Novel

□SiriusBoeki
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SIRIUS.BOEKI.@会社【Heroine】
太陽の光が頬に触れて目が覚めると、目の前には海が見える。

「…ん…まぶし…」
ベッドから起き上がろうとして、後ろから廻された腕がきつく私を縛りつけているのに気付く。
身体をそうっと反転させると、目の前にはシンさんが眠っている。
昨日のことを思いだして一気に肌が熱くなる。

フロア、バスルーム、ベッド――

結局ずっと離してもらえなくて眠りについたのは明け方だった。
「よく眠ってるなぁ〜」
ずっと仕事が立て続けにあったし凄く疲れているのかもしれない。
そして…こんなにゆっくりシンさんを観察できるチャンスはまたとないかも?!

実は少し癖のある柔らかい髪。滑々した白い肌。漆黒の長い睫毛に、通った鼻筋。
朝陽を浴びて眠るシンさんは見れば見る程に綺麗で、見とれてしまう。
こんな素敵な人が恋人なんて、いまだに信じられないくらい…。

パチッ
突然シンさんの切れ長の瞳が開かれた。
「うわ!お、おはようございます…!」
見入っていたの、気付かれちゃったかな。
「顔むくんでるぞ」
「えええっ!」
慌てて頬を押さえると、
「ま、寝かせてないからしかたねーか」
おでこにチュッとキスをされる。
「わわっ」
恋人らしい展開に今更ながら照れてしまって緊張する。

シンさんは気にする様子もなく私の身体をふわりとシーツで包んで、
「シャワーでも浴びるか」
と抱き上げた。
「あ、歩けますよ…お、重いですし…」
そう言っておろしてもらおうとするけれど、
裸の腰をひと撫でされると、
「ひゃっ…」
と小さな声が漏れて体に力が入らなくなる。

「ほら見ろ。無理をさせたからな。この状態で歩けるわけねーだろ。大人しく運ばれていろ」
確かに内腿がまだガクガクしていて力が入らないけど…

シンさんの首元に腕を廻して顔を埋めると、いい香りがする。
シンさんの匂い。
「何をクンクンしてるんだ。犬かお前は」
「だって、いい匂いがしますよ」
「フン。お前の方がいい匂いがするけどな」
抱き上げたまま、シンさんも私の耳元に顔を寄せた。

「そのうち…」
「ん?何だ?」
「一つに溶けて…いつか同じ匂いになれるといいな」
心に灯った言葉をそのまま告げると、シンさんが優しく微笑んだ。

「当たり前だろう。これからずっと…心にも身体にも、スキマなんて与えないほど染み込ませてやる」
そう言ってシンさんは深いキスをくれる。

今日がお休みだからいけないのかもしれない。
バスルームはすぐ目の前なのに。

そのたった数歩が惜しいほどキスに夢中になれるなんて―――







翌日。

はぁ〜。
結局シンさんの家で週末を過ごして今朝はそこから出勤になっちゃった。
会社の廊下を歩きながら、思い出してまた顔が赤くなる。
だって本当に離してくれないし…

お休みの日も一日中、部屋の中で、色んなところで…!!

「お。いたいた、総務のビーナス!」
そうやって私を呼ぶのは…
「リュウガ社長!」
「そういや今は総務じゃなくてシステム開発部だったか」
「どっちもですけど…」
リュウガ社長がじろじろと見てくる。

「な、何ですか…?」
「やっぱり秘書課にこねえか?」
「えっ!これ以上掛け持ちなんて身体がもちませんよ…!」
「ハッハッハ!まぁ考えておけ。俺の側で働きたいならいつでも大歓迎だぞ。しかししばらく会わねえうちに随分色っぽくなったじゃねえか!」
「色っぽく?!」
「ん?いやソウシがな。お前がますます綺麗になったから良い恋をしてるのかもって言ってたからな。ちょっと見てやろうと思ってな」

ソウシ専務、そんなこと言ってたんだ。
シンさんとのことは何故か広まっちゃってるし、会社内のことは全て把握しているソウシ専務だから知っているのかもしれない。

「それで私を探してたんですか?」
「ああ。しかし、あのシンが愛を知るとはなぁ。いや〜メデタイ!実にメデタイぞ!」
「愛ってそんなっ…」
改めて言われると恥ずかしくなる。

「本当に色っぽくなりました?」
「ああ。なってる!専属秘書にしたいくらいな!」
リュウガ社長にそう言われると、少し自信が出てくる。


「色気だと?調子に乗るな」
後ろから突然声をかけられる。

「シンさん!」
「お前、昼一でディスクを取引先に届けに行く予定だろ。何をボケッと油売ってるんだ」
「あっ!!す、すみません!!すぐ行ってきます!!!」
「社長も今は社内会議の時間でしょう。こんなところに居たらソウシ専務に怒られますよ」
シンさんがじろりとリュウガ社長を見る。

「ん?ああ、しかたねーな。戻るか。おい、ビーナス」
「は、はい?」
「取引先に行くなら、首元についたシンのマーキングを隠していくんだな」
社長は笑いながら去って行った。

「えええ!まーきんぐ?!」
「フン。こんな場所にあるって気付くのは社長くらいだろ」
私の制服の襟元を、シンさんがぐいっとめくる。
「ひゃ!」
露わになった首筋をじっと見つめてから、シンさんが意地悪そうに微笑んだ。

「見せるからマーキングの意味があるんだ。そのまま行って来い」
「へっ?!だ、だって。誰かに見られたら困りますっ…」
「グダグダいう暇があったら早く届けて来い。今日は休み明けで忙しいんだ。戻ってからこなす仕事も山ほどある」
「は、はいっ!!」
「ついでに帰りに営業課に寄ってこい。ナギのチームから新しいシステムの希望が出てるから資料を取ってくるんだ」
「え?営業課にも…いくんですか?」
「もちろんだ。返事は?」
「はいっ!!」
「ちゃんと遣いができたら後で褒美をやる」
「…ご、ご褒美…!ちゃんと行ってきますっ!」
「それから…お前の色気は俺だけが理解していればいいことだ。…以上だ」

シンさんは私にディスクの入った封筒を渡してから、くるりと背を向けてシステム部へ戻っていった。

週末からの甘さは嘘みたいに仕事中のシンさんは全然甘くない。
意地悪さも強引さも厳しい言葉も、相変わらず和らぐ様子もない。
けれど、だからこそ大好きで。
だからこそ側に居たいと思う。

そしてきっと…厳しく躾けられた後のご褒美は格段に甘くなる――

「はぁ〜…どうかハヤテやナギさんが気付きませんようにっ…」
首筋を抑えながら、私は足早に廊下を歩いた。

*END*


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