Novel

□Trick or …? before Christmas
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「あの世じゃないのか…」
《残念だがカイ。少し返してもらったがまだ君の器には魂が残っている》

「また死に損ねたか」
《死に損ねたというのは正しくない。カイ、君の人間としての人生ってやつはもう終わっている。君はただ地獄にも天国にも出入り禁止になって此処にいるだけだ。》
「そうだな。肉体はあるのに俺にはもう行き場などない。今夜目的は失った。さまよう亡霊のようなものだ…」

《ところで部屋の外には見張りがいるようだな。君が悪政を尽くしたおかげでこんな所に閉じ込められる未来に辿り着いたわけだ。永遠に彷徨う魂になってまで君が望んだものは手に入ったか?》

「生きていようが死んでいようが何の変わりもない。俺にとって大事なのは、エマが目の前に居ないという現実だけだ」
《皮肉なものだな。そこまで執着した人間の側にいくことも出来ないなんてな。彼女は天国へと旅立った。君も見ていただろう?》

「エマは…最期の最期に…俺だけを見ていたか?」
この可哀想な男は、ひどく心細げに訊ねた。
カイと知り合ってしばらく経つが、こんなたどたどしい感情を見せるのは初めてだった。
はるか昔、オレにもこんな人間らしい感情があったのだろうかと無い首をかしげてみる。

《カイ。君の望みは全ては叶わなかった》
「ッ…何故だ!何故だジャック!!彼女の瞳は俺を見ながら色を失っていったはずだ。嘘でもいい。俺だと言え!」
《エマの最期に二人きりにさせ、彼女の心を君で満たして逝かせること。それが契約だったが…俺は半分契約を果たせなかったから、君に貸した魂は僅か残しておく》

「クックックッ…ハハッ!傑作だ!俺はエマからダンを遠ざけることに力を注いできた。すべては最期の最期でエマを手に入れる為だ。エマの最期の時に、俺は必死に想いを打ち明けた。死に際くらい、自分を見捨てたダンよりも目の前の俺にすがるだろうと思ったからだ。なのに、あの女は何て言ったと思う?」

《さあ。オレは人間の感情を忘れたカボチャだ。聞かれてもわからん》
「知っていたと言ったんだ。…そして、ありがとうと…それだけだ。何て悪い女だ!俺の想いを分かっていて、俺がダンとエマにしてきたことも分かっていて、それでも俺を許し、俺を弟として愛していると―…ッ」
カイは言いかけるのを止め、また狂ったように笑い、それから酷く下卑た顔でオレを睨んだ。

「フン…もういい。とっとと俺を滅せ」
《カイ。君ほどの悪人なら、エマを強引に自分のものにすることも出来ただろう。以前死にかけた際に地獄の門番をも騙し、オレをかどわかして魂を借りることまで成し遂げた。全てはエマがこの世を去るまで居続ける為だろう。何故無理に奪うことをしなかった?彼女を引きずり堕とす選択肢もあったはずだ。エマが天国に行けば君はもう二度と彼女に会えないぞ》

「あんなに気高く美しい女は居ない」
カイは呟いた。


「ここにいる俺は、汚職で悪政を尽くし投獄された身だ。まぁ、囚われている屋敷は一見立派なものだが…もう身体を持つ意味などない。ジャック。最後の願いだ。俺の身体から魂を取り戻してくれ」
《カイ。やはりそれは出来ない。俺はエマの道先案内人を務めた。そこで頼まれたんだ》
「何をだ?」
《ダンとシン。それからカイ。君の幸せをな》

「…俺の事までカボチャに頼むなんて、やはりエマは間が抜けているな」
カイの声が僅かに震えた。
《俺をただのカボチャじゃないと見込んでだろう》
「ジャック。お前に何が出来るっていうんだ?」


《カイ。もうすぐ君に会いに、シンがやってくる》
カイは目を見張った。
《俺は過去からここに来ている。あまり長居は出来ない。エマの願いをどうやって叶えればいいのかもわからない。だから後は…未来のオレがオッカナイと言っていたシンという男に任せることにした。じゃあな!カイ》
「待て!ジャック!」




コンコンコンコン

四回のノックがされ、重いドアが開ききらないうちに、初めてオレに名前を付けてくれた激しくも憐れな男を残してオレは闇の中へと消えた。




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