Novel

□Trick or …? before Christmas
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「シンくん!帰ってきたのね!」
「ほんとにシン君だー」

どんっ
「うわ」
村に着き、ぼーっと立っていると女の子の数人に突き飛ばされる。
女の子たちがシンさんを一斉に取り囲んだ。
「お母さんのこと大変だよね。私にできることあったら何でも言ってね」
「私も精一杯手伝うからっ」

「ああ。ありがとう」
シンさんは短く答えた。
…ほんとにどこにいってもモテモテなんだなぁ。
というか、シンさんって私の時はあんなに意地悪な顔してるのに、結構他の女の子には紳士的なんだよね。
むむ。考えているとちょっと妬けてきた。

「門の前が騒がしいと思ったら…シン、着いたのね」
「シスター。…世話になります」
シンさんは女の子達の輪の中から出て、シスターに頭を下げた。
「よして。そんな他人行儀な態度は。こっちはあなたがオムツをしてる頃から…」
「シスター!」
「あら。この話はいつも嫌がるわね」
「当り前です。それで、母さんは?」
「今ちょうどエマの主治医が診に来てくれているからご挨拶してきなさい」
シンさんは頷いた。
「カイ叔父さんはいますか?」
「いいえ。彼は一度仕事に戻ったのよ。ここからモルドー軍の駐屯地は近いでしょう?だから一旦そちらに滞在するらしいわ」
「わかりました。叔父さんにも改めて礼を言わないと」

シンさんが振り返ってこっちを見る。
と同時に女の子達もそろって私を見た。
「おい、受け取れ」
シンさんが何か袋を投げる。
「うわっ」
キャッチすると、ずっしりと重い。
「持っていけ。のたれ死ぬなよ」
そういってシンさんは孤児院の中へと入って行った。

「ちょっとあなた、シン君とどういう関係なの?」
女の子の団体の中心にいる人物に見覚えがあった。
確か前に私を『オバサン』って言った小さな女の子だ。
今はちょうど同い年くらいだけど…
「え?その、拾ってもらって親切で此処まで乗せてきていただいたんです」
「レイチェルはずっとシン君が好きなんだからね!」
中心人物の女の子はレイチェルというらしく、周りの子達に言われて、胸を張った。
「そうよ。どこの誰か知らないけど、馴れ馴れしいわよ。ファンクラブのルールってものがあるのよ」
「すみません。よく解らなくて…ファンクラブには入ってませんが私もシンさんが好きです!」
ハッキリそう言うと、全員が目を丸くする。
「そそそんなの当然じゃない!シン君はみんなの王子様なんだから!あなたが気安く近寄っていい人じゃないのよ!」
「王子様?」
シンさんって王子様なんだ…
「何よ。文句あるっていうの?だって紳士的だしスマートで頭も良いし、モチロン容姿だってあんなに麗しいし!」
「うーん。あの…私の知ってるシンさんは王子様っていうよりも時々すっごく意地悪でかなり厳しいところもあって結構大変だけど、とっても器用で努力家で実は照れ屋で、側に居ると安心できて面倒見も良くて近寄りやすい人ですよ」
女の子達はますます目を丸くした。

あれ?変なこと言ったかな…?
共感してもらえると思ったんだけれど…

「ふふふ。そこまでにしておきなさい」
後ろからシスターが女の子達に声をかけた。
「どうやらこの子のほうが本当のシンを良く知っているようよ」
「シスター!でも私達はずっとシン君を…」
「そうね。本当にシンは小さい頃から可愛らしくて誰からも好かれる子なのよね。私のじまんよ。」
大人になったシンさんは可愛らしいっていうか、やっぱり手強いですが…
「さ。夕食の支度があるでしょう。シンにも会えたんだから今日は帰りなさい」
シスターに促され女の子たちはしぶしぶ背をむけて帰っていく。

誰もいなくなったあと、シスターがこっちを見る。
「あなたはこっちね。いらっしゃい」
「へ?私は…」
ボトッとシンさんから受け取った袋が地面に落ちた。
拾って中身を見ると、それはお金だった。
「こんなに!?私お役に立ててなかったのに…!」
「あなたシンに身売りでもしたの?」
「え゛っ!!ししししてませんよっ!」
「大金ね。まったくあの子…カイの影響かしら」
「カイさんの?」
「感謝の気持を示す表現が苦手なのよ」
「こんなに貰えません!シンさんに返さなきゃ」
慌ててそう言うと、シスターは微笑んだ。

「私からお願いするわ。出来るだけシンのそばにいてあげて」
「…え?」
シスターは知ってるのかな?
私がシンさんの恋人で未来からやってきて…ううん。そんなわけないよね。

「それはどういう…?」
「シンを深く知ろうとしてくれる人が一人でも多く側にいてほしいのよ。あの子は根が生真面目というか手を抜かないとういか、極端なのよね。良くないほうへ進もうと決めたらとことんしちゃうタイプだから…心配なのよ」
それはこれからシンさんに起こることをシスターも感じているからかもしれない。
私はここで過去を変えてはいけないけれど。見守るくらいなら…いいかな?

「さ。ハーブティーでも飲んでシンを待っているといいわ」
シスターの温かい手にひかれて、私は再びシンさんの元へと向かった。



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