Novel

□Trick or …? before Christmas
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「今回はさすがにヤバいか…」
カイさんは顔をしかめた。
ぽうっとカイさんの胸元のブローチが光り、マントをつけた丸い目のカボチャさんが現れる。
≪本当に無茶をする男だな≫
「!」
≪もう少しアンタの無茶ぶりを見ていたかったんだが、同業者もいることだしずっと隠れてもいられないな≫
もしかして…!
この丸い目のカボチャさんは過去のカボチャさんなの?!
見つけることが出来たんだ…
まさかカイさんと居たなんて。

タロウが咥えていたブローチが光り、いつものカボチャさんが現れる。
<あ〜!犬くさい!犬の唾液でベトベトだ。あ、俺は単なる同業者じゃない。俺はお前の未来の姿だぞ>
≪何だと?俺は将来三角目になってるのか≫
<これは事情があってな。ある男に頭を撃たれて顔を取り変えた>
≪ひどいことする奴がいるもんだな≫
それってシンさん…?

マントを付けた丸い目の過去のカボチャさんと、三角目の今のカボチャさんが並ぶ。
≪で?未来の俺が何の用だ≫
<お前に元の世界への帰り方を訊きたい。ついでに忠告を>
「カボチャさん!それは後で…今はカイさんが!」
「…ジャック。俺…との約束を…果たせ」
カイさんは荒い呼吸を繰り返しながら過去のカボチャさんに声を掛けた。

≪わかってるさ。俺はお前の案内人だ≫
<俺はジャックって名前だったのか?!名前があるなんてなんて素晴らしい!>
カボチャさんは嬉しそう。
≪カボチャじゃ呼びづらいからってこの男がつけたのさ。そうそう、ちょっと黙っててくれ未来の俺≫
そう言って過去のカボチャさんの身体が強い光を纏う。
<おい待て!!あっ!まさかお前っ!!>
えっ?何?!
辺り一面が強い光に包まれ、目を開けていられなくなる。


数分後――
ようやく瞳を開けると、
そこには倒れ込んでいたはずのカイさんが背筋を伸ばして立っていた。
深々と裂けている傷口はそのままなのに顔色も良くなっている。
「完全に戻ってシンに不思議に思われても困るからな。」
「何を…したんですか?」
≪魂を分けてやったのさ≫
<遅かった…そうだ。思い出した。俺はこの男に魂を貸してやってたんだ>

過去のカボチャさんがカイさんに魂を貸した?どうして…?

≪この男は一年前のハロウィンの夜に死にかけた。俺が道先案内人に選ばれた。地獄へと連れて行く予定だったんだが、あろうことか門番を騙して地獄行きを免れてしまった。だが天国にも連れていけない。いずれ肉体が滅びればカイは永遠に現世を彷徨う俺達のような存在になる≫
カイさんが…カボチャさんに!?
「言っておくが俺はかぼちゃになるつもりはない」
あ…考えてた事見抜かれた?

<俺達のような案内人にならない魂は悪鬼のエサか精霊が強くなるための礎となる。…俺はそれが怖くてこんな仕事をやってる>
「目的さえ果たせば、この体がどうなろうと魂がどうなろうと誰にでもくれてやる」
カイさんの…目的?
≪だから俺と約束したのさ。目的が無事に果たされるまで魂を貸すと。その代わり、果たされた後のカイの魂は俺にゆだねられる。悪鬼に売ろうが俺自身の強化に使おうが構わないとね≫

「じゃあ…カイさんが目的を果たさないとカボチャさんの魂は返ってこないの?」
<そうだった。俺は飛ぶ時間を間違えた。この時代じゃだめだ。この男の目的が果たされる時まで移動しなければ。そうと解れば移動だ!>
「え!ちょっと待ってください。突然そんなこと言われても…」
カイさんの目的って?
そしてまだ…
ぽうっと体が球体につつまれて浮き上がる。


「叔父さん!呼んできたよ!」
下には従者の人を呼んできたシンさんがカイさんにしがみついていた。
「シンさん!」
声をあげて呼ぶけれど、その姿は薄くなっていって届かない。
「カボチャさん!せめて小さなシンさんに挨拶してから…」
<無駄だ。アンタも俺も、この時代に居た形跡は全て消える。シンの記憶からもカイという男の記憶にもタロコという人間は初めからいなかったことになる>
「でもっ…」
<アンタが無事元の時代に戻れば、アンタ自身からもこの時間の旅の記憶は消える。だから今は辛いだろうけど許してくれ>

この時代で小さなシンさんに会ったこと、カイさんに会ったこと…すべて消えるの?
<時代を歪めないために必要なことなんだ。アンタと俺が移動すれば、あの子供にとっては叔父が自分の為に刺されただけの最悪なハロウィンになる。元々そうだったんだ>

「そんなのイヤ!」
バンッと球体を無理やり叩けば、ぱちんと割れる。
<おい!なに無茶をしてるんだ!ってなんで割れるんだ!やっぱり俺の力が弱まって…>
「カボチャさん!元に戻ることに協力しますから…あと数分だけ時間をください!」

「タロコ!」
小さなシンさんが突然目の前にいた私を見て驚いた顔になった。
「叔父さんの止血してくれたんだね。おかげで叔父さん顔色良くなったみたい。今は従者の人が運んで処置してくれてる。医学の心得がある人なんだって」
シンさんの声が震える。
「だ、大丈夫です!シンさん!!カイさんは死にません!」
「え?」
「絶対死にませんから!」
だってカボチャさんが憑いてるし、カイさん自身も怖いくらい強いし…

「わかった。ありがとうタロコ」
『タロコ』なんて変な名前だと思っていたけど、今はこんなに愛しい。
シンさんが大事そうに呼んでくれるから…

クーン
タロウがすり寄ってくる。
まるで私がいなくなることがわかってるみたい。
シンさんの小さな身体をぎゅっと抱きしめる。
「シンさん!また会いましょうね」
「え?急にどうしたの?」
悲しくないのに涙が出そうになる。

シンさんはこれから大きくなっていって私の知らない経験をいっぱいするんだ。
カイさんのこと、お母さんのこと。ウルのこと。モルドーのこと。シリウスのこと。
だからこそ、未来にはシリウス号で私を待っててくれるシンさんがいて。
だからこそ、恋に落ちるから――


「私はずっとシンさんの側にいます」
身体を離すと、そっと頬にキスをする。
「なっ!タロコ?!」
シンさんは真っ赤になって頬を押さえ、私を見た。
「お前やっぱりロリコ…」
「しーっ!言っちゃダメです!また会うためのおまじないですから」
「待って。どっか行くの?」
「…シンさん、やっぱりその恰好似合ってますよ。」
「海賊みたいなドラキュラが?」
「ふふ。海賊にだっていい人いるんですからね!覚えててくださいね!」
そう言うと同時に私の身体は再び浮き上がり、球体の中へと吸い込まれていった。


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