Novel

□Trick or …? before Christmas
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<Trick or…!>
「ちょっと待って下さい…今それを聞く元気が…」
<ん?どうしたんだ?>
「…きぼちわるい…あの球体乗り心地悪すぎませんか?…せっかく可愛いシンさんとの別れの感傷に浸ってたのに…」
<本来アレは人間が乗るものじゃないしな。最初の旅の時はアンタは気を失ってたから簡単に連れてこれたんだが>
「ホント…誘拐じゃないですか。ふう…ところでここはウルの村みたいですね。さっきと景色があまり変わって無さそうですけど…」
<いや。ちゃんとカイの目的が果たされた時代のはずだ>
「見たところ辺りには誰もいそうにないで…」


「はるばるこんな田舎までお前も暇なヤツだな」
聞きなれた声に視線を合わせると、そこにはシンさんがいた。
「あっ!シンさ…むぐっ」
カボチャさんに口を塞がれる。
<声をかけるのは待て。様子をみよう>

遠目から見るシンさんは、いつものシンさんより若い。
制服を着ているみたいだけど…
そっか!ここってもしかして…シンさんの学生時代?!

って…シンさん…遠目でみてもやっぱりカッコいい〜!!

<おいアンタ。目的を忘れないでくれよ>
「わかってますって。学生のシンさんも素敵だと思いませんか?今なら同い年くらいだしドキドキしちゃう…」
そして、さっき別れたあの可愛らしいシンさんがすっかり大きくなって…って気分にもなってしまう。
<何でホロリとしてるんだ?>

制服姿のシンさんは、同い年くらいの男の人と並んでベンチに座っていた。
「ひどいなぁ。それが心配してはるばる会いに来た親友にいう言葉かい?」
「休学はもう決めたことだ」
「まぁ君は成績も優秀だから少し休学しても問題ないだろうけど…僕が心配してるのは、そのまま君が居なくなったりしないかってことだ」
「…」
シンさんは黙り込んだ。
「君が大変なのは分かってる。だから僕で力になれることがあったら言ってくれ。それを言いにきたんだ」
「…ああ。だがお前も、あまり俺に関わらない方が良い」
「またそんなことを…」
「ウルとモルドーの関係は年々悪化してる。お前は家の為にウルだということを隠して生きてきたんだろう?俺といるとロクなことにならないぞ」
「別にそれは構わない。シンこそ誰かに頼るべきだ」
「だから母さんの育った孤児院に移ることに決めた。伯父が馬車を手配してくれたからしばらくそこにいる。」
「そうか…」
「母さんはここに未練があるみたいだけどな。バカみたいだろう?まだアイツが戻ってくるなんて思ってるらしい。」
シンさんの顔が曇り、友人らしき人も黙り込んだ。

バウバウッ
急に背後から犬の声がしてドレスの裾を引っ張って強い力で引きずられ、私は無残にも前のめりで倒れてしまう。
「いっったぁあ〜…」
顔を擦りながら起き上がると、
シンさんと友人の人が顔から地面にダイブした私を見下ろしていた。

「あ…シンさん…」
目が合って思わず名前を呼ぶと、シンさんが怪訝な顔になる。



「誰だお前?」
「はっ…はじめまして!!私はえっと…えっと、タロコといいます」
「…」
シンさんは無反応で睨んだままだ。
やっぱり記憶は消えてるんだ…
タロコという名に何も言ってはくれない。


クゥーン
さっきの大きな犬が私の顔を舐めてくる。
タロウに少し似ているけど毛の色が違う。
「うわ…くすぐったいよ…きゃっ」
「タロウ2号。やめておけ。それは美味くないだろう?」
シンさんが犬に声をかけると、タロウ2号と呼ばれた犬は舐めるのを止めてシンさんにすり寄った。
懐いてるっ…そしてタロウ2号?!

「あのっ…タロウは?2号って?」
「タロウは8年前に死んだ犬だ。この村の人間でもないのに何でお前がタロウを知ってるんだ?」
私がタロウを知っているのは変なのかもしれないけど…なんて説明すればいいんだろう?
「それは…あの…いたっ」
正直に言おうとすれば頭痛が襲ってくる。


「大丈夫?ええと、タロコさん」
「ライル、構うな。どうみても怪しい女だ。それに偽名に決まってる」
偽名だけど、
シンさんが名づけてくれたんだよ…

ライルと呼ばれた男の人がクスクスと笑う。
「シンは女の子に対して相変わらずだね。初めまして、僕はライル。シンの友人だ」
ライルさんは手を差し出してくれる。
ぼうっとしていると、
「あれ?やっぱり僕じゃだめかな。ほらシン。君が引っ張って起こしてあげなよ。顔からいったんだ。痛そうだよ」
「何で俺がそんなこと」
「こんな場所で座り込んだままだと邪魔だろ?」

は、恥ずかしいっ
そういえば顔面からこけるのを見られてたんだった…


「チッ、怪しい上にどんくせー女だな」
シンさんが渋々手を差し伸べてくれた。
「頬擦りむいてるぞ。鼻より頬に怪我とはな」
シンさんが馬鹿にしたように捻くれた口調で言う。
引っ張ってもらって立ち上がると、体が少し近づいた時にふわりとお香の香りがした。
これは…っ!いつものシンさんだ!!
懐かしいっ!嬉しいよ〜!!
ようやくシンさんに会えたような気がしてきた!!

「何を嬉しそうにしてるんだ。気持ち悪い」
き、気持ち悪い…
さすがシンさん。
出会った頃のように辛辣な言葉のオンパレード…
「あ、ごめん。シンは口が悪いけど悪いヤツじゃないからね」

「はい。知って…いたたっ」
また頭痛がやってくる。
「大丈夫?…あれ、君をどこかで見た気がするんだけどなぁ。うーん、でも僕が見た女の子はもっと年下だったし」
「何だライル。こんなのが好みだったのかお前。趣味わるいな」

がーん。
こんなの…
分かってたけど『こんなの』って…趣味悪いって…

「何言ってるんだ。可愛い子じゃないかタロコちゃん。シンだってそう思っただろう?」
「フン。くだらねー。俺は荷造りの続きがある。ライル、また手紙を出す」
シンさんは背を向けて家に向かおうとする。

「わかったよ。シン…抱えすぎるんじゃない。たまには年相応に気楽に楽しむことも君にとっては大事なことなんだからな!」
ライルさんはシンさんの背中に向かって大きな声で言う。
「だからお前はお節介がいちいちジジ臭いんだよ」
シンさんは振り返り、少し笑顔になってから手を振って去って行った。


どうしよう…
シンさんの近くにいないとカイさんに接触できないし。
でも用もなく家をたずねたら完全不審者だし。
さっきので十分に変な女だと思われたっぽいし…

「君はシンのファンクラブの子?」
「ふぁんくらぶ?」
「あれ?違うの?ドレスまで着て逢いにきたのかと思ったんだけど…でも裾が破けちゃってるね。さっきこけたからかな」
そういえば私はドレスのままだ。
血だらけだったのは消えてるけど、裾が破けているのはそのままだった。
カイさんの止血をした時に破ったから…ちょっと見映え悪いけど、仕方ない。

「あはは。大丈夫です!えっと…あの、シンさんのファンクラブって…?」
「シンはあの風貌だろ?僕たちは男しかいない学校だけど、学校外にはシン様ファンクラブなんてものまであるんだよ。てっきり君もそうなのかと思ったんだ」
ライルさんは微笑んだ。
物腰が柔らかくて、この人、ちょっとソウシさんみたいだなぁ…

バウバウッ
タロウ2号がまた近づいてきて、いつの間にかブローチに扮していたカボチャさんを舐めはじめた。
「ダメだよ。タロウ2号!」
たしなめるけれど、全然いうこと聞いてくれない…
「可愛いブローチだね。ハロウィンは終わったところだけどジャックオランタン好きなの?」
ライルさんがブローチを眺めた。

そっか。
この世界ではハロウィンは終わったところなんだ…

バウッ
タロウ2号はやっぱりカボチャさんを咥えてしまい、シンさんの家へと向かって走っていく。
「あーっ!返して!!」
「ははっ。取られちゃったね。返してくれるようにシンに言ってみたら?あの犬、シンのいう事はよく聞くから」
「あの、でも…邪魔になるんじゃ…」
「大丈夫だよ。シンはきっと君のことを気に入ると思うよ」
「えっ!?」
「だって君、あの犬と似てるからさ。じゃあ頑張ってね」
そう言い残して、ライルさんは去って行った。




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