Novel

□Trick or …? before Christmas
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「シン君。本当に行ってしまうの?」
朝ご飯の支度を終えてシンさんを呼びに行くと、玄関に来客があった。
結局シンさんは部屋を用意してくれて、何とかまだ置いてもらえている。
役に立とうと早起きして朝ごはんを作ってみたんだけど、夢中になってたから来客に気づかなかった。

凄い美人…ウルだからかな。
透き通るほど色白ですらりとした女の子だ。
「あっちにはシスターがいる。俺だけじゃどうしようもないこともあるからな」
シンさんが短く答えると、女の子は必死に訊ねる。
「戻ってくるの?私も一緒に行って…」
「連れていくつもりはない」
シンさんは言い切る。

親しい女性なのかな?
まるで恋人どうしの別れの場面みたい…。
すごくお似合いみたいだし…
今更だけどシンさんってモテるし、この時代に恋人いたりするのかな?
そりゃあ未来では私の恋人になってくれているけれど、きっと過去に付き合っていた女性もいたんだよね…?
うっ…考えてたら胸が苦しくなってきた。

ふとシンさんがこっちを見て目が合う。
「何だ?」
「えっ!あの、朝ごはんが出来て…」
しどろもどろになってしまう。
女の子は突然現れた私に驚いていた。
「この人は…?」
女の子がシンさんに訊ねる。
「行く宛が無いと言うから片付けの手伝いとして置いていただけだ」
で、ですよね…
「でも朝御飯まで…。言ってくれれば私がするのに」
「…じゃあな。今まで世話になった。お前も元気でやれ」
シンさんは女性に背を向ける。
開かれていたドアは涙目の女性を残してパタンと閉じられた。



…き、気まずい。
朝御飯を食べながら、シンさんはずっと黙ったままだ。
おそるおそる訊ねてみる。
「あの、よかったんですか?」
「…さっきのことか」
「もしかして恋人なんじゃないかと」
「俺は特定の恋人を作る気はない」
そのわりにすっごく親密に見えましたけどーっ!
って、聞きたいけど聞きたくない。
「村長の娘だ。母さんのことで色々世話になっていたし挨拶にきただけだろ」
そんなふうには見えなかった。
あの人は絶対シンさんが好きだと思う。
とりあえず恋人じゃないみたいだけど…

「何か言いたげだな」
「べ、別にっ…」
「『恋人じゃないのに親しげに見えたけど本当はどういう関係だろう?』って聞きたいのか?」
「ち、超能力っ?!」
「アホか。お前みたいに顔に出やすいヤツの考えなんて手に取るようにわかる」
「う…わかってるなら聞かないでください」
「確かに好きだと言われたことはあるが、俺は別に好きじゃない」
「あんなに美人なのに?」

「フン、くだらない。好きだの嫌いだのと暇なやつらだな。俺はそんなものに振り回されないし興味もない」
出会った頃のシンさんも同じ事を言ってたな…。
今思うと、どうして私を好きになってくれたんだろうと不思議な気持ちになるけど…。
でも未来のシンさんはこの考えを変えて、私を好きになってくれるんだよね…?

「何ニヤけてるんだ。気持ち悪い」
「に、ニヤけてませんよ」
「だとすれば元々相当締まりのない顔なんだな。ところでお前はこれからどうするつもりだ?タロウ2号もそうだが、俺は飼い主になったつもりはないが」
「そのことなんですが、私を一緒に連れてってもらえませんか?向こうに知り合いがいるんです!ご迷惑かけないようにしますから」
「何で俺がお前を連れていかなきゃならないんだ」
「だ、だってお金もないしっ!食べるものも着るものもっ…」
「知ったことか」
「困った人がいたら助けあわなきゃいけないんですよ」
「助け合い?お前が俺の何を助けてくれるんだ?」
「ほら。ご飯とか掃除とか…あっ!肩もみもできます!」
「…俺はべつに肩こりじゃない」
あれ?それは未来のシンさんだけ?

「えっと、あとは…旅のお話も少しならできます」
「旅?」
「はい。詳しく話せませんが、私は船で旅していました。色んな国に立ち寄ったので、覚えている範囲でお話できます」
「…」
シンさんが何かを考えるように黙り込む。
「わかった。じゃあ向こうに着くまでその話を聞かせろ。それが交換条件だ」
「ありがとうございます!」

とりあえず、これで球体移動はしなくてよくなったかな。
それにもう少し…シンさんと一緒に居られるんだよね。


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