Novel

□Trick or …? before Christmas
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クゥン
カイさんがこちらを向くと、タロウは怯えたように私の後ろに隠れた。
どうしよう…
「立ち聞きとは品のない趣味だな」
そういってこっちを見るカイさんの表情は冷たくて、
「…」
声がうまく出ない。
「何だ?その女も一緒に捕まえて売っちまえ」
男達がこっちに向かってくる。

「仕方ない。早めに駆除するか」
カイさんはそう言って私とタロウを背に男達に向き合い、銃と脚を使って次々と倒していく。
この人は本当に強い…
これだけ人数がいても相手にもなってない。
全員が地面に倒れたあと、カイさんは立ち尽くす私を見下ろした。


突然顎を掴まれ壁に追い詰められる。
「…っ!」
その表情は今までの親切な叔父さんではなく、獲物を捕らえいたぶる獣のように残酷さを滲ませていた。
「ここで見聞きしたことはお前に関係ない。すべて忘れろ。逆らえば女だろうと始末する」
「…な、なぜ…腕を失ってまでシンさん達を襲わせ…」
「そこまで聞いていたのか。タダでは済ませられないかもな」
「…っどうして…」
シンさんを傷つけるようなことを…?!
「二度も言わせるな。お前には関係ない。シンのお気に入りのようだから寛大な扱いにしてやる事を有り難く思え。」
これがこの人の…本性。
瞳の奥は燃え盛る焔を宿すみたいに獰猛で、同時に底知れない深い闇をはらんでいる。呑み込まれそうになる心を奮い立たせる。
「シンさんは貴方を慕ってるのに…どうしてそんなことができるんですか?!」
「うるさい女だな。耳障りだ」
カイさんの顔が近づく。
え?キスされる?!
「やっ…!」
抵抗してもびくともしない。

「お楽しみのところ悪いが」
声のした方を見ると、男達の仲間らしき男がシンさんを捕え、喉元にナイフがあてられていた。
「おっと。動くとこの坊っちゃんの喉をきっちまうぞ。大人しく銃をこっちに寄越せ」
「叔父さん…」
カイさんは何も言わず足元に銃を落とし、男のほうへと蹴る。
男は銃を拾い、
「よくも仲間をやってくれたな」
そう言って睨む。
カイさんは焦る様子もなくシンさんを見た。

シンさん…
さっきの何処まで聞いてたのかな…
カイさんのこと気付いたのかな?
頭痛も起こってないし私が消えてないってことは過去は大きく変わってないよね。
シンさんはカイさんを信じたまま…

「シン」
カイさんが呼ぶとシンさんは小さく頷き、同時に男の急所を蹴りあげて銃を奪う。
そして男に向かって銃口を向けた。
「このガキ!」
銃を奪われた男が焦った態度で怒鳴る。
「子供だと思って油断したか?シンは俺が鍛えている」
カイさんは満足げに微笑んだ。
でも、シンさんの小さな手は震えていた。
人に向かって発砲することを躊躇っているように見える。
「ふん!ガキに撃てるか!」
男のナイフが容赦なく振り下ろされる。

だめっ!
シンさん!!

私が飛び出すより先に大きな背がシンさんを庇い、男が振りおろしたナイフはカイさんの肩へとめり込む。
その背には深々とナイフが刺さっていた。

「カイ叔父さん!」
シンさんが泣きそうな顔になる。
「ちっ…!終わりにしてやる!」
男がもう一度カイさんを刺そうとする。
けれどその前に--
パンッ
シンさんが銃を撃った。
「ぐっ…」
男は膝をつき、その場に倒れた。
「ごめんなさい!俺が…俺がためらったから…。叔父さん!しっかりして!!」
シンさんは必死にカイさんを呼ぶ。
カイさんは肩を押さえてうずくまった。
「シン…従者を呼んできてくれ」
「でもっ!医者を…」
「ッいいから。言うとおりにしろ」
カイさんの鬼気迫る様子にシンさんは頷いた。
「…すぐ呼んでくるから!タロコ、叔父さんを頼む」
「はい!」
シンさんが去ったあと、血まみれの肩を押さえ、カイさんは苦しそうに呼吸を整えようとする。
「動かないでください。今、応急処置を…!」
ドレスの裾を破り止血をする。
駄目…どんどん血が滲んでくる…!



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