Novel

□Trick or …? before Christmas
17ページ/27ページ


シンさんは海の見える丘でベンチに座っていた。
やっぱり海を眺めてる――

「シンさんっ!」
意を決して声をかける。

「お前…」
振り返って少し驚いた顔になった後、ふいと顔を逸らせた。
「何の用だ。襲った男に文句でも言いにきたのか?」
目も合わせてくれない。

クーン
タロウ2号がシンさんの傍に擦り寄って温めるみたいにくっついた。

「服…ありがとうございます。着るものがあのドレスしかないから凄く助かりました」
「どうせ捨てるつもりだった服だ。」
バサッ
シンさんは着ていたコートを脱いで乱暴に寄越した。
「ついでにそれもやる。こんな時期に薄着で出てくるなんて馬鹿か。追い出す女とはいえ風邪でも引かれて行き倒れられると寝覚めが悪い」
「でもそれじゃあシンさんが寒いです」
シンさんはタロウ2号を撫でた。
「コイツがいるからマシだ。とっととそれを着て出ていけ」

「…私…言いにきたんですっ」
シンさんは不機嫌そうな顔でこっちを見た。

「私はシンさんが好きですっ!」
「…フン」
興味なさげに視線を逸らされる。

…う。
負けない。
ちゃんとわかってほしいから。

シンさんの傍へ駆け寄り、その頬を両手で挟みグイッとこっちを向かせた。

「なっ…おい…」
振り払われそうになるけど、
「聞いてください!」
伝えるって決めたから。
「…だからさっきのはただの遊び…」
「遊びじゃ嫌です!シンさんが好きなんです!」
真正面から瞳を見て、もう一度言う。

「私はね、愛が無くてあんなことは絶対出来ないです。そりゃあシンさんが遊びっていうのはすごく傷つきますけど、でも大好きだから…だからシンさんなら…シンさんだから、もっと触れたいって思うんです。それに私のこと絶対好きになってもらいますからっ…今は無理でも絶対未…いたっ」
また頭痛だ…
シンさんは黙っていた。
言葉でこれ以上言えないなら…
離した両手を今度はぎゅっと身体に回して抱きつく。

「…おい。抱きついていいと許可してないぞ」
「ごめんなさい。でもこうしてるほうがあったかいし…こうしたいから」
「…何なんだお前は」

バウバウッ
タロウ2号がシンさんの足元でグルグルと嬉しそうに回る。
「お前たちは、か。無駄に懐きやがって…」
シンさんは小声でそう言った後、呆れたように私とタロウ2号を見比べる。
「ったく…ス●ーカータロウ3号だな」
「へ?やだっ!そんな変な名前つけないでください!ス●ーカーじゃありません。」
「自覚がないのが重症だな」
シンさんの愉快げな声が頭上から降ってくる。

「あの…シンさん。そういえば私には一応名前があるんですよ」
「タロコだろ。誰がつけたんだ、そんな変わった名前」
シンさんです!
「倒れたとき、呼んでもらったような気がします」
「気のせいだろ。それより3号」
「だ、だから3号のほうが変な名前…」
「さっきの続きをして欲しいのか?」
「ふぇっ?!いやあのっ」
「そういうことだろ?俺にナニされても受け入れるって言っただろ」
「いや…えっと…そういうことじゃないような…」
「へえ。じゃあ今のはウソの言葉か?」
「っ…ど、どうぞお好きにっ!」
目を閉じて腕を拡げる。

「クックッ…馬鹿か。何、必死に歯をくいしばってるんだ。冗談だ」
シンさんの笑い声に目を開ける。
「本当に変な女」

うわぁ
今のシンさんが凄く笑った顔、ここにきて初めて見た。

小さなシンさん、
目の前のシンさん、
いつものシンさん。
どの時代のシンさんでも。

シンさんはあまり笑わないタイプだけど。
それでも、だからこそ。
心からの笑顔を見れた時には、胸の奥が幸せでいっぱいになる。
きっと私は、いつだってこの笑顔を見るためだけに頑張ってしまう。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ