Novel

□シンさんの弱点
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ナギ「シンの弱点?」
●●「はいっ」
ナギ「さーな」

う…会話が終わってしまった…。

●●「な、ナギさぁん。何か一つくらい知りませんか?」
ナギ「別に特に苦手な食いモンはねえしな」

確かに。
シンさんの好きな食べ物はキャビアらしいけれど、嫌いなものって聞いたことがない。

ナギ「ただ…」
●●「ただっ?!」
ナギ「『不味いものは嫌いだ』とよく言ってるな」

い…言ってる。
眉間に皺寄せたりして、すっごく言ってる。

バレンタインに手作りチョコレート渡したときも、『俺に食べさせようって言うんだから勿論美味いんだろうな?不味かったら食わないからな』って言われたし!
全部食べてくれたから不味かったわけじゃないのかもしれないけど『フン、悪くない』しか言われなかったし!
結局、チョコよりお前の方がいいとか何とか言われて…モゴモゴ…


ナギ「だからお前も料理の腕をあげておいたほうが…っておい、聞いてるのか?」
●●「へ?」
ナギ「ったく、何でシンの弱点なんて探してるんだよ」
●●「だってこの間だって、タオルをこういうふうに私の届かない所に持ち上げて意地悪されましたし、昨日の夜だって寝言がうるさすぎるってベッドから蹴り落とされて…!だからっ!シンさんをギャフンと驚かせてみたいなと思って!」

ナギ「余計、というかムダなことはしないほうがいいんじゃねーのか」
●●「いいえっ!絶対に見つけてみせます!ソウシさんにも聞いてみますっ」
私は意気込んでキッチンを飛び出した。





●●「あれ?ソウシさんいないんだ」
医務室にソウシさんの姿はなかった。
ハヤテ「ドクターなら船長に呼ばれて部屋に行ってるぞ。」
トワ「しばらく帰ってこないと思いますけど、何か用ですか?」
●●「ううん。急ぎの用じゃないから大丈夫。何してるの?」
トワ「ソウシさん特製の薬の調合の準備を手伝ってるんです。このトカゲのしっぽを細かくすりおろして…」

ええっ?!
この間お薬を飲ませてもらったけれど…
そんなものも中に入ってるの…??

ハヤテ「わっ!トワ!カエルの胃袋がこっちに飛んできたじゃねえかっ!!もっとゆっくり掻き混ぜろよなっ」
トカゲのしっぽにカエルの胃袋?
ゴクリ。これはっ!
使える…かも?!



●●「あの…シンさんって、こういうグロテスクなものが苦手ってことは…」
トワ「シンさんが?う〜ん。聞いたことないですね。薬に何が調合されてるか知ってると思いますけど、いつも普通に飲んでますよ」
●●「そっかぁ」
がっくりと肩を落とすと、ハヤテさんが楽しそうな顔をした。

ハヤテ「もしかしてシンの弱点を探してるのか?」
●●「はい。ハヤテさん何か知ってますか?」
ハヤテ「知ってたらとっくに俺をバカ呼ばわりするあの態度を何とかしてるっつーの」
●●「はぁ。苦手な食べ物はないみたいだし、全然思いつかないや…」

トワ「●●さん!僕、尊敬します!」
●●「え?どうして?」
トワ「だってあのシンさんの弱点を探そうなんて、ものすごく勇気ある行動だと思います!勇者です!!」

ゆ、勇気ある行動?!勇者?!


トワ「もしシンさんに弱点があったとしても絶対僕たちには気付かれないようにしてるだろうし、砂漠に埋もれたお宝を探すより難しいかもしれないです!」

砂漠!?そ、そこまでっ…?!


トワ「僕、この船で一番怖いものが無さそうな人ってシンさんじゃないかと思うんです」
●●「怖いものが無さそうな人かぁ。確かに、シンさんが怖がりそうなものが思いつかないもん」
ハヤテ「はぁ?!じゃあシンが最強だとか言うのか?」
トワ「いいえ。一番強い人はもちろん船長です。」
ハヤテ「俺じゃねえのかよ?!」
●●「怖いものが無さそうと言えばソウシさんも無さそうかな」
トワ「あ、でもこの間、『女の子を泣かせてしまうのは怖いかな』って言ってましたよ。ソウシさんは、この船で一番本気で怒らせちゃダメな人、ですかね」

うーん。
普段にこやかな人が本気で怒ると怖いっていうし、そうかもしれない。

●●「でもナギさんも怒らせたら怖いよ。ご飯抜かれちゃうもんね。」
トワ「そうですね。この間ハヤテさんと僕がナギさんを怒らせて晩御飯を抜かれましたけど、反省した頃にちゃんと夜食を用意して待ってくれてたりするんです。ナギさんは世界で一番おいしい料理が作れる人だと思います!」
ハヤテ「おいトワ。ところでさっきから俺はムシかよ?!じゃあ俺は何なんだよ?!」
トワ「うーん。ハヤテさんは……一番先に行動に出る人、かなぁ」







ハヤテ「っつーことで●●!部屋をノックしてシンが出てきたら、トワがこの蛇をシンに投げつけるからな!●●はノックしたらすぐに横によけるんだぞ」
●●「ハヤテさん…。これって弱点探しっていうより…いたずらって気がしないでもないような…」

実は蛇が触れないハヤテさんの代わりに、トワ君が蛇を握りしめている。
トワ「そうですよ〜…やめましょうよ。絶対シンさんに怒られますよぉ」
ハヤテ「シンにあとで怒られるかもしれねえのと、今ここで俺に殴られるのとどっちを選ぶんだよ!?」
トワ「どっちも嫌ですけど、ハヤテさんいつも後先考えずに行動起こしちゃうから…」
ハヤテ「トワ、シリウスの特攻隊長に意見しようってのか?!」

ゴンッ
ハヤテさんがトワ君を小突いた。

トワ「いたっ!結局殴るんだもんなぁ」
ハヤテ「いいから早くやろうぜ!シンが驚く顔が見ものだなっ」

こんなことで本当にシンさんが驚いてくれるのかな…。
不安な気持ちを胸に、部屋をノックする。


コンコンコンコン


シン「誰だ?」
●●「あのぅ、私ですけど…両手が塞がっていてドアが開けられないので開けてもらえませんか?」
シン「………」

少し沈黙があったあと、シンさんがドアに近づいてくる足音が聞こえた。


ガチャ

がしっ

●●「えっ?!シンさん?!」
シンさんの腕が私の身体をぎゅっと捕まえた。

ハヤテ「トワ!今だ!」
●●「えっ!トワ君ちょっとま…きゃああああああ!!!!」

トワ君が勢いよく投げた蛇は、シンさんに捕まえられて動けない私の頭の上に乗り、目の前に蛇の長い胴体がぬるぬると動いている。
●●「へ、へびがぁっ!!いっ、いやああ!!と、取ってくださいっ!!!シンさぁん!!」

シン「聞こえないな。両手が塞がってるんだろ?取って欲しければお願いしてみろ」
シンさんが私の両腕をがっちりと抱きしめてしまって身動きが取れない。
ひたひたと蛇の身体が顔にあたる。

●●「は、はやくっ!!お、お願いしますっ!!」
シン「しょうがないヤツだな」
シンさんが蛇を掴んで、それからぽいっと投げた。

ハヤテ「うわあああ!こっちに投げるんじゃねえよ!!」
慌てたハヤテさんの隣でトワ君がようやく蛇を捕まえた。

その側にへたへたと座り込むと、シンさんは私たち3人を見て冷たい声で言い放った。

シン「バカか、お前ら」
そのままパタン、とドアが閉まってしまう。


トワ「どうするんですか?シンさん、絶対怒っちゃいましたよ」
●●「ううん。怒ってるというより、呆れられていたような…ものすごいバカにした目で見られたような…」
ハヤテ「バ、バカだとー?!もう一度いってみろよ!!おい、開けろ!シン!」
ハヤテさんがドンドンとドアを叩いた。

ガチャ

再び突然開けられたドアに、勢いよく叩いていたハヤテさんはバランスを崩して部屋の中に倒れ込んだ。

ハヤテ「いって!急に開けんなよ!」
シン「お前が開けろとうるさいから開けただけだろ。ったく、お前らがいると騒がしくて部屋でゆっくり本も読めやしない」
そう言ってシンさんはさっさと階段を上って行ってしまった。

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