Novel

□tukimi
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「おいそこの女。ちょっと来てもらおうか」
振り返ると性質の悪そうな男達が睨みをきかせている。
女性を追ってきたようだった。
この人達も団子の犠牲者なんだろうか?
「悪いがこの姉ちゃんに先に声かけたのは俺達だ」
船長が女性を庇うように肩を抱いた。
どちらにせよ、穏やかに話をするような相手じゃなさそうだ。

「●●ちゃん…隙をみて船に戻るんだ。いいね?」
小声で呟く。
「シンさ…じゃなくてソウシさん…」
背に彼女を隠し、相手の出方をみる。

「お前が支払っていた面白い金貨について色々聞かせて貰おうと思ってな。」
スキンヘッドで厳つい風貌のリーダーらしき男が前へと出てきた。
面白い金貨?
この男達の目的はそれなのか?
不思議な団子といい、この女性は何か特別な事情を抱えているように思える。

「必要分は払ったでしょう」
「あれじゃ足りねえ。わかってるだろ?」
「あんな酷い宿に金貨3枚なんてぼったくりだわ。1枚だけは本物なんだからいいじゃない」
「それはついてきてから説明してもらおうか。お前は目的地へ行くための船を探してるって聞いたぜ。俺達には船もある」
「結構よ。宿で紹介された船乗りにお金を渡したら持ち逃げされたし、絶対ロクな船じゃないわね。それにあんたたちみたいな醜男についてくのはごめんだわ。こっちはこんなに色男揃いだってのに」
「うるせえ!大人しく来い!」
男が女性の腕に手を伸ばした瞬間、
「いててててっ!」
船長が男の腕を掴んだ。
「こいつ!何しやがるっ」
「おいおい。ちょっと掴んだだけだぞ。大げさだな。女を口説くならもっと色気のあるやり方でしろってんだ。なぁ?」
船長の鋭い眼光に引っ張ろうとした男は後ずさった。

「おい、そこ!何の揉め事だ?!」
いつしか人だかりが出来はじめ、後方から銃を構えた役人達がこちらへと向かってくる。
役人の姿を見た途端、後ろ暗い連中だからか、
「命拾いしたな!覚えてろ!」
あっさりとお決まりのセリフを吐いて男達は散り散りに駆けて行った。

「いちいち覚えてるかっつーの」
ナギの見た目のハヤテが悪態をつきながら、好戦的な顔になる。
「肩慣らしにちょっと暴れても良かったんじゃねえ?オレ今ナギ兄だからすげーパワー強くなってる気がするし!」
「馬鹿か。今は全員自分の体じゃない。元に戻るまでは下手な乱闘は避けるぞ」
「何だよ、シン。怖気づいたのかよ?お前は今、最強剣士ハヤテ様の体なんだから超つええに決まってるだろ」
「お前の身体だからじゃない。俺はもともと強い」
「言ったな。なら次はどっちか多く倒せるか勝負しようぜ!」
「フン。後で泣き言いうなよ」

まったく。
ハヤテが派手に暴れたがるのはいつもの事として。
シンも冷静なようでいて意外とすぐハヤテの挑発に乗せられている。
そういう所は年相応に若いともいえるけれど…

「二人ともよすんだ!一般人が多い場所で乱闘は駄目だよ。さ、早く船に戻るんだ!」
自分の顔に言われて冷静になったのか、シンはすぐに船へと向かう。
ハヤテもしぶしぶ船へと足先を向けた。

●●ちゃんは女性の手を引き、とっくに船へと駆けだしていた。
本当に彼女は…逞しくなったな。
感心する間もなく、後方から容赦なく役人たちの銃弾が飛んでくる。
「あいつら手配書の海賊だ!海賊王だぞ!!」
「この街でつかまえろ!!」

「はっはっは!見つかっちまったな!」
船長が愉快気に笑った。
「この街には当分立ち寄れそうにねえ。まだ市場をちゃんと見れてなかったな…」
ナギ(見た目は自分)が残念そうに言う。
自分の顔をこんなに客観的に見れることにまだ慣れず、こんな表情もしているのかと驚きも多い。
目の前の自分はナギの感情を映し出す人間となっていて、自分の顔をしているが自分じゃない。
今は中身がナギだからどっしりとした風格があるが、普段の私はどんな様子なんだろうか?
例えば●●ちゃんからはどんな風に見えているんだろうか?
少しばかりひ弱な心配が脳裏を過ぎる。

「なに、俺達は旅人。新しい街が俺達を待っている!」
船長がキメ台詞を言うけれど既に全員船へと走り出していた。
「おいおい、つめてー奴らだな。おっと!」
「まてリュウガ!貴様は海賊王リュウガだな!」
役人達が船長を取り囲む。

「船長!」
ハヤテ(見た目はナギ)が引き返そうとすると、船長はニヤリと笑って制止する。
「確かに俺はリュウガだ。海賊王にお目にかかれるとはお前ら今日はツイてるな!」
「仲間に見捨てられたようだな」
「まー、あいつら今は本調子じゃねえっていうか、俺一人で充分だってことを分かってるから先に船に戻ったんだろ」
「これだけの人数に囲まれればさすがの海賊王も…」

「あーっ!アレは何だ?!」
突然船長が指差して叫び、周りの人間は興味深げに役人を含め一斉に船長の視線を追う。
あっという間に出来た人だかりに隙が出来た。
船長の存在感は自然と周りを巻き込み、その一挙一動は人の目を惹きつけて止まない。
だからこそ彼は、誰もが認める海賊王なんだ。
「ははっ!なんてな。ったく、ロイみたいな手を使っちまったぜ」
素早く船まで駆けてきた船長を乗せ、シリウス号はすぐに出航することが出来た。


「何とか全員無事だったようだね」
そうホッとしたのも束の間、
ドーンッ
大砲を撃ちつつ、海軍の船が追ってくる。
だがシンの腕とシリウス号があれば追いつける船なんてそうそう無いだろう。
客観的にみるとハヤテが舵をきっている事には慣れないけれど中身はシンだ。

「おいシン!いや見た目はオレだけど!すっげー揺れるんだが大丈夫か?」
ハヤテ(見た目ナギ)がシン(見た目ハヤテ)に訊ねる。
「うるせー。悠長に舵をとってられるか!」
「そりゃわかるんだけどよ」
「にしても…まるでハヤテが舵をとってるみたいに荒いぞ」
砲撃準備をしていたナギ(見た目が私)の言葉にハッとなる。

ハヤテみたい…?
確かに緊急時であってもシンの舵とりの腕は確かなもので、私達も安心して乗っていられる。
海軍の船は徐々に離されている。
なのにこの揺れは…シンらしくない。
自分が舵をとった方が上手くいくんじゃないかなんて思ってしまう程だ。

舵…?
シンの身体で…?

いつもなら考えもしないが、身体が操舵輪の感触を知っているように思えた。
まさか…
このまま入れ替わりが長くなると、私達はもとの身体から段々と切り離されていき、戻れなくなる危険もあるのかもしれない…。


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