Novel

□Trick or …? before Christmas
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案内された部屋でウトウトと微睡んでいると、馬の鳴き声が聞こえてくる。
もう陽は沈み、薄暗い部屋に外の僅かな灯りが差し込んでいた。

何かに呼ばれるように視線を外へやると、男性が一人馬から降りた。
(あれはカイさん…!)
思わず窓へ駆け寄る。

カイさんは険しい表情であたりを見廻すと、パチンと指を鳴らす。
するとボウッと丸い目をしたカボチャさんが現れた。
(壁際に寄れば会話がきこえるかもっ!)

「…今夜か」
《ああ。間違いない》
「他の人間は?」
《俺がなんとかしてやろう。最後の仕事だ》
「ジャック。しくじれば契約は無効だぞ」

(契約?今夜?一体何が…)

「きゃっ!」
その時ぱっと目の前に三角目のカボチャさんが現れ、驚いて思わず声が出てしまう。

しまった、と思った時には遅く、カイさんの姿は窓の外に無かった。
「え?どこに消え…っ!!」

視線を部屋へ戻すとカイさんと丸い目のカボチャさんは目の前に立っていた。
「どうしてここにっ?!さっき窓の外に…」
「どうして?それはこっちの質問だ。女、なぜコソコソと俺のことをつけている?」
「つけてなんかっ…偶然です!」
「そうか」
「!」

カイさんに壁へと追い詰められ、顎をぐいっと持ち上げられる。
その瞳は赤く燃えている。
まるで人間のものではないような…底知れない闇を纏っている。
「クックッ。俺が怖いか?…よく見ればお前に覚えがある。『ココ』ではなくやはり以前にも俺と会っているな。何が目的か吐かせてみるか?言っておくが拷問は得意な方だ」


<まて。過去の俺とカイ。この娘に乱暴な真似は俺が許さん>
三角目のカボチャさんが現れて、カイさんとの間に入ってくれる。

《未来の俺か。また来たのか?未来の俺は仕事がなくてヒマなのか?》
<俺はちょっとしたトラブルで未来で失業しかけてるんだ!本当は気まぐれに魂を貸す前に思い止まって欲しかったが間に合わなかった!さっさとその男に貸した魂を戻してもらえ!俺はこのままじゃ消えてしまう!>
《何でちょっと魂を貸したくらいで戻れなくなってるんだ?元々俺達は空っぽの器。魂が足りなくても動けるハズだ。もしかしてお前、人間だった頃に未練を持っちまったのか?》

カボチャさんはハロウィンに私達に出会ったことで自分を見つけて欲しいと思うようになり、精霊の世界に戻れなくなったという。

「なるほど。ジャック、お前は死を通過した魂が人間として存在した場所に執着を持つと過去に意識が引っ張られて精霊の力を失っていくと言っていたな。だから俺が何を望もうと何を為そうと興味は持っても干渉はしない。俺の目的が果たされ俺が現世に未練を持たぬよう契約を交わした」

《ああ。俺はいずれ滅びるカイの魂の最後の足掻きを見届けるために力を貸している。案内役ばかりは退屈だ。たまにはカイのように変わった男に出会わないとな》
<そうだ。俺はカイの人間らしからぬ冷悧さに惹かれて魂を貸し力を分けた。だがカイは危険な男だ!そいつを信用するな。俺!>

「邪魔をするな。俺の目的が果たされればジャックの元に魂は戻る。俺の魂も上乗せされてな。力を取り戻すには充分だろう?」
<そういうわけにいかない。未来の俺が魂半分のままってことは…カイ。きっとお前の目的は叶わないんだ!>
三角目のカボチャさんの言葉に、カイさんはぴくりと眉を動かす。
(初めて…動揺した?)


「あなたの目的は何なんですか?何をカボチャさんと約束したんですか?」
「お前に話す必要などない。ジャック、途中で案内役を投げ出せないぞ。わかっているな?」
《あ、ああ…》
<おい俺!何をする気だ!?>

丸い目のカボチャさんが杖を振ると、辺りが闇に包まれ、私と三角目のカボチャさんはその渦に呑まれる。
「やっ…!」
<クソッ!過去の俺に力が及ばないとはっ…>

「しばらく眠っていろ」
カイさんの冷ややかな声が聞こえ、そこで完全に意識が途切れた――







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