Novel

□Trick or …? before Christmas
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心臓がドクンドクンと激しく波打っている。
まだ熱を持った身体を毛布に包んで宥めようとするけれど、一向に静まりそうにない。

<未来では恋人でもそう簡単にはいかないようだな。あの男はかなり捻くれてるからな>
「きゃっ!…カボチャさん?!」
<アンタの様子が気になってテレポートしてきたんだ。あまり力が無いから数分しかもたないだろうが、カイの傍にいると俺も力が僅かに戻ってきているようだ>
「…どこからいたんですか…」
<戯れはこれまでとか何とかあたりだな>
「…ほ、ほんとですか?」
もしかしてイロイロ見られてたっ?!

<安心していい。俺はとっくに俗世から離れた存在だ。アンタ達がイロイロやってようが全く気にならないぞ>
「ややってません!…っけど私は気になるんですっ!…それよりもカイさんの目的はわかったんですか?」
恥ずかしすぎて話題を変えてみる。
<いや、まだだ。用心深い男だし過去の俺も一向に姿を現さないしな>

「私も…シンさんにカイさんの名前すら出せてないです。親しくなるどころかヘマばっかりで。カボチャさんの情報になりそうなことも何も…」
<それは問題ない。情報を引き出すってのは二の次でいい。アンタには無理にこっちの時代につれてきて悪いと思ってるし、もうすぐクリスマスだからせめて、捻くれる前のアイツと仲良く過ごしてもらおうかと思ったが…すでに遅かったようだな。とっくに捻くれてたな>

「ふふ。確かに。あの可愛らしいシンさんが今のクールなシンさんになるまでをもっと知りたいですね!あ、でもすぐ銃を出さない分、まだ大人のシンさんより物騒じゃないかも!」
<そうだな。アイツは容赦なく発砲するからタチが悪い。そもそも何でアンタはアイツがいいんだ?顔か?>

「えっ!いやあの…そうですね。そういえば同じようなことをナギさんに聞かれたことがあるんです。どこが好きかって」
<確かにモテるタイプかもしれないが、俺のような神聖な存在を怖れ敬うって事を知らない礼儀知らずだぞ!俺はこんなに恐ろしい顔をしてるってのに>
「でもカボチャですしねぇ…」
<カボチャだとどうだっていうんだ?>
「ほら、カボチャのランタンって可愛いじゃないですか」
<クッ…可愛いだと?俺は恐ろしい力を持ったランタンなんだぞ。カイから完全に力を取り戻せばもっと凄いイタズラだって出来るんだ>

「あ!カボチャさん。顔が消えかかってますよ」
<何だと?もう時間か…とにかくあの球体に乗りたくなければシンと一緒にカイの元へ来るんだ>
「えっ!シンさんが馬車に一緒に乗せてくれるわけ…って球体以外に移動手段ないんですか!?それは困るっ…あ!ちょっとカボチャさん!」

消えちゃった…

ふと、ベッド脇に綺麗に畳まれた衣服が目に止まった。
拡げてみると、男性用だけれど今のシンさんの服にしては少しサイズが小さい。
ドレスは濡れたままで、まだ乾いていないはず。
もしかしてシンさんの昔の服を着替えとして用意してくれたのかな?
バスタオルでいるわけにもいかないし…着替えてみよう。
袖を通すと、少しだけ大きいけれど袖と裾を捲れば大きめで着ることができる。
綺麗に洗濯されたそれは、お日様とシンさんのお香の香りが混じって良い香りがした。
シンさんって本当、細やかというか…よく気が付く人なんだよね。口は悪いけど。
「ふふっ」
好きな香りに包まれて幸せな気分でいると、

クーン
「タロウ2号…あ、あの。シンさんは?」
ドアの隙間からタロウ2号が顔を覗かせ、ズボンの裾を引っ張った。
それから、ついて来いと言わんばかりにグルグルと周り始める。
「もしかして案内してくれるの?」
バウッ


シンさんのどこが好きって聞かれた時、真っ先に浮かんだ答え。
『細胞の全てが好きっていってるんです』

カッコいいからとか。
意地悪だけど実は優しいからとか。
色んなことを知っていて、強くて頭も良くて素敵だからとか。

後から理由はいくつでも挙げられる。
でもそれは全部じゃない。
シンさんがシンさんだっていうことが一番の理由。

だからきっと、触れられただけで電流が走るみたいに反応を起こしてしまう。
考えるより先に胸の奥がぎゅっと締め付けられて…
今のシンさんに『愛が無くても』…
このどうしようもない気持ちを今すぐ伝えたい。

走っていくタロウ2号の後を追って、私は家の外へと飛び出した。


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