Novel
□シリウス事件簿 消えた■■■
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ザぁぁぁッ
連れて来られたシャワールームで頭からお湯をかけられる。
●●「ぷはっ。な、なにっ…」
シン「身体中ドロドロだからついでに洗え」
突然の海水浴だったから、確かに髪も服も汚れてしまっている。
シン「この辺りの海水はお世辞にも綺麗とは言えない。ほうっておいて病気にでもなられたら面倒だからな」
●●「はい。あ、じゃあ皆さんも早くシャワー浴びたほうがいいですよね?」
シン「アイツらは殺しても死なねーくらい頑丈だから気にするな。太陽の殺菌で充分だ」
シンさんの指がボタンを外していく。
●●「じ、自分でできますからっ…」
私が脱ぎ始めると、シンさんはジャケットを脱ぎシャワールームから出て行こうとする。
あれ…?
シン「何だ?」
●●「シンさんは入らないんですか?」
シン「一緒に入りたいと誘ってるのか?」
●●「そ、そういうわけじゃないんですけどっ、シンさんも服とか汚れてますし…」
神経質なシンさんは、一刻も早く洗って着替えたいんじゃ…?
シン「俺は後でいい。着替えを取ってきてやる」
そう言ってシンさんは出て行ってしまった。
着替えを取りにいってくれるなんて優しいな。
お説教だとかハヤテさんは言ってたけど、怒ってないのかも。
憎まれ口と裏腹な、いつもの優しいシンさんに満たされて私は服を全部脱いだ。
シン「しかし何度見ても色気のないパンツだな」
●●「えっ!シンさんっ!」
シャワー音の合間をぬって、カーテン越しにシンさんの声が聞こえる。
綺麗に洗ってからバスタブの端っこに干していたパンツが無い。
●●「か、返してください」
カーテンの隙間から顔を覗かせるとパンツを拡げているシンさんと目が合う。
シン「フン。何を今更赤くなる必要があるんだ?」
そりゃあシンさんには何度も見られているパンツだけど、改まってじっと見られると恥ずかしい。
●●「恥ずかしいものは恥ずかしいから…っ…あっ!!」
手を伸ばした途端カーテンが勢いよく開けられて――突然両腕を掴まれて壁際に押し付けられる。
シャワーの水がシンさんの背中にあたって、黒髪から雫が滴り落ちている。
濡れた髪をゆっくりと掻き上げてから、シンさんはシャツのボタンを外して前を寛げる。
そして意地悪そうに微笑んで、シャワーを止めた。
水音が消え静かになったシャワールームにシンさんの声が響く。
シン「お前の為に海に落ちたんだ。隅々まで洗え」
●●「あっ、洗えって…い、言われてもですねっ…その…」
慌てていると、ぐいっと引き寄せられる。
泡がついたままの私の裸の身体はすっぽりとシンさんの腕の中におさまってしまう。
薄いシャツを肌蹴たシンさんの胸と、何も着けていない泡だらけの私の肌は隙間なく密着している。
シン「俺の服が邪魔だな」
●●「それってもしかして…」
シン「脱がせろ」
言われるがまま、シンさんの服を脱がせていく。
ああもう…心臓が…!!
覚悟していたお説教よりも心臓がバクバクして胸がくるしいっ…!
シン「スポンジがわりだな」
●●「すぼんじっ!?」
ぬるぬると泡が二人の身体を滑らせて、何だか……
●●「は…恥ずかしいです」
シン「バカ。それを愉しんでるんだろ?」
うぅ…私が痛がったり恥ずかしがると愉しそうな顔をするシンさんってホントに…
シンさんの肩越しに、さっきのパンツが目に留まる。
●●「下着が戻ってきてよかったです。ありがとうございました」
シン「俺は何もしてねーよ。…でも、お前が唯一この船に持ち込んだ下着だからな。戻ってよかったな」
●●「はい。お母さんがつくってくれた下着なんです。大事に履いてたものだったから、本当になくなっちゃったらどうしようかと思いました!随分履き古してるし今は他の下着も増えましたけど、やっぱり大切で捨てられなくて」
シン「いいんじゃねーか。色気がないところがお前らしい」
●●「い、色気があるパンツだって、い、いちおう、今は持ってますよ?」
シン「知ってる」
●●「そういえば、この船に乗った頃、港町でソウシさんがお金をくれて、必要なものを買いなさいって言ってくれて」
シン「ああ。この船は男ばかりでそーゆーのを気にするヤツは少ない。同じものばかり洗っては乾かないまま着ているお前を見て、俺がドクターに…」
●●「え?シンさんが…?」
シン「…何でもない」
シンさんは瞳を逸らした。
今、シンさんがって言ったよね?
もしかしてシンさんがソウシさんに言ってくれたのかな?
あの頃のシンさんは、私に全く無関心って感じで、むしろ邪魔者扱いで。
でも、本当は気にかけてくれてたの…?
シン「気持ちわりーヤツだな。人の顔を見てニヤニヤするな。何でもないって言ってるだろう?」
●●「ニヤニヤなんてしてません!に、にこにこしてたんです!」
キュッ
再び勢いよく流れ出たシャワーが、私とシンさんについた泡を綺麗に落としてくれる。
シン「さてと。綺麗になったな」
泡が流れきると、シンさんはバスタブから出て、丁寧に身体を拭き始める。
もうちょっと、ああしてても良かったのにな…なんてボンヤリ考えていると、
シン「いつまで濡れたままでニヤけてねーで、ほら、とっとと着替えろ」
●●「だ!だから!ニヤけてないですってば」
慌ててタオルで体を拭きながら、シンさんが持ってきてくれた着替えを見ると……
●●「あれ?シンさん。これ、服だけですよ?下着が足りないような…」
シンさんが持ってきてくれた着替えの中には、何度確認しても下着が入っていない。もしかして忘れたのかな?
すっかり新しい服に着替え終えたシンさんは、焦る私の様子なんておかまいなしって顔で、笑顔を向ける。
シン「どうやらお前の下着はどんなお宝よりもトラブルを引き起こす原因になるようだからな。しばらく着けさせないことにした」
●●「そうですね。着けないほうが…って、ええええ!!!ちちちょっと待ってください!着けさせないとか、どういうことですか?!」
シン「どうってそのままの意味だ。俺が許可するまでパンツを履くな。もとから履かなければ洗って甲板に干す必要もないだろう?」
●●「そ、そんな…!」
シン「何を焦ってる?ズボンなんだし気付かれることもねーだろ。●●さえ普通にしていれば、な」
ふ、普通にできる自信…ない…っ!!
絶対モゾモゾしちゃうよ、そんなの!!
シン「そもそも人間は産まれた時は裸なんだ。多少布が減ったからといって死ぬワケじゃない」
何だか船長みたいな言葉をシンさんが言ってる…
茫然とする私を背に、シンさんはシャワールームのドアに手をかけて、振り向いた。
シン「言っておくが、言いつけを守れているかの確認は毎日するからな」
●●「まいにち?!」
シン「当然だ。…クックッ。これでしばらく愉しめそうだな」
●●「へ?!た、たのしむって、ちちよっとシンさ…」
シン「そこの洗った服はちゃんと干しておけ。…今夜は宴だな。着替え終わったら準備だろ?もたもたするなよ」
パタン
無情にもドアは閉まる。
一人取り残された私は、しばらく手にしたズボンと見つめ合っていた。
シリウス事件簿。消えたパンツ事件。
犯人はカモメだったハズだけれど…
この事件で、本当にパンツを消した真犯人は実はシンさんだったりする。