Novel

□SiriusBoeki
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SIRIUS.BOEKI@ホワイトデー【Heroine】

3月14日。
今日は総務の仕事が早めに片付き、いつもより早くシステム開発部に向かう廊下を歩いていた。

あ、シンさんだ!
声を掛けようとして、一足先に見知らぬ男性がシンさんを呼び止める。

「シン、注文の品だ。何とか間に合って良かった」
「ああ。無理言ってすまない」
「手に入れるのに苦労したがお前には色々借りがあるからな。しかしあのお前が女への贈り物探しとはな。」
「…いいから渡せ」
それはロイヤルブルーの箱に白いリボンがかけられていた。

「有名ブランドのレア品探しなんて、相当大事な女なんだろう?」
「…まぁな」
「シンがそこまで執心とは、このサングラスが良く似合う凄い美女なんだろうな」
「お前…知らないのか?」
「何がだ?」
「いや…そういえばお前は海外支社から帰ってきたばかりだったな」
「そうだ。だからこっちでは手に入らないコレを探して欲しいと俺に連絡してきたんだろ?」

「…ああ。金は足りたか?」
「充分だった。釣りは…」
「取っておけ。その代わりこの話は他言無用だ。わかったな」
「じゃ遠慮なく。また来週から海外だから予定が合えば飲みに行こうぜ。お前の女も紹介してくれ」
「そうだな」
その男の人がこっちに歩いてきそうになって、思わず壁の隅に隠れる。
男の人は私に気付かず通り過ぎて行き、シンさんも開発部のデスクへと戻ったみたい。

今日はホワイトデーだ。
…もしかしてアレは、私へのプレゼント?
シンさん…サプライズしてくれようとしてるのかな。

「サングラスって言ってたよね…」
私に似合うとは思えないけど、シンさんが選んでくれたのかな?
だとしたら、すごく嬉しい。
これは知ってても知らないふりしてるほうがいいよね!


「ただいま到着しましたっ!」
ノックをした後デスクへと入ると、シンさんは眉を顰めた。
「何だ。上機嫌だな」
「え?そんなことないですよ〜!」
「いいことでもあったのか?」
多分これから起こるんです!
「何でもないでっす!」
「ニヤケた顔してないで、さっさと席につけ」
「ニヤケてませんよ〜!全然!」
「…」
シンさんにじろりと見分される。

「まぁいい。今日は用がある。さっさと仕事を片付けるぞ」
「は、はい!」
今、用があるって言ってたよね。
まだ誘われてないけど、終わったら一緒にってことだよね?
よーし!仕事頑張ろうっ!




山積みだった仕事はみるみる片付いていき、ようやく終了時刻になった。
ドキドキしながらシンさんを見ると、帰り支度をし始めたシンさんは耳を疑うような言葉を言った。
「今日はここまでだな。俺はもう出る。お前も早く家に帰ってろ」

え…?

『大事な女』への贈り物だと言っていたロイヤルブルーの箱はシンさんのトレンチコートのポケットからのぞいたまま。
バタン、とドアが閉まり、シンさんは慌ただしく出て行ってしまった。

あれ?私へじゃない…???





……そっか、私じゃなかったんだ。

ホワイトデーだからって。
恋人だと言って貰えてたからって。
自惚れていたのかもしれない。

「あはは。やっぱりサングラスなんて似合わないよねぇ…」
そう呟いた途端、
「それは似合いそうにねーよな」
声がして、振り返るとハヤテが立っていた。

「ハヤテ!」
「ホワイトデーに一人かよ」
「う…うん。シンさんは用があるから」
「何だよ、用って。恋人放っておいて冷てーヤツだな」
「ち、違うの。きっと凄く大事な用事でっ」
「ナニ泣きそうな顔で言ってんの?」
「ハヤテ…」

どうしてこんなタイミングで来てくれたんだろう?

「たまたまディスク取りに来たらお前が泣きそうな顔で突っ立ってたから。ほら、行くぞ」
「え?ど、どこへ?」
「YAMATOでいい?甘いモン食わしてやる」
「な、なんで?」
「だからっ!今日ホワイトデーだろっ」
「でも私、今年はハヤテにチョコあげてない…」
「…っ。オマエなぁ、オレが貰ってねえから奢らねえとか小さい男だと思ってんの?あんまイベントとか好きじゃねえけど、たまたま甘いモン食いたい気分だからついでに奢ってやるっつってんの」
「うん。ありがとう…」
気を遣ってくれてるんだ。
ハヤテに気を遣わせちゃうほど、私は悲しそうな顔してたのかな。


会社の近くのカフェYAMATOはカップルで混み合っていた。何とか待つことなく席に着く。
入口に花が沢山飾ってあって、とっても可愛らしい。
「ハヤテ。あの花綺麗だね」
「花は食えねえし」
「食べられないけど、すごく可愛いブーケだよ。見てるだけで癒されちゃう」

「それよりあれスゲーな!」
ハヤテが指差した方向には大きなパフェを食べているカップルがいた。
張り紙を見ると、期間限定メニューで≪カップBIGパフェ≫というみたい。
「すごい大きいサイズみたいだよ」
「あれにしよーぜ!」
「本気?あんなに食べれないよ」
「あのパフェ頼んだらブーケプレゼントって書いてるぞ。花もらえるんじゃねえ?欲しくねえの?」
「欲しいけど…」
「大丈夫だって。お前食わなくてもオレが食うし!」

運ばれてきたパフェはかなりボリュームがあって、大きなハートホワイトチョコが乗っていた。
「こちらのカップルパフェのハートはカップルさんに両側から食べていただくことになります〜」
「「え゛っ!!?」」
ハヤテも私も思わず聞き返す。
「両側から食べていただいて、男性が食べた面積が大きければケーキもう一品サービス。女性が大きければプチブーケプレゼントしています!」

ちらっとハヤテを見る。
「とととりあえずやってみるか?ほら、途中でやめりゃいいんだろ!」
「す、するのっ?!」
「オレだってやりたくねーけどっ!お前がいっぱい食えばほら、アレもらえるんだろ」
「そうだけど…」

「さ、どうぞ〜!」
店員さんの掛け声と同時に、チョコの端をかじる。
ハヤテと顔が近い。恥ずかしすぎる…
気のせいかハヤテも顔を赤くしてる。
「も、もういいですか…?」
ハヤテは全然食べてないから、私の食べた部分が大きかった。
「はい。おめでとうございます。ブーケプレゼントです。幸せなホワイトデーをお過ごしください〜」

店員さんが去った後、真っ赤になってるハヤテとしばらく沈黙になる。
「ありえねーくらいハズかった」
「だ、だから無理しなくてよかったのに。でもありがとう。ふふ。店員さん、絶対私とハヤテがカップルって勘違いしてたよね」
「…」
「ごめんね。ハヤテだって結構モテるのに、私を励ますためにせっかくのホワイトデーに付き合ってくれて、ありがとう。ブーケ大事にするね!」
「…お前さ、アイツでいいのか?」
「へ?」
「あんな冷たいヤツ…」
ハヤテが視線を逸らす。

「ううん。シンさんは意地悪だけど凄く優しいよ。あ…でも、もしかしたら私は振られちゃったのかもしれないんだけど」
「何だよソレ」
「私より大事な女性がいるんだったらショックだけど…うん!でもシンさんの一番になれるように頑張る!」
「はぁ?浮気現場見たのかよ?」
「違うけど、高級サングラスをプレゼントする大事な女性がいるみたいで…」
「ったく、スッキリしねえな。よし!アイツに聞け」
「えっ?シンさん出ちゃったし」
「電話あるだろ」
「だだ駄目だよ!忙しいかもしれないし」
「怖いからって逃げんなよ」
「…」
「オレから見て、アイツはお前の事に異様に執着してるふうだった。他の女に声かけられてんのも見たことあるけど、ちゃんとお前がいるって言ってたみたいだしな。だから信じろよ。お前が好きになったヤツなんだろ」
「ハヤテ…」
「ってなんでオレ、あんなヤローのフォローしてやってんだ。大体、いつも直球のお前がらしくねーからだよ!」
「わ、わかった。聞く!」


プルルルルッ
呼び出し音が響いて、すぐにシンさんが出て、勢いにまかせて言う。
「シンさんっ!質問がありますっ!」
「何だ、唐突に。それよりお前、今何処にいる?」
「え?私はYAMATOにいますよ」
「ったく、家に帰ってろって言っただろう」
「シンさんはどこですか?」
「お前の家の近くだ」
「え?どうしてっ?!」
「用事が終わったから寄ったんだ。今からそっちに向かうからそのままそこにいろ」
「は、はいっ」

電話を切ると、ハヤテは席を立った。
「え?まだパフェ食べてないよ…?」
「わりー。仕事に戻るわ」
「こんなに食べきれないしっ」
「どーせあのヤローが来るんだろ。一緒に食えばいい。これをお前と食うのはやっぱオレじゃないんだろーし」
「シンさん甘いもの食べないと思うけど…」
「それくらい我慢して食えっての。ま、肝心のハートのトコはオレが食っちまったけど、それくらい仕方ねーよな。自業自得ってやつ」
「うん?」
「ったく、さっきまで泣きそーだったヤツが嬉しそうな顔しやがって」
「…してる?」
「やってらんね。じゃあな」
「は、ハヤテっ!!」
「ん?」
「ありがとうっ!!」
ハヤテは何も言わずにひらひらと手を振って出て行った。



思いのほか早くシンさんは到着した。
「何でこんなトコでそんなデカいパフェを食ってるんだ、お前」
「えっと、イロイロありまして。とりあえずアイスがかなり溶けてきてるので食べませんか?」
「…」
シンさんは珍しくスプーンを手に取ってクリームを口に運んだ。
「甘いな…」
「パフェですし」

数分後、
「もう食わない」
シンさんはパフェを半分食べたところでスプーンを置き、コーヒーで流し込む。
「よくそんなにバクバク食えるな」
「意外とあっさりしてるし大丈夫ですよ!」
「そうか。なら…」
シンさんがスプーンですくってくれて、口へと運んでくる。
「えっ!?」
「ほら口をあけろ。食わせてやる」
「は、はずかしいっ」
「ただ食ってるのを見てるよりも、辱めて食うのを見てるほうが俺も愉しめる」
「いえあの…パフェは辱めながら食べるものじゃないんじゃ…?」
「いーからいう事を聞いておけ」
「う…」
シンさんにアーンとされるのは嬉しいけど、すごく恥ずかしい。
心なしか周りの目も気になるし…

ふとトレンチコートのポケットにロイヤルブルーの箱が無いことに気付く。
渡してきたんだ…きっと。
「どうした?進まなくなったな」
「…あの…私見たんです。その、シンさんが廊下で男の人と話しててブルーの箱を…」
「まさかサングラスのことか」
コクコクと頷く。

「…なるほどな」
シンさんは納得したように溜息をついた。
「大事な女性に贈るためだって…」
「それはアイツが勝手に解釈したんだが、まぁ女物の派手なサングラスだしそう思うのが普通なんだろうな。で?お前はどう思った?」
「えっと、シンさんに他に大事な人がいるなら、ものすごくショックですが…私なりに精一杯頑張ろうかなって…思います」
クスッとシンさんが笑う。

「馬鹿か、お前は。お前以外に大事な女なんているか」
「ふぇッ?!!」
驚き発言すぎて変な声が出てしまう。
「寝惚けたことを言ってると痛い目にあうぞ」
頬をつねられる。
「いたたっ…!もうあってますっ」

シンさんは懐から手帳を取り出し、一枚の写真を見せてくれる。
そこには黒髪の綺麗な女性と、優しそうな修道着姿の年配の女性、そして小さなシンさんが写っていた。
「俺と母、そして近所のシスターだ」
「シスター?」
「俺の母親代わりみたいなもんだ」
シンさんのお母さんはシンさんが17くらいの時に亡くなったんだっけ…

「口うるさいが色々世話になったしな。イベント好きなんだ。毎年バレンタインに何かしら送ってくる。で、ホワイトデーに欲しいものを書いてくる。今年は農作業する際にサングラスが欲しいってな。長時間かけても痛くないものじゃないと駄目だとメーカーまで指定された。そのうえ直渡しじゃないと受け取らないときてる」
「…大変なんですね」
「ああ。あの人だけは容赦ないな」
シンさんは少し嬉しそうに微笑んだ。

そっか。
大事なひとなんだなぁ。

「お前もそのうち会わせてやる」
「え?いいんですか?」
「俺はイヤだが、会わせろとウルサイからな」
ふふ。
シンさんでも頭があがらない相手なんているんだなぁ。
それを教えてもらえることに、嬉しくなる。

「急いで渡した後にお前との時間を作ろうと思ってたんだが、家に帰ってないとはな。大体こんなカフェで誰と居たんだ?」
「そ、それはその…」
「言えない相手か?」
ハヤテとって言ったらシンさんは怒りそうだけど…
「まぁいい。誤解させて悪かったな」
「い、いえっ」
「たとえ誰と居たとしても…」
スッとシンさんの手が頬に伸びてくる。

「俺は、お前が俺以外を選ぶなんて思っていない。これっぽっちもな」
「じ、自信満々ですね…」
「違うのか?」
「ち、違わないですっ」
「よし。いい返事だ」

シンさんは満足げに微笑んだ。
その笑顔が嬉しくて、
ホワイトデーの夜に。
特別素敵なプレゼントを貰った気分になる。


「お前がパフェを食い終わったら、わからせてやる」
「何を…ですか?」
「俺がお前以外を選ぶなんて有り得ないってことをだ」
「っ!」
「たっぷり堪能させてやる。だから早く食え」

妖艶な微笑みに、
「それってまさか…?」
「そーゆーことだ」
「ご、ゴホゴホッ」
思わずむせてしまう。
「何をむせてんだ。いい加減慣れろ。というか俺を待たせるな。5秒以内にたいらげろ」
「む、むりっ」

パフェを早く食べ終えてしまいたいような、食べ終えてしまうのが怖いような気持ちで。
スピードが速くなるシンさんのアーンをただひたすら受け入れるのだった。


end★


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