Novel

□Trick or …? before Christmas
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「よしっ!これで綺麗になったよね!」
水回りと窓や棚の拭き掃除やモップ掛けを終えて。
シンさんにも掃除だけは褒めてもらったことがあるし!
シリウス号でトワ君と一緒に鍛えたこの掃除の腕で、シンさんが村長さんに挨拶に行ってる間に綺麗にしてバッチリ役に立って、まず認めてもらわないと。

「あとはこの床のモップ掛けで一段落だ〜…ってタロウ2号さん…どいていただけませんか?」
シンさんは出かける前に、タロウ2号に私の見張りを言いつけて行った。
だからなんだろうけど――タロウ2号は私の後をずっとついてきていた。
そして最後の床のモップ掛けのタイミングでモップの先にちょこんと座り込んでしまった。

バウッ
遊んで欲しそうにこっちを見てる。
「このモップ掛けが終わったら遊んであげるからどいて下さい…ぐぬぬ。タロウ2号、あなた結構重いっ…」
クーン
タロウ2号は遊んでもらってると思っているのかモップの上で嬉しそうに鳴く。
「う〜重いっ。うーっ!!」
思い切りモップを押しているとタロウ2号はモップ先からどいてしまう。
急に軽くなったモップが勢いよくすべり、ガンッと鈍い音がして、次の瞬間、バケツが宙を舞うのが見えた。

「うわっ!」

バッシャーンッ

「きゃっ」
飛んできた汚れたバケツの水が身体じゅうにかかることになってびしょ濡れでげんなりしたのも束の間、
「…あれ?」
タロウ2号とバケツ越しに見えてなかったモップの先に鈍い手ごたえがあった。

ごくり。
こ、これは……

「…お前、掃除もロクに出来ないのか」
ものすごく不機嫌な声が前方から聞こえて、
恐る恐る視線をやると、モップが顔面に直撃したシンさんが立っていた。

「ぎゃーっ!!!」
「なんでお前が叫んでるんだ。叫びたいのはこっちだろ」
「ごごごめんなさいっ!!!どうしようどうしようっ」
「…とりあえず落ち着け」
「でもシンさんの綺麗な顔が汚れてっ…」

ぐいっ
腕を掴まれてバスルームに連れて行かれる。

ザアッと湯が出されて、シンさんは自分の顔を洗ったあと、
「使え。何か着替えをとってくる。この時期に風邪でもひかれて文句言われても面倒だしな。ったく忙しいのに余計な手間を増やしやがって」
「あのでも…シンさんも濡れてるから早く温めたほうがいいです」
思わず腕を掴んで引き留めると、
「…」
シンさんは無言のまま壁に私を押し付けた。

いつものシンさんより少し背が低いから顔が近い…!

「それは一緒に入りたいと誘ってるのか?」
「まままさか!私は後でいいのでお先に洗って下さい…ほら!丈夫だけが取り柄ですから!」
「お前の取り柄なんて知らねーよ。俺は掃除を頼んだはずだ。余計な仕事を増やしやがって」
「本当にすみませんっ」
こんなんじゃ仲良くなるどころか追い出されてしまう…

「…」
シンさんが黙り込んだ。
じっと見つめられる。
湯が二人の身体の隙間を濡らして、溢れる蒸気が頬に熱を与えていく。
「へえ…お前、よく見れば悪くない顔してるんだな」
「ふえっ?!」
悪くない顔??
「俺のことを知っていてわざわざ会いに来たのは、俺に近づきたかったんだろ?」
それはそうなんだけど…

「意外と女のカラダみたいだしな」
下がっていくシンさんの視線を辿ると、濡れたドレスが張り付いて体のラインをくっきりと際立たせていた。
「きゃっ!」
思わず胸の膨らみを手で隠すけれど、シンさんに腕を掴まれる。
「片付けの手間を増やした罰で、特別に虐めてやってもいい」
「えっ…あのっ…」
シンさんの顔が近づいてくる。



ゴンゴンゴン
不意にドアが力強く叩かれる音がした。
シンさんは素早く反応して私から離れる。

「とりあえずここで入ってろ」
シンさんはタオルを手に取ると顔を拭き、何事もなかったかのように背を向けて出ていった。

ど、どきどきした。

シンさんなんだけど年齢近いからシンさんじゃないみたいだし。
ほっとしたような…少し残念だったような…


「ふぅ…こんなんじゃカイさんのことを聞きだすどころじゃないなぁ」
ドレスを脱いで水を絞る。
すでに裾が破けているそれは、もうボロボロになってきていた。

「着るものはこれ一着しかないし困ったなぁ。乾くまで待つしかないか。役立たずで追い出されるにしてもそれくらいまでは置いてもらえるよね…」
ザッと身体の汚れを洗い流して、そばに置いてあったバスタオルを取り、とりあえず体に巻きつける。
そうっとバスルームのドアを開けて廊下に顔を出すと言い争うような声が聞こえてきた。

「だから俺に出来ることはないって言ってるだろう」
シンさんの声だ。
近くに寄ってみると、シンさんと年の変わらない男の子がシンさんに詰め寄っている。
ウルの特徴がよく出ている綺麗な男の子だった。
「そこを何とかしてくれよ。お前の親父はモルドーの偉い人なんだろ。叔父ももうすぐ大臣になる奴だって聞いたぞ。お前から頼めばこの村を特別に優遇してくれることだって出来るだろ」
「親父と交流はない」
シンさんは俯きがちにそう答えた。
「そうかよ!シンはどうせ半分モルドーだからな!都合よくウルになったりモルドーになったり出来るから困らねえよな!この村のことなんてどうでもいいんだろ。お前なんかもうこの村に戻ってくるな」
シンさんの表情が曇る。
「話はそれだけか?久しぶりに来たと思えばくだらない。」
「何だと?!」
男の子はシンさんの胸ぐらを掴む。


「シンさんはどうでもいいなんて思ってません!!」
思わず叫んで飛び出してしまう。

「…おい」
シンさんに睨まれる。
あ、マズかったかな…で、でも!

「わ、私はよくわからないけど、これだけは知ってます!シンさんはお母さんのウルの血を大事に思ってます!この村のこと、大好きなんです!危険な目にあったりしながらもお宝を探して、ウルの人たちの暮らしを豊かにしようって頑張ってるんです!だ、だから、帰ってくるななんてそんな悲しいことっ…言わないで下さい!お願いしますっ!」
一気に吐き出す。

「…っ」
ズキンズキン
頭痛が込み上げ、激しくなっていく。
目の前が白く霞んで私はそのまま意識を手放した。
タロコ、とシンさんが何度も呼んでくれる声が遠くから聞こえた気がした。





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