Novel

□Trick or …? before Christmas
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「目が覚めたか」
見慣れない天井に戸惑っていると、聞き慣れたシンさんの声が耳に入る。
「私…」
「ほんとにお前はどれだけ手間を増やせば気が済むんだ。掃除の手伝いを頼んだだけなのに喋るだけ喋って倒れやがって」

あ…そうか。
私はシンさんのこと色々喋っちゃってひどい頭痛に襲われて…

「ご迷惑おかけしました」
「…」
シンさんにじっと見られる。

「さっきのはどういうことだ?ウルの為に宝とかオフクロのこととか、何故お前がそんな余計なことを言える?」
「それは…」
未来から来たから、なんて言えない。
言ったら今度こそ本当に消えちゃって、いつものシンさんの所には戻れなくなるかもしれない…

黙り込んでいると、
シンさんは呆れたように溜息をついた。
「まぁいい。それより見えてるぞ」
「え?ぎゃあっ!」
胸元を見るとタオルがはらりと肌蹴ていた。
「よく叫ぶヤツだな。たかが胸くらい気にすることじゃないだろ」
「気にしますよっ!たたたかがって…そりゃあささやかサイズですけどっ!」
いつものシンさんにはバッチリ見られてるけど、今のシンさんにも見られるなんて恥ずかしすぎて泣きそう。

「珍しく会いに来たと思えば、出ていく前にこの村への重税を緩和するように言えだと…勝手なもんだ。あれだけ俺達を厄介者扱いしておいて」
シンさんは独り言のように言う。
「俺に何とか出来るわけない。カイ伯父さんにだってこれ以上頼りたくはない」
「…シンさん」

「心配しなくても帰ってくるつもりはない」
シンさんが吐き捨てるように小さく呟いた。

「何だ?その顔は。俺の事を出ていけなんて言われて可哀想だとか思ってるのか?」
私を見ながらシンさんは意地悪く言う。
「伯父は次期大臣と言われていて、母と二人だが金銭的には全く困っていない。俺は帝国随一のエリート進学校の首席で、半分ウルだということを加えても、それなりに将来は約束されている。お前みたいに素性の知れない女に心配される筋合いはない」
突き放すような…そして自慢をしているような言葉なのに全然そう聞こえない。
むしろ自嘲するみたいに、シンさんの顔が苦しげに見えた。

お父さんへの復讐のために、シンさんは海賊になった。
今のシンさんは学生で、こんな綺麗な家に住んでいてカイさんやダンさんは帝国のエリートで、何不自由なく思える。
何も知らない人から見れば…だけど。

シンさんはこれからどうやって海賊になるんだろう?

懐からお金を取り出して、シンさんは脇机に置いた。
「金は置いておくから具合がよくなったら出ていけ。もう掃除は終わったしな」

もともとそんなに汚れてなかったし、綺麗に片付いていた。
カイさんに付いて出ていくことだって出来たかもしれない。でもシンさん…
もしかしてこの村をまだ離れたくなかったんじゃないかな…

部屋を出ていこうとしたシンさんの服の袖を、ぎゅっとつかむ。

「お金はいいんです…」
「ボランティアだっていうのか?殊勝な心がけだな」
心は開かないとでも言いたげに、シンさんはますます意地悪く言う。

「シンさん…」
「…何だよ」
「私は何も言えないけど…覚えててください。シンさんは一人じゃなくて色んな人に愛されてるってこと」
「…愛?くだらない」
「シンさんが今そう思うなら思ってても良いです。でもね、でもシンさんが居ないと悲しむ人は沢山いるから!だから…だから…」


「…っ!」
言いかけた唇は唐突に塞がれる。
「んっ…」
黙らせるような乱暴なキスが、無理やり言葉の続きを奪う。

「お前も俺をアイシテルって言うのか?だったら証明してみろよ」
唇を離したシンさんは、何かをぶつけるように荒々しく私をベッドに押し倒した。



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