Novel

□SiriusBoeki
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SIRIUS.BOEKI@社員旅行2【Shin】
「寝不足かな?顔色が優れないね」
「ソウシさん…」
デスクで画面と向き合っていると、珍しい人物が顔をのぞかせた。

「ランチをどうかと思ってね。ほら社長も旅行中だし静かで慣れなくて。仕事上でシンに意見を聞きたい話も幾つかあるしね」
「わかりました。1分だけ待って下さい」
俺も丁度、旅行の件を誰かに確認したいと思っていたところだ。
手早く片づけを済ませると、ソウシさんと一緒に近くのカフェへと向かう。

「そっちも静かなんじゃない?●●ちゃんが居ないシステム部はどうかな?」
「仕事がはかどりますよ」
「ふふ。そういうことにしておこうか。温泉かぁ。良いなあ。私はアポイントがあって今回は行けなかったから次回…そう。多分システム部と一緒なんじゃないかな」
「俺達もあるんですか?」
「聞いてないのか?全部署が順番に回ってくるよ」
「俺は欠席します」
「それは困ったな。商品開発部の部長が是非一緒にゆっくり語りたいとシンを指名してたし」
「社員旅行に指名なんてシステムはありません。仕事の話ならデスクで聞きますが」
「ほら、常に世界中を飛び回ってるから普段は不在だろう?社員旅行でシンと是非ゆっくり話したいってことだったし。開発業務の面白い話も聞けるよ、きっと」
「…そうですね」
それは今後の為にも会っておいた方がよさそうだが…そんなヒマがあるなら仕事をしていた方が良い気もする。


「ところで今回はどんな温泉に行ってるんですか?」
用意していた質問を不自然にならないように注意を払いつつ、取り出す。
「ん?●●ちゃんに聞いてないの?」
「ええ。気に留めてなかったので。前日に旅行だという事も知りましたし」
俺も社内行事には興味がないため疎い方だ。
あいつがウッカリした奴だということは解っていたが、まさか前日に言いだすとは思わなかった。いや、それとも俺の機嫌を損ねない為にぎりぎりまでわざと黙っていたのか…?
機嫌を損ねるようなことを楽しみにしていたとか…?それこそマサカだ。

「私の古い知り合いの旅館だよ。海の近くにあってね。海を眺めながら温泉に入れるんだ。内風呂も種類が多いけど、海が見えるお風呂は混浴だったかな。だから社長が張り切っちゃって即決だったんだ」
…チッ。やはりか。

「あれ?今舌打ちしなかった?」
「いえ。秘書課も引き連れてですから社長も愉しんでるでしょうね」
「そうだね。●●ちゃんが混浴を無理に勧められてないといいんだけど」
「ちゃんと教育していますから断るでしょう」

そうだ。アイツが俺以外の誘いを受けるわけがない。
なのにどうしてナギがあそこで…

プルルルルッ

思考を遮るように俺の携帯の着信音が鳴る。
アイツだ。
「私に構わず出ていいよ。●●ちゃんだろう?」

…本当にこの人の洞察力は侮れない。
すぐ切るつもりで、ソウシさんに断って電話にでる。
「何だ?」
「もしもしっ!シンさんっ!!わ、私パンツ忘れてませんでしたかっ?!」
「…いきなりどうした?昨日忘れ物したってお前が言ってたんだろう」
「ちち違うんですよっ。忘れてたと思ってたのはブラシとか入れてたポーチだったんですけど、違くて!ぱ、パンツが無くてっ」
「落着け。それは俺が持ってる」
「ぎゃー!や、やっぱりっ!は、はずかしすぎるっ…その、ごめんなさいっ!!変なもの忘れちゃってっ!でもそれ新品ですからっ!!」
…本当だ。おかげでこっちは…いや、それはもう済んだことだ。
「まだ新品でよかったのかもな」
「へ?」
「何でもねー」

目の前でニコニコしているソウシさんに対してバツが悪くなり、俺は席を離れた。
そして昨夜の俺の寝不足の原因の真実を追究すべく質問を投げる。

「…お前、混浴には入ったのか?」
「へ?混浴?あ!海の見える温泉ですか?入りましたよ〜!」
「へえ」
思いの外、俺の返答の声は低くなった。

「…あれ?シンさん怒ってます?」
「怒ってねーよ。ナギと仲良く入ったんだろう?俺はそんなことで怒るほど度量の狭い男じゃない」
「や、やっぱり怒ってません…?あの、混浴だけど女の子だけで入ったんですよ?」
…女だけで?

「ええと。社長からは一緒に入ろうって言われてたんですけど、総務の女の子達とはやっぱり混浴は恥ずかしいねって話してたら、ナギさんとハヤテさんが外で見張りしてくれるとの事だったので、人が少ない時間帯に女性だけで入ったんです。すっごく見晴らし良かったですよ!」
「見張りじゃなくて覗きじゃねーのか」
「まさか!二人はそんなことしないですよ。中には一緒に入りたいっていう女の子もいたんですが、ハヤテなんて女と一緒に風呂が入れるかって真っ赤になって怒鳴りだして」
混浴は女と入るモンだろう?
何を言ってるんだ、あの脳味噌小5野郎は。
「ナギは…まぁ女達にキャーキャー言われても入るタイプじゃなさそうだな」
男なんだから悪い気はしないのは確かだろう。クールぶってるがムッツリなのは間違いない。
「ふふっ。不機嫌そうにしてたから機嫌損ねちゃったのかなって皆で話してたんですけど、ハヤテさんと二人で外でお酒飲みながら待っててくれたみたいで」

…そうか。
それなら許してやらないこともない。

「でね、シンさん。お風呂の準備してた時にパンツ一枚しか持ってきてない事に気付いて焦っちゃって!海の近くの温泉宿で周りはコンビニもないんです…今日お風呂の後に履くパンツどうしよう…」
「なら履くな」
「え?」
「無いんだろ。履かないで帰ってこい」
「だ、だって明日…スカートだし…」
「明日は休日だが、夕方には会社にバスが着くんだったな。迎えに行ってやる。」
「し、シンさんが迎えに来てくれるんですか?!」
「ああ。お前が履いてないって言うなら面白そうだ」
「そんな…面白がらないで下さい…そうだ!恥ずかしいけど旅館の人に聞いたらパンツ売ってるかも…」
「買わなくていい。じゃあ明日な」

そのまま有無を言わさず携帯を切る。

アイツはきっと、言いつけを守るだろう。
フン…明日は楽しめそうだな。

誤解とはいえ俺の睡眠時間を妨害した罰として、たっぷり遊んでやる。
俺は上機嫌でソウシさんの元へと戻った。




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