Novel

□Trick or …? before Christmas
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バウバウッ
「きゃっ…!」
ウルの村につくと、白い大きな犬が急に飛びついてきて、押し倒された私は地面に倒れてしまう。

「く、くすぐったい…」
犬は胸元のブローチになっているカボチャさんを舐め続ける。
心なしかカボチャさんの悲鳴が聞こえた気がした。
「ひゃあっ…やめっ」
「タロウ。待て」
シンさんにタロウと呼ばれた犬はピタッと舐めるのを止めた。
「離れろ」
と続けると、そろりと私の上から動き脇にちょこんと座る。しっぽを振り続けながらシンさんの指示を待ってるみたい。
「か、かしこいっ。それにシンさんに懐いてるんですね!」
「タロコ。こいつがタロウだ」
「はじめましてタロウさん。あなたからお名前いただいてます」
そっと撫でると、タロウは嬉しそうに鼻を鳴らした。そしてやっぱりペロリとカボチャさんを舐める。
「タロコの胸ばっか舐めてるな」
シンさんが眉間にシワを寄せる。
「ふふっ。このブローチが気に入ったみたいですね」
「あれ?それ…どっかでみたことがある」
「えっ?!どこですかっ!!?」
「確かカイ叔父さんが持ってたような…」
カイさんが?!

「そういえばカイさんは…」
「叔父さんは村はずれの店で待ってるって。モルドー人だから…この村には居づらいんだ。だから俺を連れてきたんだと思う」
ウルだけの村。
今はモルドーとの確執が弱まってるとはいえ、やっぱり深い溝があることに変わりはないんだ…
「母さんに頼まれたものを取ったらすぐ戻るからタロコはここで待ってて」
「はい!」
シンさんが数メートル先にある家へと入っていった。

バウッ
シンさんの姿が見えなくなると、タロウが近づいてきてカボチャさんを舐めた。そしてくわえてしまう。
「タロウ…!返して。それは食べ物じゃないから」
バウバウッ
吠えてぐるぐる回ったあと、タロウは駆け出していってしまう。
「待って!」



「はあはあ…ほんとに老犬なの?すごく足速いよ。ドレスだと走りにくいし…って、必死に追いかけてきたけど…ここどこだろう…」
キョロキョロしていると、不意に聞きなれた声が耳に入る。

「あれきりだと言っておいたはずだ」
この声は…カイさん?
路地裏で物騒な男達数人がカイさんを取り囲んでいた。
「そんなこと言うなよ。飛ぶ鳥落とす勢いの帝国名家出身エリート様の為に俺達が汚い仕事を引き受けてやってるってのに」
「お前たちのような頭の悪い犬を飼う気はない」
「俺達の迫真演技のおかげで、一年前と同じようにもう片方の手もなくなると困るだろう?」
ニヤけた顔でリーダーらしき男性が言う。

一年前と同じ…?どういうこと?
「勘違いするな。あれは仕方なく片腕をくれてやっただけだ。」
「強がりいうなよ。あんたに頼まれて、あのウルの親子を襲ったんだぜ、俺達は」
頼まれて襲った…?
「充分な金は払い、二度とこの村に来るなと言っておいたはずだ」
カイさんの言葉に耳を疑う。

確かシンさんは、強盗に教われたけれどカイさんが助けてくれて、それで腕を失ったって…
「あの女は相当な上玉だった。ガキのほうも売れば変態がかなり良い値段をつけそうな…ぐわっ」
パンッと衝撃音が響き、男は脚から血を流してうずくまる。銃を構えたカイさんは容赦なく男の脚を撃ち抜いていた。

「腕を失ってから銃は得意じゃないんだが、薄汚い口を黙らせるためには仕方ないか」
「う、撃ちやがったな!」
「安心しろ。すぐ始末する気はない。女と子供に手を出そうなんて考えつかないほど痛みを与えてからだ。脚の次は腕がいいか?まずは一人、見せしめにな」
カイさんの声は驚くほど落ち着きはらっていた。
その姿に男達は少し恐怖を覚えたのか、撃たれたリーダー格以外の数人が後ずさる。
「くそっ!人数はこっちが上だ。やっちまえ」
男達が一斉にナイフを投げ、その一本がこっちに飛んできた。

その時。

バウッ
あ!タロウがあんなところに!!
思わず飛び出すと、カイさんがハッとした顔でこちらを見た。





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