Novel

□Trick or …? before Christmas
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タロウ2号はシンさんの家のドアを前足で擦り続けていた。
ガチャッ
ドアが開き、シンさんが顔を覗かせる。
「タロウ2号。俺はお前の飼い主じゃない。何かにつけて俺にガラクタを持ってくるそのクセを何とかしろ」
くぅ〜ん
タロウ2号は褒めてと言わんばかりに鳴き、
シンさんの手のひらにタロウ2号のヨダレでべとべとになったカボチャさんが乗せられ、シンさんは呆れた顔をした。

「すいませんっ!それ私のカボチャなんですっ」
声をかけると、シンさんがこちらを見る。
「またお前か」
「タロウ2号に取られちゃって…」
「ほら」
べとべとのカボチャさんが私の所へ戻ってくる。
シンさんがドアを閉めようとして、
「あっ!」
思わず、手で閉じかけたドアを掴んでしまう。
「…?」
に、睨まれた…
「迷子だというならこの先に交番がある。行くあてがないならあっちに教会がある。」
「えっと、そのっ…」
「まだ何か用か?」
すっごく嫌な顔されたっ
思いっきり拒否られてる…よね…

「シン。準備はできたか?」
背後で声がして、振り向くとカイさんが立っていた。
カイさんだ…!
迫力ある瞳はそのまま…ううん、むしろ年を取って風格があがり気圧されるくらいだ。
「叔父さん。忙しいのにわざわざ来てくれたんですか」
シンさんは私と話すときとはまるで違って、カイさんを慕っている小さなあの頃のままのように答えた。
「母さんは今眠ってるんです。もう出発の時間ですか?申し訳ないんですが俺もまだ準備が出来てないんです」

「そうか。急だったから荷物の整理や村への挨拶もあるだろうしな。悪いが俺もこの村に長居はしたくない。俺が先にエマを連れていこう。3日後にまた別の馬車を寄越すからシンは後から来ればいい」
「いいんですか?」
「ああ。エマのことは任せてくれ」
カイさんは優しげに微笑んだ。

カイさんの胸元にはカボチャはくっついてないみたいだけど、過去のカボチャさんはどこにいるんだろう?
目的はまだ果たされてないんだよね…?

じろじろと見ていたら目が合ってしまう。
「シンの恋人か?」
「わ、私は…」
「違います」
シンさんに間髪入れず否定されてしまった…

ぐいっ
急にカイさんが腕を掴んでくる。
「このドレスは…」
ドレス?
「この村で二度目に死にかけた時、同じ色のドレスの布で止血されていた。誰がしてくれたのかわからなかったが…」
あっ!ドレスの切れ端は残ったままになったんだ。
「裾が破けているようだがまさか…」
「叔父さん。そんなわけないですよ。コイツは俺と同じくらいの年だし、叔父さんが怪我した時にこんなドレスを着れる年齢じゃないでしょう?」
「そうだな。偶然か。悪かった」
カイさんは詫びながら腕を離した。

「エマを運ぼう」
カイさんは家の中へと入っていき、シンさんも続いて消えていった。
少し離れた家の外で、大人しく寝そべったタロウ2号と並んで待っていると、カボチャさんが小声で話しだす。
タロウ2号は不思議な顔をしてカボチャさんを見る。
<俺はカイの馬車についていく。今は過去の俺の気配がないがカイにくっついていれば出会える可能性が高い。アンタはここに残ってシンに取り入ってカイのことを調べてくれ>
「えっ!取り入るなんてそんなの私にできませんよ」
<何を言ってるんだ。未来じゃアンタたちは恋人同士だろう?俺が最初に呪いをかけた時あの男はアンタの元に戻ろうと必死だった。アンタも愛の力で俺の呪いを解いたわけだしな>
シンさん必死で戻ろうとしてくれてたんだ。
それは見てみたかったかも…

<ニヤけるのは後でしてくれ。とにかくアンタはシンからカイのことを聞きだしておいてくれ。カイは何を考えているかわからないところがあるから俺も貸した魂を返してもらう時は十分に注意しないと>
「探し物の次はスパイですね!」
<何か嬉しそうだなアンタ>
カボチャさんにそう言われると、出来そうな気にもなってきた。
「仲良くなってみます!」
さっきは思い切り不審者扱いされたけど、話せばきっとわかってくれるよね!だってシンさんだもん!


ドアが開き、遠目だから顔は良く見えないけれど、ほっそりした黒髪の綺麗な女の人を大事そうに抱き抱えたカイさんが出てくる。
まるで物語に登場して絵になりそうな二人だ。
従者の人も手伝い、豪華な馬車の中へとエマさんは運ばれる。
「じゃあ叔父さん。母さんを頼みます。叔父さんは忙しい人だしあまり手を煩わせたくないから申し訳ないですが」
「問題ない。エマとは古い付き合いだ」

「そういえば叔父さん、また昇進したんですね。そのうち大臣になるとも聞きました。おめでとうございます」
「内政に携わるようになってから向いているみたいでな。俺の昇進は飾りのようなものだが、ダンは近いうちに総督になるだろう。数ある帝国の植民地を束ねる役職だ。このウルの村もいずれダンの支配下になる。ウルとモルドーが険悪になっているのも総督の支配力が足りてないからだな。この村の治安は一触即発。帝国にとって燻り続ける火種だ」
「アイツの支配下…?そんなことあってたまるか。村に近づくどころか便りも寄越さないのに」
シンさんは忌々しそうに呟いた。

「帝国の礎となる国は全世界に及ぶ。ダンは今新しい土地を求めて遠方に出ているんだ。新地獲得が出世の道であり、エマとの結婚も…いや、これはいいか」
「母さんとの結婚が何ですか?」
「もしかしてエマを選んだのも優れた民族であるウルを掌握するためではないのかと今では思ったりな…」
「…」
「これは俺の見解だから忘れてくれ。とにかくダンは出世に目が向き、お前達の事どころじゃないんだろう。だから俺で出来ることがあれば力になろう」
「ありがとうございます伯父さん。…アイツじゃなく叔父さんが父親だったら…なんて時々思います」
「シン。嬉しい言葉だが俺はお前の父親ではない」
「わかってます。だから叔父さんに頼らなくてもいいように俺も休学して働きます」
「金の心配はいい。お前はただエマの傍にいてやれ」
カイさんはシンさんに温かい言葉をかけ、そのまま馬車へと乗り込み、出発していった。
馬車の端にはもちろんカボチャさんがくっついたままだった。


馬車が見えなくなって家に戻ろうとするシンさんを呼び止める。
「あのっ!シンさん!」
やっぱりすごい嫌な顔されてる…
これは何を気安く声かけてるんだって顔だよね…でもこんな事ではめげないっ!
まずは怪しい者じゃないって認めてもらわなきゃっ!
「家の片づけが忙しいんですよね?私にお手伝いさせてもらえませんか?!お掃除とか得意なんです!」
「…」
「馬車馬のように働きますっ」
「馬車馬?」
「それか下僕のようにっ!」

「…へえ。本当に馬車馬で下僕のように働くんだろうな?」
「勿論ですっ!今日一日手伝って使えないって思ったらクビにしてもらってもいいです!頑張ります!」
「そんなに必死で仕事を探してるのか?」
「行く宛てがないのでっ!」
シンさんはしばらく考え込む。
「…いいだろう。居ないよりはマシそうだ。だが不審な行動を取れば容赦しない。わかったな」

よし!
お手伝いさせてもらえることになったし!
頑張って認めてもらうんだ!!


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