Novel

□marriage〜シンさんの理想の奥さんになるために〜
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「寝相を治す方法?」
シスターは首をかしげる。

「はい!何かいい方法をご存じないですか?」
「そうねぇ。ロープでグルグル巻きに身体を縛っちゃえば暴れなくていいんじゃないかしら?」
「……」
シンさんが縛りたがるのって個人的趣味かと思っていたけれど…
まさかシスターの影響?!

「というのは冗談よ」
「じ、冗談っ…」
「あなた、シンが手紙で書いてた通りすぐ顔に出るのね」
「えっ!シンさんがそんなこと書いてたんですか?」

「ええ。シンはあなたを単純…失礼、そう書いているのよ。でもね、それが可愛くて仕方ない、と言っているようにしか私は見えなかったわ」
「そ、そうなんですか…」
シンさんは、一体どんなふうに手紙に私のことを書いていたんだろう。

「ふふ。寝相ねぇ。…そういえばルウムには『どんな病気にでもきく』という薬草があるのよ。よろず草っていうの」
「命の草、みたいなものですか?」
「聞いたことあるわねえ、その名前。そこまでの効力があるものじゃないとは思うのだけれど、傷にも良く効くしボケ防止にもイイと言われているのよ」
「ボケ?!」

「もちろん私は飲まなくてもボケたりなんかしてないわ。ボケて徘徊するお年寄に効いたというのをきいたことがあってね。もしかして、と思ったの」
徘徊に効く?!
ちょっと違うかもしれないけれど今は藁をもすがりたい。

「その薬草はどこで手に入るんですか?!」
「村の東の入り口に店があったのは知ってるかしら?」
「はい、ここに来る途中で見かけました」
「その店にあったと思うわ。とても珍しい草で常にあるとは限らないけれど、よかったら行ってみたらどう?」
「ありがとうございます!!」
私は有益な情報を手にして、意気込んでお店へと足を向けた。



「………休み…」
店の前に行くと、<しばらく休業>と張り紙がしてあった。

どうしよう。
ルウムにいる間にこの寝相を治したいのに…。
途方に暮れていると、後ろから声をかけられる。

「あなた、確かシンさんと…」
振り返ると年の近い、とても綺麗な女の子が立っていた。
「シンさんと一緒に村に来ている子よね?」
確かめるように私をジロジロと見てくる。

「はい。シンさんをご存じなんですか?」
「私、小さい頃彼とよく遊んでいたから。シスターのところに出入りしていたの」

シンさんの小さい頃ってやっぱり想像できないけれど、他の子供たちと遊んだりしたのかな。シスターは天使みたいだったって言ってたなぁ…
今のシンさんはどっちかというと、遊んでいる皆をちょっと離れたところから見ているようなタイプだけれど…小さい頃は違ってたのかな。

「シンさんの子供の頃って可愛かったですか?」
「ええ。女の子じゃないかってくらいすごく綺麗で目立っていたのよ。彼がいるだけでその場が澄んだ空気になるの。それにとっても、優しかったしね」
女の子は思い出を慈しむように嬉しそうに微笑む。
天使みたいに優しかったシンさんかぁ…
私の知らない子供の頃のシンさんを知っている女の子を、少しうらやましく思ってしまう。

「店に何か買いにきたの?」
「はい。よろず草を…でもしばらくお休みなんですね」
がっくりと肩を落とすと、女の子はクスッと笑った。
「よろず草ね。それならこの坂を上がった山の頂上付近に生えてるらしいわよ。白くてハートの形をした珍しい草だからすぐにわかるわ。」

山?
女の子が指さした方向には山に続く坂道があった。
そんなに大きな山じゃないから、一人で行けそうな気がする。
何よりも突然寝相を治して、シンさんをあっと驚かせたいし…。

「教えていただいてありがとうございます!」
私は女の子を残して山に続く道へと駆け出した。


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