Novel

□tukimi
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注※中身入れ替わってます※ハヤテ⇒シン、シン⇒ソウシ、ソウシ⇒ナギ、ナギ⇒ハヤテ※


「みなさん・・・今夜は静かですね」

輝く月明りの下。
楽しみにしていたお月見の宴だけれど、
何故か不思議な空気を感じる。

「どこかいつもと違うような・・・」
思わず口にすると、全員の動きがピタッと止まった。
正確に言えば―――いつもの調子で酔っぱらってる船長以外の皆さんが不思議、なのだけれど。

「どどどのへんがでしょうか!?どのへんがおかしいですかっ?!たとえば誰かがいつもと違うとかそういうおかしさですか?!ぜんっぜんおかしくはないと思うんですけどっ」
トワ君が慌てた様子で聞き返してくる。
ぽかっ
トワ君の頭をナギさんが小突いた。
「・・・・・・・」
でも無言だ。
ナギさんがいきなりトワ君を小突くなんて珍しいなぁ

「おかしいワケないだろう。いつも通りだ」
近くに居たシンさんが落ち着いた声で返す。
「そうですね…」
「それとも何か?お前の眼は俺が俺以外に見えるってのか?」
「い、いえ!まさか!そういう訳じゃないんです」
「ん?なら他に問題があるのか?」
シンさんに真っ直ぐに見つめ返されて、微笑まれる。

!!!
シンさんが優しげに私に微笑んでるっ!?
な、何だかいつもよりシンさんの色気が増してみえる…。
いつもはギロッと睨まれるか、フン見とれてたのかってイジワルそうに馬鹿にされるかくらいの二択なのだけれど。
柔らかな笑顔が向けられると、思わず視線を逸らしてしまう程イケナイ気持ちになってしまう。…これって十五夜のお月様のせい?

「顔を赤くしてどうした?コレも食え」
隣に座っていたソウシさんが料理を取り分けて目の前に差し出してくれる。
確かにソウシさんはいつも優しいのだけれど、その少し荒っぽい物腰はソウシさんみたいじゃないというか…。
ううん。
ソウシさんだって男性だもん。
私にはいつも優しく丁寧に接してくれるけど時々男性らしいくだけた話し方の時もあるよね。珍しいからドキドキしちゃうけど…
「うまいか?」
そういって満足そうに目を細められると、新鮮で胸がきゅっとなる。
この微笑み方…どこかで…。

「はっはっは!おめーら、今夜は何だかおもしれーな!」
船長が皆を見てニヤニヤと笑った。
「別に普通です」
ハヤテさんがこちらを一瞥した後、お酒を煽ってから呟いた。
今夜のハヤテさんは何だか大人びてるというか…物憂げ。
どうしたんだろう?
ツキミの宴は団子食べ放題だって楽しみにしてたはずなのに、さっきからお団子は全然食べていなくて、お酒ばかりちびちび飲んでは月を眺めている。

「そろそろ余興が欲しいトコだな。おいハヤテ、いつもの剣技を見せてくれ」
「!」
船長の言葉に、ハヤテさんをはじめ全員がハッとした顔になる。
「いつもの…いつものかぁ…!は、ハヤテさんっ!たしか今、ケガしてませんでしたか?!ね、ね?ソウシさん!」
トワ君が慌てた様子でソウシさんに同意を求める。ソウシさんはぶっきらぼうに答えた。
「え?あ、ああ…してた」

「ケガ?そりゃ本当か?」
船長がハヤテさんに訊ねた。
「…はい。いつもの調子は出ないかもしれませんが」
スッとハヤテさんが剣を抜く。
「お、おい!は、ハヤテ。無理すんなって。アレが出来るワケ…」
ナギさんが戸惑った様子でハヤテさんを見る。

「新しい技なら…」
ハヤテさんはそう言って、脇にあった団子を左手でいくつか掴むと宙へ放り投げた。
落下してきたところを右手で抜いた剣で鮮やかに切り刻むと同時に、左手でもう一方の剣を素早く抜き滑らかに動かすと細かく砕けた団子は左の剣先に次々と全て突き刺さった。

すごい…!

ピュウッと船長が口笛を吹く。
「はっはっは!見事だ!確かに新しい技だ。パワー重視の今までの技とまた違う美しさがあるぞ」
宴でよくハヤテさんが見せてくれる剣技はどれも迫力があって、いつも圧倒されるような剣さばきだけれど。
今夜は流れるように鮮やかな動きで―――まるで雅な舞を見ているみたい。

ハヤテさんは剣を納めると席に着き、役目は終えたと言わんばかりにまた静かにお酒を飲み始める。
視線を感じ取られたのか、思わず目があってしまう。
グラスに口付けながら、フン、と妖艶に小さく笑われると、やんちゃな印象のハヤテさんがまるで別人みたいな気がしてきて鼓動が速まる。

一体今夜はどうしてしまったんだろう…
いつもと違う皆さんの様子に、ドキドキしっぱなしだ。

これっていわゆる…ちまたで有名なギャップモエというもの…?

船での生活には随分慣れて、皆さんの仲間として受け入れてもらえるようになったかなぁと安心しはじめていたのに。
私はまだまだ何も知らないのかもしれない…
皆さんにはもっと新しい一面が沢山あるんだ…!!


ぐいっ
突然肩を抱かれ、引き寄せられる。
「なーに深刻な顔してんだ?酒が足りてねーんじゃねーのか?」
「え?あ、いえッ」
船長の顔が唇が触れそうなほど近づく。
「お、お酒くさい…」
「ん?俺にそんなことを言うとは、やはり酒が足りねえな。このまま口移しで飲ませてやろうか?」
「えっ?わっ!あ、あのっ…」
顔を近づけられて慌てていると、腕を反対側にぐいっと引かれる。

「船長。飲み過ぎです」
「ソウシさん…」
少し強引に庇ってくれたソウシさんを驚いた顔で見つめると、
「…」
無言で瞳を逸らされる。
そしてパッと腕を離して、
「悪い。腕、痛かったか?」
照れたように少し顔が赤く染まったように見えた。
「いいえ…大丈夫です…ありがとうございます」
「お?ソウシ。お前も飲め!久々に俺と飲み比べだな!」
「いや、俺は料理の用…」
「んあ?料理ィ?」
「………いえ。飲みます」
ソウシさんは船長がついだ酒を一気に飲み干した。
「がっはっは!いい飲みっぷりじゃねえか!今夜は最高におもしれーな!」


「大丈夫か?船長は飲むと見境なく絡むからな。ボーっとしてると捕まるぞ」
ほっとしているとシンさんに頭をポンッとされる。
「え゛っ!」
「何だ、その驚き様は」
「いやっ、あの、シンさん…どうかしたんですか?」
「フッ、俺がこうするとおかしいか?」
頬に手を添えられて、覗きこまれるように目線の高さを合わせられる。
ものすごく顔が近い。
シンさんのいつもの香がふわりと鼻腔をくすぐって、潤んだ瞳から目が逸らせなくなる。
細長い親指が唇の端を優しくなぞりあげ、
唇をじっと凝視されると、恥ずかしさにカアッと一気に身体の熱が上がっていく。




どうしよう。
いつも子供扱いなのに…これってちょっと…いやかなり、女の人扱いされてるような…気がするんですけど…っ!

ぽんっ
不意にシンさんの肩に手が置かれた。
シンさんの後ろに立っていたハヤテさんが怪訝そうな顔で呼び止める。
「おい、シン。酔ってるのか?」
「ふふ。酔ってるのかもな。今夜はどうしてか、とても気分が良いんだ」

シンさんの色気がどんどん倍増してきて心臓に悪い…!
もともと女の人にモテそうな綺麗な顔なんだけど、いつもは眉間のシワとか意地悪さが勝っていて違う意味で緊張するのに。
今夜はそういうのが無くなってて、すこし甘える?ような表情で見つめられると破壊力が高くて…どうしていいのかわからない…!

「し、シンさんが酔うなんて珍しいですよね!ね?!ハヤテさん!」
「ああ。何故か酒の周りが早いようだな。宴前にロクでもねえモンを食わされたせいか」
「え?ロクでもないもの、ですか?」
「何でもない。気にするな」
やっぱり今夜のハヤテさんは冷静で落ち着いた雰囲気で別人みたい…

「ハヤテさん。あの、今夜はいつもの裸踊りとかしないんですか?」
いつもはトワ君を巻き込んで突然始まるのだけれど。

「……」
ハヤテさんが無言になった。
「いやらしい女だな。お前はいつもそんなことを期待してるのか?」
思い切り不機嫌な顔で睨まれる。
ヒィッ!
…なんだろう。
この…まるで犬がご主人様に覚える条件反射のようなビクッとした気分は…。
「ちち違いますよ!いつもは止めても容赦なく始まってるじゃないですか。だから心の準備をしておこうと思いまして」
「…今日はしねー」
「そうですか。良かったです」
鍛えられた肉体自慢的なノリでいつも脱ぐことが始まるから、しないと断言されると不思議なんだけど、たまにはお休みしてもらえたほうが目のやりどころに困らなくていいかも。

「なんだ、ハヤテ。裸にならないのか?素晴らしい月夜だしぞんぶんに愉しむべきだろう?」
シンさんの横やりに、ハヤテさんは戸惑った顔をしてから、シンさんを睨んだ。
「冗談だ。そんな怖い顔するなよ」
シンさんがそう言いながらハヤテさんの首に腕を廻した。

!!!!
今、ものすご〜く珍しい光景を目の当たりにしているような…っ?!!

「チッ、完全に酔ってるな…。頼みの綱だったってのに…」
「頼みの綱?」

はっ!そう、そうよね!
ハヤテさんってよくシンさんと言い合いをしているけれど、実はすごくお互いの腕を頼りにしていて仲がいいんだよね!
お酒のチカラってわけじゃないけど…いつもは照れ臭いだけなんだ!!
背中を預けられるライバルというか、憎まれ口を言っても戦闘では一番息がぴったりというか、きっとそういう感じだよね!うんうん!

「何、一人でうなずいてるんだ、お前?」
ほわんとした表情のシンさんに肩を組まれたまま、ハヤテさんが怪訝そうな顔になる。
「いいんですハヤテさん!私にはちゃんとわかってますから!」
「おい。何を分かってるってんだ?」
「え?だって二人は本当は…」
「…本当は?まさかお前…気付いたのか?」
ハヤテさんがゴクリと息を呑む。

「はい!実は仲良しなんですよね!」
「……お前がボンヤリしたヤツだってことに心底感謝する」
「へ?どういうことですか?」
「いや。そのままでいろよってことだ」
ハヤテさんは何故かほっとした様子で溜息をついた。

「ふふ。じゃあ俺達が仲良いところをみせてあげようか?」
シンさんがトロンとした目で微笑んで、ハヤテさんの頬に唇を近づけた。
べしっ
ハヤテさんはシンさんを引きはがす。
「いったぁ…ふふ。照れるなんて可愛いものだな」
「絡み酒か…ったく…カンベンしてくれ。(何で自分の顔を殴らなきゃならねーんだ)」
ハヤテさんは何故か懇願するようにシンさんを見た。
けれどシンさんは何事もなかったかのように瞳を閉じて気持ちよさそうに眠り始める。
シンさん、珍しく完全に酔ってる気がする…

「船長もドクターも飲み比べが始まってああだし…シンもこんなだし、お前はそろそろ部屋に戻った方がいいんじゃねーか」
突然、部屋に戻ることを促された。

いいえ!!絶対に戻りません!
私はもっと皆さんの新しい一面を知っておかなきゃ。
ぼんやりなんて言わせないんだから!
「まだ戻れないです!!」
勢いよくそう言い切った時、ドーンッと大きな音が鳴り響き、シリウス号がぐらりと揺れる。

「よう!シリウス諸君!今夜は月見だ。ミヤビとは程遠いお前達の宴を邪魔してやろうと思って会いにきてやったぞ」
「ソウシ様ー!シン様ー!!会いたかったよー!」
ロイ船長とファジーさんが乗り込んできた。


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