Novel

□シリウス事件簿 消えた■■■
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ハヤテさんとナギさんは身体を甲板に投げ出して寝転んでいる。
ソウシさんはタオルで濡れた身体を拭いていて、シンさんはその隣で黙って濡れたシャツを絞っていた。

ハヤテ「あー…クソ。トワが『犯人はこの中にいる』とかつまんねえこと言いやがって、ワケわかんねえ一日になったぜ」
トワ「す、すみません…でも!一度やってみたかったんですよね!」
ハヤテ「ですよね、じゃねえ!」
ゴツン、とハヤテさんはトワ君を殴る。
トワ「いたた。反省してますよ。で、でも皆さんも『もしかして』とかノッテくれたじゃないですか」

ソウシ「ふふっ。結局犯人はカモメだったって?」
トワ「はい。皆さんが海に飛び込んでいる間、カモメさんから事情聴取をしたら、甲板から●●さんの下着と宝箱の鍵を持ち去ったのはカモメさんで、ほんの悪戯のつもりだったらしいんです。で、すぐにネッタイチョウの大群と遭遇して驚いて落としてしまったみたいで…」
シン「たまたま巨大イカの上に落ちたってことか」
トワ「あのイカさんはここらの海じゃ優しくて有名で、カモメさんの大事な落としものだと思って守ろうとしていただけみたいです。」
ハヤテ「優しくて有名な巨大イカってどんなだよ」
トワ「と、とにかく!無事に下着もカギも戻ってきましたし!」
ナギ「はぁ…イカ刺しの材料は逃がしちまったし…無駄に疲れたな」

ソウシ「おつかれさま。まぁ、ちょっとした水泳大会だったと思えばいいんじゃないかな」
シン「サメの少ない海域で良かったな」
トワ「●●さんの下着を守ろうと勇敢に海に飛び込んだ皆さんを見て、僕、感動しました!シリウス海賊団でよかったなって改めて思いましたし!」
ナギ「そんなことで思われてもな…」
ハヤテ「そーそー。結局オレら何もしてねーし。ロイはイカが勝手に撃退してたし。ソウシさんが活躍したってダケで」
ソウシ「そんなことないよ。今回一番頑張ってくれたのは●●ちゃんだよ。大きなイカに怯えもせず立ち向かったわけだしね」
●●「それは必死で…」

トワ「それにしても●●さんが海に落ちた時はどうなるかと思いました。シンさんが落ちると同時に飛び込んで…」
シン「マヌケに落ちるところが見えたからな」
ソウシ「ホントに、●●ちゃんのことになるとよく見てるよね、シンは」
シン「たまたまですよ」

リュウガ「はっはっは!お前ら全員、今日は●●のパンツの為にいつも以上に頑張ってたみたいじゃねえか」

船長の言葉に、皆は咳払いをしはじめる。

ハヤテ「お、オレは失くしたカギを取り戻そうとしたダケだしっ」
シン「…俺も貴重な宝箱の鍵が心配だっただけです」
ナギ「泳ぎの練習をしたかった…」
ソウシ「●●ちゃんが困ってるなら力になるのは当たり前です。●●ちゃんは大事な仲間だからね」
ハヤテ「そーそー!シリウスは仲間が大事なんっすよね!別に●●のパンツじゃなくて例えアレがトワのパンツでも頑張って取り戻すよな?な?ナギ兄!」
ナギ「……いや、俺は無理だ」
ハヤテ「げっ。裏切り」
ソウシ「う〜ん。私も無理かな」
ハヤテ「ソウシさんまで!ちょっとくらい合わせてくれてもいいじゃないっスか…」
トワ「えっ!もし僕のパンツが無くなってもハヤテさんしか取り戻すの手伝ってもらえないんですか?」
ハヤテ「いや、やっぱ俺もムリ!」
トワ「ええ〜」

リュウガ「そりゃ奪われたのが女の下着だってわかってっから取り戻す甲斐もあるってもんだろ。野郎のがぶら下がってても面白くもなんともねーな」
ハヤテ「しっかし●●、お前もっと色気あるパンツ履けよな」
●●「い、いいじゃないですかっ。あれ…気に入ってるんです」
リュウガ「俺が特別色っぽいのをプレゼントしてやろうか?」
ソウシ「ははっ。船長の部屋にはありとあらゆるタイプの新品の女性の下着が置いてあるからね」

●●「な、なんでそんなものが…」
ナギ「きかねーほうがいい」
リュウガ「どうしても聞きたいってんなら、たっぷり教えてやるけどな」
●●「いえ結構です…」

みんなの笑い声が溢れるなか、黙って座っていたシンさんが突然すくっと立ち上がった。

私を見下ろして――

シン「●●、お手」
●●「…へ?」

差し出された右手に、ついついパンツを持ったままの右手を差し出す。

がしっ
突然パンツごと手を掴まれて。

シン「せっかくの洗濯物がドロドロだ。洗い直しだな。ちょっと来い」
●●「は、はい…」

ハヤテ「はじまったぜ。シンの陰湿説教タイム」
●●「えっ…?えっ?説教?!あのっ…?」
ナギ「●●、頑張れよ」
ソウシ「シン、あんまり怒っちゃだめだよ。●●ちゃんは被害者なんだし、無事にパンツもカギも戻って来たことだし」
リュウガ「ま、これにてイッケンラクチャクってか」
トワ「違いますよ船長。僕の知っている探偵のお話だと最後は『謎は解き明かされた!』ですよ」
リュウガ「ん?で、なにが謎だったんだ?」
トワ「あれ?何でしたっけ?」
ハヤテ「まぁ、もういいんじゃね?風が気持ちいいな。このまま甲板で眠りてー」
ナギ「少しだけなら付き合うか。そのうち濡れた服も乾くだろ」
リュウガ「たまには甲板で陽が落ちる前から皆で酒呑んで寝ころぶってのも悪くねえな。トワ、酒持ってこい」
トワ「は、はいっ」
ソウシ「たまには、じゃない気もするけど…いいか。うん、たまにはね」

●●「し、シンさんっ…私も皆さんと一緒に甲板に…いたいなっ…とか」
シン「……」
無言のまま、シンさんは振り返ってジロリと私を見た。

ひィッ…!
これは不機嫌な時のシンさんだ…。

●●「ああっ!!そうですよね!洗濯物を先に済ませておかないといけませんよね!」

とほほ。
皆の愉しそうな笑い声を背に、私は特別不機嫌そうなシンさんに連行されてゆくのだった。

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