Novel

□tukimi
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注※中身入れ替わってます※ハヤテ⇒シン、シン⇒ソウシ、ソウシ⇒ナギ、ナギ⇒ハヤテ※

「おい。さっきの剣技だけど、あれくらいオレだってできるからな」
声のする方を見れば、ナギさんがハヤテさんに絡んでいる。
「なら、その鎖鎌でやってみたらどうだ?」
「上等だ。朝飯前だっての」
ナギさんが鎖鎌を手に持ち、ぶぅんと振り回す。
「慣れねーから感覚が取りずれー」
宙を舞ったお団子はイビツな形で二つに割れて、鎖鎌の先にボロボロと刺さった。
「フッ…華麗とはほど遠いな」
ハヤテさんが勝ち誇った顔で笑う。
「うるせー。お前だって鎌は慣れてねーだろ」
ナギさん…。
どうしてハヤテさんに対抗してるんだろう?
らしくないというか…変なの

「確かに、いつでも慣れた武器があるとは限らないしな。これを機に新しい武器にも精通したらどうだ?たとえばドクターみたいに手刀とかな」
「あれは人体を熟知してるからできるンだろ?」
「まぁな。医学書から読み返すか?」
「げっ!それは無理。俺は天性の才能ゆえに身体で覚えるタチなんだって。ホラ!」
ナギさんがもう一度団子を宙へと投げ、鎌で素早く切った後、口で受けて次々と食べていく。
「な?」
「フン。大道芸向きだな」
「なんだと?」
言い合いながらもハヤテさんとナギさんは笑い合っている。

ハヤテさんはナギさんを慕っているしいつもの光景のようだけれど、何故か胸があたたかくなる。
まるでいつもライバル同士で言い合いをしている二人が、思わぬところで打ち解けているかのような――空気。


「飲んでますかぁ〜!?」
不意に後ろから声をかけられて、振り返るとお酒を持ったトワ君がいた。
「う、うん。トワ君は今夜は控えめだね」
いつもなら船長に呑まされていて、かなりふらふらになっている時間帯なのだけれど。
顔は赤いものの、かろうじてちゃんと話せているみたい。

今夜の僕には大事な使命があるんれす!
「ふふっ。使命?」
「あ〜笑いごとじゃないれす。本当に大事な使命なんです〜」
「そっか。私も今夜は大事な使命があるの」
「へ!?」
トワ君が青ざめた顔になった。
「もしかして…!き、気付いちゃったんれすか?!」
「うん」
返事をすると、トワ君は頭を抱えて蹲った。

どうしよう〜!!!やっべー!!僕のせいだー!!!
「え?どうしたの?しっかりしてトワ君!」
蹲るトワ君に合わせて屈むと、突然ぎゅっと抱きつかれる。
勢い余って、首元に抱きつかれたまま甲板の床に尻餅をつく格好になってしまう。
「あ、あの…トワくん?」
「うわーん!これからシリウス号に何が起ころうと誰と誰が変わろうと僕がお守りしますから!それが責任ってやつなんですぅ」
「い、言ってることがよくわからないけど…うん。ありがとう」
抱きついたままのトワ君の震える背中に手を回して、ぽんぽんと軽く背を撫でた。

やっぱり、かなり酔っているのかな?

シリウス号の皆に混じっていると華奢に見えるトワ君だけど、思ったよりも広い背中が男の子なんだなぁと意識させる。
トワ君が泣いてるっていうのに不謹慎かも。
急に恥ずかしくなってきて、身体を後ろへと離した。

「あのね。今夜は沢山気付かされたことがあるの。十五夜のお月様が明るいせいかな。普段見えないものが見える気がする」
「?」
トワ君は私の腰に手を回したまま、首をかしげた。

「おい、トワ。何してる」
ハヤテさんの声がして、ナギさんがゴツン、とトワくんの頭を小突いた。
「いった〜!!何するんですか?!」
「何するんですか、じゃねえ。どさくさに紛れてくっついてンじゃねえ」
ナギさんが睨むとトワ君はしゅんとなった。
「チッ。俺たちは大変だってのに色気づきやがって呑気なもんだ」
ハヤテさんが舌打ちをした。

「ふふっ。今の…シンさんみたい」
思わずそう言うと、三人は固まる。

え?何かダメなことを言っちゃったのかな…

「あ!あの、ヘンな意味ではなくて、その…思ったんです。
私はこの船に来てまだ日が浅いけれど、皆さんには私の知らない今までの時間の積み重ねがあって、知らずしらずにお互いが影響を受けてるというか、生活の一部になり合っているというか。
その…仲間になるってこういう事なんだなぁって感じて、羨ましいなぁって」
上手く言えずに、しどろもどろになってしまう。
「何言ってるんですか!貴女ももう僕たちの生活の一部になっているし、仲間ですよ!」
トワ君が力強く答えてくれる。
「まぁ…同じ釜のメシを食った何とかって言うしな」
ナギさんが照れ臭そうに付け足して、トワ君がうんうん、と頷いた。
「●●さんも気付かないうちに皆さんの影響を受けて特徴を分かっているはずですし、だからシンさんやハヤテさんの真似だって、きっとできますよ!」

え?…真似?!

「ほう…。シンの真似ができるのか。お前の観察眼とやらを見てみたいもんだな」
ハヤテさんが悪そうな顔でニヤリと笑う。
「えええ?!今ですか、その、突然の無茶ぶりっ!?」
「シンは甲板の端で潰れてる。今のうちだぞ。余興だと思ってやってみろよ。お前も宴会芸くらい身に着けとかねえとな!」
ナギさんも楽しそうな顔で詰め寄ってくる。

こ、これは…やらないと許してもらえないパターン?!

「じ、じゃあ………」

出来る限りの低い声を絞り出して、
シンさんをイメージして呟く。
「『うぜえ』
「「「………………」」」

や、やっぱり私にはまだまだ無理ーっ!!

しばらくの沈黙のあと、
だっはっは!サイコ―!お前、おもしれーな!!」
ナギさんがバンバンと背中を叩いてくる。
「眉間のシワまで再現するとは流石ですっ!ぷっ…だめだ!我慢できないです〜!!わはははっ」
トワ君が甲板の床で転げまわって笑ってる。

ハヤテさんは一人だけ笑わずに、
「お前…そんなふうに見えてるのか」
と腕組みをして考えこんでいる様子だ。
「ぜ、絶対絶対、シンさんには真似したこと言わないでくださいね!バレたら何されるか…」
震える声で皆に念押しをすると、ナギさんが不機嫌そうな様子のハヤテさんに笑いかける。
「ああ。言わねーよ。なぁ?ハヤテ」
ハヤテさんは腕組みを解いてから訊ねてくる。
「じゃあ俺の真似もやってみろ」
「え?ハヤテさんの?…うーん。『骨付き肉食いてぇ!』…とか」
「オイ。何だよそれ、『うぜえ』より感情入ってねえじゃん。しかもアホっぽい台詞選択だし!オレいつも肉肉っつってるわけじゃねーし、もっとカッコいい台詞使えよ。」
何故かナギさんが文句を付けてくる。
「だって本人目の前ですよ?」
ハヤテさんをチラッと見ると、
「感情の点については思い入れの問題だな。普段オレよりシンをよく見てるってことだろう?」
何でハヤテさん、少し上機嫌になったんだろう?
私のハヤテさんの物真似が気に入ったとか?

「べ、別によく見てるとかそういう訳では…」
「僕もー!僕の真似もしてみて欲しいですぅ!」
トワくんが手を挙げる。
「ちょっと待って。物真似大会みたいになってきてる…」
「トワの次はドクターだな」
ハヤテさんがニヤリと笑って、ナギさんが目の前にお酒の入ったカップを差し出してきた。
「とりあえず酒呑んどけ!ぐいっといってからトワ、次はソウシさん、それから船長だ!」

えええ〜〜!!

いつもはお酒を強く勧められたりしないんだけれど、今夜の皆さんは少し強引で。
甘いラムの香りといつもと違う雰囲気の宴に酔いは早く訪れて、私は上機嫌で言われるがままに物真似を繰り返す羽目になるのだった。






=数十分後の食堂にて=

「ふぅ〜…めがぐるぐるするぅ〜。おみずおみず…」
何とかハヤテさん達から逃げられたけど…

ぐぅ〜

不意にお腹が大きな音を立てた。
皆さんの観察で忙しくてお料理もちゃんと食べられなくて、空腹でお酒を少し飲んだから余計に酔いが回ってるのかも。

ええと…お水と食べ物…
「しんじゅちゃぁ〜ん!!」
「きゃっ!」
急に背後から抱きつかれて、思わず後ろへ蹴りあげる。
「いっだ〜!!!」
「…ロイ船長」
振り返ると、股間をおさえて蹲っていたのはロイ船長だった。
「…すみません。この間船長から護身術を教わったので…」
「いてて…鉄のパンツ履いてない時に真珠ちゃんに蹴られるとはっ…まぁいい。ロイ様は心が広いからな!真珠ちゃんからのご褒美なんだな!ところで腹が減ってるのか?」
「え!き、聞こえちゃいました?」
「ああ。ならコレを食うといい」
「ん?お団子ですか?」
「せっかく持ってきてやったのに誰も食わないようだからな。」
「ロイ船長が作ったんですか?」
「残念ながら俺のお手製はファジーの胃袋におさまっちまった。コレは今日市場で買ったヤツだ」
「でしたらいただきます!」
「…でしたら?」
「いえ。わぁ〜!すごく美味しそうですね!」
「そうだな。高級団子だからきっと美味いだろう。どうだ!俺を選べばいつでもこうして贅沢させてやるぞ!」
「ロイ船長が買ったのに食べてないんですか?」
「ああ。真珠ちゃんにと思って大事に取っておいたんだ。まだ食ってないんだが…うまそうだな。二人で一緒に月見団子をほおばるのも風流だ。シリウスの質素な食堂でというのが残念だが…まあいい。満月にも勝る輝きは目の前に!まるで月夜に舞い降りた天上の姫君!さぁ共に団子を食そうじゃないか!」

…ロイ船長のテンションにはついていけないけど、とても美味しそうなお団子に思わず手を伸ばす。

「はぁ…いただきます…

…うん!とっても美味しいです!
不思議なあじで…うっ!

「ど、どうした真珠ちゃ…うぅっ!!




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