Novel

□Trick or …? before Christmas
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気がつくと既に辺りは明るくなり始めていた。
全てが夢だったのかと思うけれど、抜け殻のようなシーツの皺が私の隣にハッキリと形を作ったまま残っていた。
シンさんの姿はなかった。

「シンさん…」
呟くと同時に、ポンッと目の前に三角目のカボチャさんが現れる。

「カボチャさん!無事だったんですね!あのっ、カイさんは?丸目のカボチャさんは?シンさんは?!」
<質問は後だ。今からアンタを元の世界に戻す>
「え?!それじゃ貸してた魂は戻ってきたの?」
<いや…カイの姿が消えた。過去の俺もだ。どこにもいない…探す力はもう俺に残っていないんだ>

「そんな…私が失敗したからですか!?今からでももう一度私がカイさんを探すからっ…」
<もういいんだ。目が覚めたら何故か僅かだが力が戻っていた。これ以上時間を歪めてアンタを引き留める事は出来ないし、もしカイの目的が果たされたなら現代に戻れば何かが変わっているかもしれない>
カボチャさんは穏やかな声で言い、ランタンを持つ手で私の頭を撫でた。

<アンタはよくやってくれた。ちゃんと過去の俺を見つけてくれたんだ。礼を言う>
「だって私、このままじゃ役に立ってないし…」
<楽しかったさ。俺にジャックって名があったことを知ったし、アンタを守るという人間らしい感情を持てたしな。あ、それより戻る前に、とりあえず服を着ておくか?>
「きゃっ!は、はやく言ってくださいっ」
ベッド脇のシャツをつかみ裸の胸を隠す。

<戻る前にもう一度、今のシンに会っていくか?>
「ううん…。きっと会わない方がいいんだと思います。私は元々ここには居ない人間だから…」
<そうだな。向こうでアンタを待ってるアイツがいるだろう。早く戻さないとな>

「カボチャさん…このまま戻っても…カボチャさんは無事なんですよね?」
<完全に無職になったらお前達の仲間にでもなるか>
「だったら私、船長にお願いしてみます!」
<冗談だ。俺は怖い道先案内人。そうだ!泣く子も黙るジャックだ!この世からあの世へと流れる魂を弄びながら行く宛てもなく彷徨う孤高の精霊だ!>

カボチャさんのランタンがぼうっと妖しげに光ると球体が現れた。

<帰りも酔うだろうが、きっと着いたころには覚えていないから問題ない。Trick or Treat!俺のイタズラを愉しんでくれたか?>
「うん!私の知らないシンさんに会わせてくれて…ありがとうカボチャさん!元の世界に戻ってもまた私の所に会いに来て!カボチャさんのイタズラを待ってるから。いつでも…いつまでも私はカボチャさんのこと覚えてるから!」
<ああ。もし俺が覚えていたらな。なにせ空っぽなんだ。記憶しておく場所がない>

目を開けていられない程の眩い光と共に私の身体はふわりと宙に浮かび、完全に光に包み込まれた――








「●●!おい」
「い、いたいれす…」
頬に痛みを感じて目をあけると、シンさんが私の頬をつねっていて、顔を覗きこんでいた。

「うわ!シンさんっ!!」
「ったく、こんな所で掃除の途中で寝込みやがって」
「へ?」

改めて周りを見廻すと、倉庫にいる。
そして手を見ると、カボチャのキャンドルを握りしめて私は座り込んでいた。

「いつまでも倉庫から戻ってこないと思えば、箱にもたれて眠りこけているとはな」
「わたし今っ…ゆ、夢を…見てたような」
「夢?随分呑気なことだな。寝るならとっとと部屋に戻れ。倉庫は冷える。風邪ひくだろ」

「シンさん…」
「何だ?」
「シンさん!だぁーっ!!」
「は?」
ぎゅうっと抱きつく。

何故そんなことをしたのか自分でもよくわからないけれど、長い時間離れていたような気分で。たまらなくシンさんが恋しい気持ちだった。

「おい。こんなところで発情するな」
「シンさん〜!!会いたかったですーっ!」
広い胸に顔を埋めて、確かめるようにその香りに満たされる。

「会いたいって、数十分前に倉庫の前で別れたばかりだ」
「違うんです!すごく離れてたんです!」
「お前は…ス○ーカーか?」
「何かその台詞も懐かしいような嬉しいような!」
「意味がわからん。離れろ、うっとおしい」
「そんなこと言わないで下さい!シンさんと私は恋人同士じゃないですか〜」
「それとこれとは別だ。くっつくのはベッドの中だけにしろ。それ以外は俺が3秒以内で呼んだら来れる位置で待機してろ」
「ふふっ。はーい!」
「ったく、何をニヤけてるんだ。気味悪いな」
「もうね。全部嬉しんです!よくわからないけどシンさんに会えたってことが!」
「お前…掃除中にどっか頭打ったのか?ドクターに見てもらったほうがいいぞ」

「あっ!」
「何だよ。急に大声出して」
「カボチャ…」
手に握っていたカボチャのキャンドルを見て、思わず声が出る。

(何か大事なことを忘れているような…)

「ったく。船長のイベント好きにも困ったもんだな。海賊が呑気にコスプレなんてありえねーな」
シンさんは収納箱の脇にあるドラキュラの衣装を見て溜息をついた。

「でもシンさん、すっごく似合ってましたよ!シスターも楽しみにしてたし…あれ?」
「シスター?確かにあの人も無類のイベント好きで子供の頃は毎年仮装させられたが、何でお前がそんなことを?」
「そんな気がしたんです」

(何故だろう?)

「確か初めて眼帯をつけたのがハロウィンの仮装だったな」
「そうなんですか?」
「俺がこの右目を嫌がっていたから誰かが…誰だったか覚えてねーが」
シンさんは懐かしげに微笑んだ。
「ハロウィンなんてロクな思い出がねーから、全て忘れて捨てたと思った過去だが、今思えば楽しかった記憶も少しはあるもんだな」
「それは楽しかった記憶なんですか?」
「…ああ。すごく救われた遠い記憶だ」

シンさんの胸に置いた私の手をシンさんがきゅっと握りしめる。
それは少しヒンヤリとしていて、けれど温かい。
「片付けは後だな」
「え?」
「指が冷えてるじゃねーか」
シンさんがチュッと指先にキスをする。
「発情した飼い犬を可愛がってやるのも俺の仕事だ」













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