Novel

□tukimi
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「も、戻れたー!!戻れました!!」
●●は嬉しそうに飛び跳ねる。
「おお!オレの身体に戻ってる!…真珠ちゃんと一心同体な気分が消えちまったのは残念だが…さぁ!!これで思う存分オレの身体で真珠ちゃんを感じることができるぞー!」
「きゃっ!」
ロイが●●に飛びかかるが、船長がロイを避けて●●の身体を引き寄せる。
「●●、元の身体にちゃんと戻れたか隅々まで確認してやろう」
「せ、船長…それってせくはら…」
「ふむ。俺のセンサーが反応したから完全に●●に戻ったに違いねえ」
「センサーって何のですか?」
「お?それを聞いちまうか?」
「や、やめておきます…」
顔を近づける船長に●●は苦笑いで応える。


「で?何で俺達はこのままなんだ」
「ナギ兄…オレを睨みながら言うなよ。バレたとしたらそれは絶対ソウシさんがキッカケだと思うぞ」
「私は意識が朦朧としてからずっと甲板の端に放置されてたからね。気づかれる原因を作るようなことはしてないはずだよ」
「俺の身体でかなり暴走してましたが…大体ハヤテもナギの身体で喋りすぎだろう。誰が見たってナギらしくない」
「んなこと言っても!シンだってオレのくせに暗すぎだっつーの」
「俺は馬鹿みたいに騒ぐのは性にあわねー」
「馬鹿ってなんだよ!オレが喋らねえと皆黙っちまうし、静かすぎっと居心地わりーんだよ」
「ナギは私らしく振る舞ってくれた?」
「……おそらく」
「おそらくって…ナギ兄その姿で料理しにいってただろ」
「ドクターが料理ってのは不自然だ。一番厨房に立たせたら駄目な人選だ。何が出来上がるか予想がつかないから普段から近づけさせてねえだろ」
「はは。だから私がナギを手伝おうと言ったらいつも皆は驚いてたんだね。これでも料理は得意なんだけどなぁ」
「ハヤテ…というか俺の体がいつも以上に食って料理が足りなくなったから仕方ねえ」
「ナギ兄の身体でけーから一杯食えるんだよな」
「食い過ぎると身体が重くなるから止めろ」


「…というわけで実は皆さん入れ替わってしまってたんです」
トワの説明に船長は笑った。
「はっはっは!やっぱりな!」
「船長気付いてたんっすか?」
「当然だ。ナギはそんな風にしゃべらねえ」
「そ、そーっすね…」
「ハヤテはもっと騒がしいしシンはもっと愛想悪い。ソウシはもっと口うるさいしな!お前らは面白いからしばらくそのままでもいいんじゃねえか?」
「そうだよ!シン様な外見のソウシ様とかアタイは大好物だよ!そのままでもいいよ!」
「お前の意見はもとめてねー」
ファジーがドクター(ナギ)に色目を使う。
「冷たいソウシ様も新鮮だしね!」


…にしても。
どうして俺はまだこんな単純バカの身体のままなんだ。
隣に立っているナギ、いやハヤテを睨む。
確かに全員、一晩月光の下にいた。
ドクター(中身ナギ)は一時的に厨房に居たようだが、ロイと●●の身体が短時間で戻ったことを考えると、月光を浴びた時間は関係ないようだ。
むしろ条件――…
『想い人に知られてはならない』という条件を満たせなかったことが戻れなかった原因なのかもしれない。
さすがに鈍感が服を着ているような●●も自分も入れ替わったことで夜明け前に俺達の入れ替わりに気付いただろう。
時間が経てば経つほど俺達は素の状態になっていて、結局最後は自分の身体のように振る舞っていた。

「ごめんなさい…皆さん隠そうと一生懸命だったのに気付いてしまって…」
●●は悲しそうに目を伏せる。
「でも私…み、皆さんにそんなに嫌われてたなんて」

!!!
ロイの団子は《嫌いな相手》だったが俺達のものは逆だった。

「違いますよ!」
トワが慌てて訂正する。
「僕の買った団子は想い…むぐぐっ」
俺、ナギ、ハヤテの手が咄嗟にトワの口を塞ぐ。

「オレ達のはええと…ええとそうアレ!なんだったっけ?シン」
「なっ…こっちは…おい、ナギ」
「………お、面白いやつ…」
「え?」
●●は目を丸くする。
「そう!おもしれー奴にバレたら駄目だったんだ!ほらお前おもしれーじゃん」
「む…そうですか…?たとえば…?」
「顔とか!」
ごんっ
笑顔で答えたナギ(ハヤテ)をドクター(ナギ)が小突いた。
「いてっ!」
●●がますます涙目になりそうなことに気付かない呑気なハヤテを俺(ドクター)が叱る。

「ハヤテ。女の子に対してそんな言い方やめなさい。●●ちゃんの顔は面白いんじゃなくて可愛いんだよ」
「ドクター…俺の顔で恥ずかしい発言はやめて下さい。俺が言ったみたいに見えます」
思わず口を挟む。
「いいや。こういうことはきちんと伝えないと。●●ちゃんは可愛いし確かに表情がくるくる変わったり反応が面白いと思うよ。それは結局私達全員が君に対して魅力的だと思ってるってことだよ。だから落ち込んだりはしないで」
「…は、はい。ありがとうございます」
●●は顔を赤らめて頷いた。

俺が言ったわけじゃねえのに俺の顔を見て顔を赤らめる●●を客観的に見ていると、よくわからない感情が浮かんでくる。
嫉妬?歓び?
そっちより本当の俺を見ろ?
…とりあえず抱きしめたい。

チッ、意味がわからねえ。
きっと団子のせいで俺の頭はおかしくなっているに違いない。


「ちょっと待ってよ!船が出せないってどーゆーことよ!」
港の方向から大きな怒鳴り声が聞こえて皆が視線をそっちにやる。
少し離れた位置に停泊している船の前で女と船乗りが揉めているのが見えた。
「大きな声を出すな。仕方ねえだろ。出航予定が伸びたんだ。それにこっちも危ない橋をわたってるんだしこれっぽっちじゃ乗せられねえな」
「これっぽっちだって?金貨をたんまり渡したでしょう?ほら顔に傷があった男に…」
「こっちは知らねえ。あいつならとっくに船乗りを辞めてるぞ。騙されたんだなお前」

「ああああ〜〜!!!」
ロイが素っ頓狂な声を出す。
そして女を指差した。
「アイツだ!オレに団子を売った色っぽい女!」
「「「「「なに?」」」」」


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