込むけれど、すぐにナギさん(見た目ソウシさん)がハァッと大きなため息をついた。そしていつもの、ナギさん特有の呆れたような優しい笑顔を浮かべる。
見た目はソウシさんだけど、その笑顔は紛れもなくナギさんだ。
「船長…面白がらないで下さい」
「そーっすよ!オレは剣の稽古よりメシのこと考えててマジでマズイなって思ってンのに」
ハヤテさん(見た目ナギさん)が笑う。
「それはお前の平常運転だろ」
シンさん(見た目ハヤテさん)が呆れると、
「ちげーよ!食うほうじゃなくて献立考えちまうんだよ!マジでナギ兄の身体になってきちまってる気がするし!油断すると人格のっとられそーっつうか上手く言えねえけど」
「そう。私だって舵取りや航路を考えてしまうんだ。気を抜くと、自分のようでもう自分じゃない気がしてくる。じゃあここにいる自分は誰なんだってね」
ソウシさん(見た目シンさん)の言葉に、皆また黙り込んだ。


「あの子の名前はアンジュ。一番弟子って言われてるくらい稀に見る優秀な錬金術師よ。アタシの団子はすぐに効果が切れたけれど、あの子は完全に魂の定着までされようとしてるのね。本当にさすがだわ」
「そんな嬉しそーに言うなっての!」
ナギさん外見のハヤテさんがムスッとする。

「アタシもあなた達を敵にするつもりはないから言っておくけど、私達は師匠からもう一つ条件を与えられているの。団子を食べて魂を変性させた人間を不幸にしないこと。幸せをかんじてもらい、食べて良かったと思わせること。ま、アタシの場合。怪しい団子に金貨10枚ぽんと払うような単純能天気な男がすぐに見つかったから良かったんだけどね」
「それはロイ様のことかい?まぁ確かに、小娘と一緒に食べるだの何だのと帰ってきた時は浮かれてたけどさ」
「媚薬入りだって言ったからかしら」
「媚薬っ?!そんな団子も作れるのかいっ!?」
「ファジー、食いつきすぎだ」
シンさん(見た目ハヤテさん)が身の危険を感じたのかソウシさん(見た目シンさん)をチラリと見る。
「ドクター…念のため言っておきますが、俺の体を大事に扱ってください」
「ん?そうだね。お互いカリモノだからね」
ソウシさん(見た目シンさん)がにこやかに微笑んだ。

「もちろん媚薬なんて入れてなかったわよ。ちょっと中身が入れ替わる団子ってくらいで」
「ちょっとってレベルじゃねーだろ、ソレ!つーか詐欺だろ完全に」
ハヤテさん(見た目シンさん)が大声でツッコんだ。

「そ、そうです!このままじゃ皆さんが…!何か方法はないんですか?お願いします!リュナさんなら皆さんを元に戻すヒントだって知ってるんですよね?」
思わず声が大きくなる。

「可愛い子に悲しい顔をされると困っちゃうわね。」
リュナさんはまっすぐこっちを見つめてから妖艶に微笑んだ。
「心配しないで。言ったでしょう?団子を食べた人間に幸せを感じてもらうことも条件だって。それはアンジュだって同じ。クリアするためにも、きっと悪いようにはしないはずよ。」



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